敦賀〜博多間にRORO船の定期航路が新設されます。両港が定期船で結ばれるのは初めてのことです。これにより日本海側に九州〜本州〜北海道を結ぶ貨物航路ができますが、勝算はあるのでしょうか。中継点となる敦賀の立地がカギになるかもしれません。

日本海側定期航路の「ミッシングリンク」

 日本郵船グループの海運会社である近海郵船(東京都港区)は、2019年4月より敦賀港(福井県)と博多港(福岡県)を結ぶRORO船(旅客を乗せず、貨物を積んだトレーラーやトラックが自走でそのまま乗降できる貨物船。基本的にドライバーは同乗しない)の定期航路を新設します。2018年9月現在、日本海側で本州と九州を結ぶ航路はなく、就航すれば敦賀港を中継点とした、北海道と九州を結ぶ日本海側の海上輸送ルートが誕生することになります。


近海郵船のRORO船「ひだか」。敦賀〜苫小牧航路で運航されている(画像:近海郵船)。

 日本海側で本州と九州を結ぶ定期航路が運航されるのは、2006(平成18)年12月以来、13年ぶりになります。それまでは、かつての九越フェリー(のち東日本フェリー)が1996(平成8)年に開設した博多〜直江津(新潟県)航路、1998(平成10)年より運航開始された博多〜直江津〜室蘭(北海道)航路のフェリー便がありました。博多〜直江津間は多い時で週6便、室蘭まで航路延長後は週3便が運航されていたとのことです。

 就役していたのは「れいんぼうべる」「れいんぼうらぶ」などのフェリーで、旅客と貨物(トラックやトレーラー)を取り扱っていました。2006年、運航会社の事業整理などにより航路が休止され、のちに運行会社が解散すると航路も廃止になり、以来、日本海側で本州と九州をつなぐ航路はありませんでした。

 ちなみに就役していた船および航路が映画『白い船』(2002〈平成14〉年公開)のモデルになったほか、「れいんぼうべる」は他社へ売却されたのち、映画『LIMIT OF LOVE 海猿』(2006年公開)の撮影に使用されたことでも知られています。

 今回の敦賀〜博多航路は、13年間失われていた日本海側で本州と九州を結ぶルートであり、かつ、敦賀と博多を結ぶ初めての定期航路でもあります。これについて福岡市港湾空港局物流推進課の担当者は「敦賀側とも積極的に情報交換し、この新しい航路を両港で連携してPRしていこうという動きがあります」と話します。

13年ごしに結ばれるその効果は?

 とはいえ、これまで13年間にわたり航路がなかったのには、それなりに理由があるはずです。採算面などが考えられますが、加えて冬の日本海の荒波は歌にうたわれるほど激しいものです。この点について近海郵船の中村尊子 定航マーケティング室副部長は「吹雪や時化(しけ)によるリスクはワンシーズンで数回程度はあるでしょう。しかし、太平洋側も台風で運休することがあり、リスクとしては変わりません」と説明します。

「かつての運航会社さんが破たんしたのは、スピードを重視して燃料費のかかる船を使用していたなか当時は燃料費が高騰しつつあったことと、いまもそうなのですが、博多から本州への物量が少ないことなどが挙げられます。ただ今回の計画を進めるなかで、九州の荷主さんから『あの航路、いまあったらよかったのにね』という声もたくさん聞かれました。それはモーダルシフトやドライバーさん不足などで世の中のニーズが変わってきたからで、船での輸送に切り替えを考えていただけるチャンスになるのではないかと考え、今回踏み切ったわけです」(近海郵船 中村さん)


九越フェリー(当時)のフェリー「れいんぼうらぶ」(2001年9月21日、草町義和撮影)。

 では今回、近海郵船が改めて敦賀〜博多航路を開設することにより、どのような効果が見込めるのでしょうか。これについて福岡市港湾局は「モーダルシフト促進への貢献」「物流ネットワークの複線化」「全国主要都市へのアクセス向上」という3つの効果を挙げています。

 ここでいう「モーダルシフト」とは、端的に言えば交通や輸送手段の転換を意味し、特に貨物輸送をトラックから船や鉄道に変えることをいいます(三省堂『大辞林』第三版)。そうすることで物流を高効率化し、交通渋滞の緩和や環境保護、昨今深刻化するドライバー不足への対応などを図るというもので、たとえば国土交通省は物流のモーダルシフトによる低炭素化を推進するため、事業として補助金の交付などを実施しています。

「たとえば、名古屋市役所から福岡市役所まで16トンの貨物を陸送する場合、移動距離は770kmになります。一方、名古屋から敦賀の港まで来ていただいて私共の船で博多まで輸送しそこから福岡市役所まで向かった場合、CO2排出量を試算したところ、陸送に比べ40%強削減できます」(近海郵船 中村さん)

 ふたつ目の「物流ネットワークの複線化」とは、平時の物流安定化はもちろん、災害時にも物流を途絶えさせないための輸送網の構築を意味します。陸上輸送に対する海上輸送という観点はもちろん、太平洋側や混雑の激しい瀬戸内の海上輸送に対する日本海側の海上輸送という観点からも複線化が図られることになります。さらには、いざ被災しても、陸上輸送に比べ復旧が早いのも利点です。

絶妙すぎる敦賀の立地

 3つ目の「主要都市へのアクセス向上」とは、文字通りの効果ですが、実際のところ敦賀という立地の絶妙さが改めて見直されることになるかもしれません。北陸各地はもとより、関西圏、中京圏の両方にほど近いうえに高速道路や鉄道が整備されていて、アクセスは容易です。さらに2014年開通の舞若道により、舞鶴(京都府)までのアクセスもスムーズになりました。

「敦賀という立地が、本州のいちばんクビレているところでございまして、太平洋側とのリンクがしやすく、日本海側の窓口としてはいちばん適している立地といえます」(近海郵船 中村さん)


近海郵船の海上昌二 取締役総務部長(写真左)と中村尊子 定航マーケティング室副部長(2018年9月26日、乗りものニュース編集部撮影)。

 近海郵船による敦賀〜博多間のRORO船定期航路運航は、2019年4月より週3便にて開始され、同年夏には日曜日を除く毎日運航(週6便)体制に移行する予定です。使用船舶は9800総トン級のRORO船で、トレーラー積載台数(13m換算)は約120台。両港間635kmの航路をおよそ19時間で航行するとのことです。

 ちなみに同社による敦賀〜苫小牧航路は、日曜日を除く週6便が定時運航されており、およそ24時間かけて、霧のなかでも視認しやすい鮮やかなオレンジ色の船が両港を結んでいます。たとえば苫小牧から博多まで向かう場合、20時30分に苫小牧を出発、途中敦賀で船を乗り換え、翌々日の17時に博多へ到着することができます。

【図】国内フェリー、RORO船の航路を図示すると…?


2016年12月現在、国内フェリーとRORO船の航路。本州と九州を結ぶ日本海側の定期航路は2006年から13年間空白だった(画像:福岡市港湾空港局物流推進課/国土交通省)。