終了間際に矢野が決勝ゴールを挙げる<br>【photo by Kiminori SAWADA】

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[前編の続き] 前半45分が終わる。ハーフタイムのロッカールームにはオシム監督の声が響いていた。「もちろん、論理的に指示を出せれば一番いいのだが、実際には選手たちにそうは言わなかった。怒って指示をした」とオシム監督。稲本は「監督からは『観光に来たわけじゃない、このまま終わっていいのか』と言われた」と話している。中村俊は「ハーフタイムに自分たちのやっていることを続けようと確認した。あとは監督が『サイドで2対1の状況を作ることを忘れるな』と。後半になっても自分たちのサッカーを変えなかったことが、よかった」と勝因のひとつとして、ロッカーの話をした。

 そして鈴木は「3番(相手左サイドのマニャン)5番(相手トップ下、マルガイラツ)へのケアをどうするかということを話し合った。でも、後半になったら、その二人が交代で居なくなってしまった。自分たちがどうケアをするかというチャレンジができなくて、残念だった」と悔しがった。と、同時に「最後までスイスがベストメンバーで闘っていたら、また違った結果になったかもしれない」とも言った。

 後半、EURO2008大会を前にして、多くの選手をテストしたいという思惑のスイスは、キャプテンのマニャンとマルガイラツを交代させる。それが原因となったのか、途端スイスの組織だった守備が崩れ、陣形が間延びし、スペースが生まれ、日本へのプレッシャーが薄まる。そうなれば、日本は前を向いてボールを受けることができ、パス回しで相手の疲労度をさらに高めていく。

「(中村)俊さんとヤット(遠藤)さんが、自分を見てくれている。だから、裏のスペースにボールが出てくると信じて、裏に抜けることだけを考えてプレーしていた。仕掛けるのはもちろんだし、ペナルティーエリアに入ることも大事だと思っている。そこからしかゴールは生まれない。相手が嫌がることをしていかないと、チャンスは生まれない」と松井は言葉どおりの動きで、後半7分、相手のファールを誘いPKを得る。それを中村(俊)がキーパーの動きを見て、落ち浮いてゴールを決めて、2−1。

 スイスの監督も「1点を返されて慌てた」というように、スイスは精彩を欠く。しかし、それは心理上のことだけではなかった。「ヨーロッパのチームによくあることだけど、前半に頑張りすぎて、後半に足が止まってしまう。今日のスイスはそうだった。後半、日本が良くなったというよりも、相手が変わってしまった」と中村俊。

 勢いはさらに加速し後半22分、中村俊のFKを巻が合わせて同点とする。実はこのゴールシーンは、選手たちの判断から生まれていた。中村俊が語る。「あの場面だと、監督からは“内巻きのボール”を蹴るように言われているんだけど、トゥ(闘莉王)が『みんなニアに行くから、ファーに出してくれ』って。そういう風に自分たちで考えて蹴った。巻かトゥに当てようと思って蹴った」

 同点になってからも、「勝ちに行く姿勢を失わなかった(中村俊)」日本は、32分に再びPKを獲得。これも中村俊が決めて逆転に成功する。その2分後、セットプレーから失点して3−3。残り時間は10分だったが、それでも日本は諦めなかった。途中出場の中村憲剛が放ったシュートのこぼれ球を矢野貴章がゴールし、3−4と逆転勝利を手にした。
[後編へ続く]