「良い時計してはりますなぁ」

京都の人と会話をしている時、相手からこのように言われたとしたらあなたは何と返すだろうか。


普通に時計の説明をするのはNG?

「ありがとうございます」
「そんなことないです」
「この時計は○○で...」

こんな風に返してしまいそうだが、実はこれ、純粋に時計を褒めているとは限らない。ツイッターでは「話が長い」(=時計を見ろ)といった意味でこの言葉が使われたのではないかと、話題になっている。

直接「もうそろそろ」とは言いづらい、失礼に当たる―― そういった理由で、このような遠回しな言い方になってしまったと思われるが、これでは分かりづらいと感じる人も少なくないだろう。

京都では実際にこのような言い回しがされるのだろうか。

Jタウンネットは2019年8月26日、「方言学」「誤解されやすい方言小辞典」などの著作で知られる東京女子大学・現代教養学部人文学科日本文学専攻の篠崎晃一教授(62)に話を聞いた。

「特に京都は、本音と建前が絡み合ってて...」

今回のケースで思い出されるのが、上方落語の「京の茶漬け」という演目。来客の帰宅を促す「ちょっとお茶漬けでも」という社交辞令を巡る小噺だ。

篠崎教授自身は、「良い時計してはりますなぁ」という言い回しは聞いたことがないとのこと。

しかし、過去に京都のある家に訪問した際、気が付けばお昼近くまで居てしまったところ「お昼でも用意しましょうか」と言われたことがあるという。言い回しは違うが、その状況から「京の茶漬け」を思い出したそうだ。

「もともと日本人の文化的な背景として、断定を避けることがあるわけですよね。『8時です』って言えばいいのに『8時になります』とか、『こちらでございます』を『こちらの方になります』とか。はっきり言わないことを謙譲の美徳というか、相手に対する配慮につながるという発想があるんでしょうね」

篠崎教授は、今回のケースも「時計に注目させることで、あえて(時間が経っていることを)ほのめかす」といった、本音ではない建前を言う一つの言い回しだと推測する。

「地域によってどういう言い方が定着するかっていうのはいろいろあると思うんですけど。特に京都は、本音と建前が絡み合っててコミュニケーションがよそ者にはとりにくいっていうステレオタイプ的なものがあるので、それが京都的だって捉えられるのかもしれないですね」

では、もしそういった遠回しの言い方をされてしまったら?

「京の茶漬け」のようにお茶漬けを頂こうとするのではなく、相手の気持ちを汲み取って行動するのが、その後の関係のためにも良さそうだ。