ライブレポート:Cocco/日本武道館
歌姫が武道館に帰ってきた。
活動中止となった2001年4月にリリースされたアルバム「サングロース」以来、5年2カ月ぶりとなるアルバム「ザンサイアン」を引っさげての全国ツアー「Cocco Live Tour 2006 〜ザンサイアン〜」。7月24日広島郵便貯金ホールから、この日8月10日東京・日本武道館までの8公演、すべてチケットはソールドアウトした。ステージ上は、Coccoを含む6人のメンバーと楽器、照明機材だけ。無駄な装飾を一切省いた構成。ステージの後ろまで客席が設けられ、360度を観客が取り囲む。
開演予定時間の19時を過ぎ、観客が待ちわびる中、照明が落とされ、花束を抱えたCoccoが現れた。客席からは一斉に、悲鳴にも似た大歓声が巻き起こる。オープニング曲は、「焼け野が原」以来、5年ぶりのシングルとなった「音速パンチ」。スペーシーなイントロが鳴り出した瞬間に、再び客席から大きな歓声が上がる。白のワンピースを身にまとい、髪を振り乱して頭を上下に揺さぶりながら歌うCocco。ライブでも音源同様の歌唱力に定評のあったCoccoだが、更に安定感を増した印象を受ける。
誰にも従うことのない荒々しい野性、汚れを知らない天使のごとく澄み切った歌声、少女のように無邪気で天の邪鬼な笑顔、抑えようのない狂気と欲望。「ただいまでございます」。Coccoがそう言うと、会場中から「おかえりー!」との声が上がる。
途中、「あっちゃんの野放しコーナー」と称して、サポートメンバーをステージ中央に座らせ、「あっちゃんのファンなら、ギターが下手なの知ってんだろ?多くを期待すんなよ」と言い放ち、観客に背を向けると、これまでツアーを共にしてきたサポートメンバーに感謝の気持ちを込め、不器用ながらも一人弾き語りで歌を捧げる。
続いて、メンバーに「紙と鉛筆を持って、コードを覚えて下さい」と言うと、胸から紙を取り出し、自分だけしか知らない曲を、その場でメンバーに教えて覚えさせる。そこはメンバーも慣れたもので、2回ほど聴いただけで見事にアレンジを加えて演奏してみせた。これまで人に見せることのなかったCoccoの音楽が生まれる瞬間に、1万人を招いてくれたようだった。
まさに、“姫”のごとく、メンバー、スタッフ、観客すべてがCoccoの一挙一動に振り回される。しかし誰一人として嫌な顔をする者はなく、笑顔が溢れ、温かい空気が会場全体を包み込む。Coccoの歌声と、彼女を支えるバンドメンバーの奏でる音楽に至福の時を過ごし、同じ時代に生まれた喜びに感謝しながらも、この感動はもう二度と体験することができないではないだろうかと、言いようのない不安を胸に抱えながら、一分一秒を大事に噛み締めながら記憶に刻み込む。Coccoは、泣きながら言った。
「6年前にここで歌った時、自分は歌うことが好きだということに気付いてしまった。でも、こんな幸せな時間は絶対長続きするはずがないと思ったから、歌うことが怖くなってしまった。だから、また歌うことを始めたら、怖くなってしまうと思ったけど、今は怖くない。楽しくて、嬉しくて、幸せです。ありがとう。」
ラストシングルとなるはずだった「焼け野が原」から「Happy Ending」へと繋がる。Coccoの帰りを祝福するかの様に、紙吹雪が舞い落ちる。この日、最後の曲となった新曲では、会場中の照明が灯され、別れの時間が近付いていることを予感させた。最後まで曲を演奏し終えると、Coccoは一人一人のメンバーと抱き合い、一人ずつに花束を渡す。そしてメンバーと肩を組み客席に一礼すると、笑顔で手を振りながらステージを後にした。
6年前、歌い終わると同時に走り去ってしまったCoccoは、もういない。
・Cocco - アーティスト情報
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・Cocco、5年ぶりのシングル(2006年02月22日)
活動中止となった2001年4月にリリースされたアルバム「サングロース」以来、5年2カ月ぶりとなるアルバム「ザンサイアン」を引っさげての全国ツアー「Cocco Live Tour 2006 〜ザンサイアン〜」。7月24日広島郵便貯金ホールから、この日8月10日東京・日本武道館までの8公演、すべてチケットはソールドアウトした。ステージ上は、Coccoを含む6人のメンバーと楽器、照明機材だけ。無駄な装飾を一切省いた構成。ステージの後ろまで客席が設けられ、360度を観客が取り囲む。
開演予定時間の19時を過ぎ、観客が待ちわびる中、照明が落とされ、花束を抱えたCoccoが現れた。客席からは一斉に、悲鳴にも似た大歓声が巻き起こる。オープニング曲は、「焼け野が原」以来、5年ぶりのシングルとなった「音速パンチ」。スペーシーなイントロが鳴り出した瞬間に、再び客席から大きな歓声が上がる。白のワンピースを身にまとい、髪を振り乱して頭を上下に揺さぶりながら歌うCocco。ライブでも音源同様の歌唱力に定評のあったCoccoだが、更に安定感を増した印象を受ける。
誰にも従うことのない荒々しい野性、汚れを知らない天使のごとく澄み切った歌声、少女のように無邪気で天の邪鬼な笑顔、抑えようのない狂気と欲望。「ただいまでございます」。Coccoがそう言うと、会場中から「おかえりー!」との声が上がる。
途中、「あっちゃんの野放しコーナー」と称して、サポートメンバーをステージ中央に座らせ、「あっちゃんのファンなら、ギターが下手なの知ってんだろ?多くを期待すんなよ」と言い放ち、観客に背を向けると、これまでツアーを共にしてきたサポートメンバーに感謝の気持ちを込め、不器用ながらも一人弾き語りで歌を捧げる。
続いて、メンバーに「紙と鉛筆を持って、コードを覚えて下さい」と言うと、胸から紙を取り出し、自分だけしか知らない曲を、その場でメンバーに教えて覚えさせる。そこはメンバーも慣れたもので、2回ほど聴いただけで見事にアレンジを加えて演奏してみせた。これまで人に見せることのなかったCoccoの音楽が生まれる瞬間に、1万人を招いてくれたようだった。
まさに、“姫”のごとく、メンバー、スタッフ、観客すべてがCoccoの一挙一動に振り回される。しかし誰一人として嫌な顔をする者はなく、笑顔が溢れ、温かい空気が会場全体を包み込む。Coccoの歌声と、彼女を支えるバンドメンバーの奏でる音楽に至福の時を過ごし、同じ時代に生まれた喜びに感謝しながらも、この感動はもう二度と体験することができないではないだろうかと、言いようのない不安を胸に抱えながら、一分一秒を大事に噛み締めながら記憶に刻み込む。Coccoは、泣きながら言った。
「6年前にここで歌った時、自分は歌うことが好きだということに気付いてしまった。でも、こんな幸せな時間は絶対長続きするはずがないと思ったから、歌うことが怖くなってしまった。だから、また歌うことを始めたら、怖くなってしまうと思ったけど、今は怖くない。楽しくて、嬉しくて、幸せです。ありがとう。」
ラストシングルとなるはずだった「焼け野が原」から「Happy Ending」へと繋がる。Coccoの帰りを祝福するかの様に、紙吹雪が舞い落ちる。この日、最後の曲となった新曲では、会場中の照明が灯され、別れの時間が近付いていることを予感させた。最後まで曲を演奏し終えると、Coccoは一人一人のメンバーと抱き合い、一人ずつに花束を渡す。そしてメンバーと肩を組み客席に一礼すると、笑顔で手を振りながらステージを後にした。
6年前、歌い終わると同時に走り去ってしまったCoccoは、もういない。
・Cocco - アーティスト情報
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