東海道新幹線と東北新幹線、なぜ直通しない? 東京駅の複雑な「事情」
東京駅で顔を合わせている東海道新幹線と東北新幹線。しかし線路はつながっておらず、直通運転もできません。ただかつて、直通運転の計画は存在しました。なぜ中止されたのでしょうか。
ホームと線路は並んでいるが…
東京駅は日本を代表する鉄道ターミナル。新幹線も乗り入れており、関西方面に延びる東海道新幹線と、北に延びる東北新幹線の線路とホームが並んで設けられています。
東海道新幹線は山陽新幹線と直通運転を行っており、東北新幹線には上越新幹線や北陸新幹線、山形新幹線、秋田新幹線、北海道新幹線の列車も乗り入れていますから、実質的には8つの新幹線が集結しているといえます。
東京駅に乗り入れている東海道新幹線N700系(左)と東北新幹線E5系(右)。N700系が東北新幹線に乗り入れず、E5系が東海道新幹線に直通することもない(草町義和撮影)。
しかし、東海道新幹線と東北新幹線の線路はつながっていません。隣同士で並んでいるなら線路をつなげて、直通運転してほしいと思っている人もいるかもしれません。
実は、かつては直通運転の計画がありました。
いまから50年以上前の1964(昭和39)年、東京〜新大阪間を結ぶ東海道新幹線が開業しました。東京駅の東側(八重洲口)には、在来線ホームを改築した東海道新幹線ホーム(16〜19番線)を設置。開業時は17〜19番線のみ使用し、1967(昭和42)年から16番線の使用も始まりました。
東京駅に並ぶ新幹線のホーム。在来線のホームを改築する形で順次整備された(2011年2月、草町義和撮影)。
その後、東海道新幹線の成功を機に、全国の主要都市を新幹線で結ぶ「全国新幹線鉄道網」の構想が浮上します。1971(昭和46)年、東京駅から北へ向かう東北新幹線・東京〜盛岡間と上越新幹線・大宮〜新潟間が着工。東京駅の東北新幹線ホームも東海道新幹線と同様、在来線ホームを改築して使用することになり、在来線の12〜13番線と14〜15番線を東北新幹線ホームに転用することになりました。
このときの計画によると、12〜15番線は東北新幹線だけでなく、東海道新幹線の線路にも接続。東海道新幹線は16番線のみ改造して東北新幹線の線路につなげることになりました。この計画が実現していれば、新大阪駅から盛岡駅や新潟駅まで直通する列車が運転されていたかもしれません。
本当の目的は「直通運転」ではなかった?
ただ、実際は直通列車を走らせるためというより、別の目的があったといいます。
東北新幹線が着工したころの東京駅の線路配線計画図。新幹線の線路は8本中5本を直通運転に対応させることになっていた(草町義和作成)。
東京駅に到着した新幹線の上り列車は、折り返して下り列車に変わります。このとき、運転士が上りの先頭車から下りの先頭車に移動したり、車内の清掃を行ったりしなければならず、準備に時間を要するため、1本の列車が長い時間、ホームをふさいでしまいます。つまり、たくさんの列車を運転できなくなるのです。
そこで、東海道新幹線の上り列車を東北新幹線の車両基地で折り返すようにすれば、運転士の移動や車内清掃などを車両基地で行うことができ、東京駅での停車時間を短くすることができます。逆に東北新幹線の上り列車も東海道新幹線の車両基地で折り返せば、東京駅での停車時間を短くできます。
つまり、折り返し地点を車両基地にすることでターミナル駅での停車時間を減らし、たくさんの列車を運転しやすくするというのが、直通化のおもな理由でした。
とはいえ、仙台〜三島間などで直通列車を運転する構想もあったようです。
「トラブル拡大」防止で計画縮小へ
しかし、東京駅の新幹線直通化計画は、すぐに縮小を余儀なくされてしまいます。
計画変更後の東京駅の線路配線図。直通対応の線路は1本に絞られた(草町義和作成)。
東海道新幹線では1973(昭和48)年から1975(昭和50)年にかけ、レールや架線のトラブルによる列車の遅れや運休が多く発生していました。この状態のまま直通化を図ると、東海道新幹線の新大阪駅で発生した列車の遅れが、東北新幹線の盛岡駅まで影響を及ぼしてしまうかもしれません。
そこで国鉄は1977(昭和52)年、基本的には直通運転を行わない計画に変更。直通運転のための線路を1本(14番線)に絞りました。団体列車など、運転日が限られる特別な列車に限り、直通運転を行うことにしたのです。
また、東海道新幹線は利用者の増加でホームが不足するようになったことから、東北新幹線のホームを1面2線(12〜13番線)に縮小。14〜15番線は東海道新幹線ホームに変更することになりました。
14〜15番線のホームは1975(昭和50)年から東海道新幹線の増設ホームとして使用を開始。東北新幹線の東京駅乗り入れも、工事は大幅に遅れましたが1991(平成3)年に実現しました。
このとき、国鉄はすでに分割民営化されており、東海道新幹線の運営はJR東海に移行。東北新幹線もJR東日本の運営に移っていました。このため、両社は東北新幹線の東京駅乗り入れに先立ち、直通化に関する協議を行いました。
直通計画「復活」の鍵はリニア新幹線?
1988(昭和63)年8月22日付けの朝日新聞朝刊によると、JR東日本は直通化に積極的でした。JR東海との協議では「14番線だけは、例えば仙台-大阪直通の新幹線列車を走らせることができるよう、線路をつなぐべきだ」「直通列車はすぐ無理でも、東北・上越の一部をこのホームに止めれば、同じホームで、すぐ向かいの東海道に乗り込めるから直通とほぼ同じ便利さが生まれる」と主張していたといいます。
リニア中央新幹線の一部になる山梨リニア実験線。リニア開業で東海道新幹線のダイヤに余裕ができれば直通化計画が復活するかもしれない(2017年11月、草町義和撮影)。
これに対し、JR東海は直通運転や14番線の共同使用に消極的でした。当時の東海道新幹線はバブル景気の影響で、利用者が増加。列車の本数も大幅に増え、ダイヤの余裕が縮小していました。こうした状況で直通化を図れば、ダイヤが乱れたときの対応が大変になると考えたようです。
また、東海道新幹線と東北新幹線は使用する電力の周波数が異なるため、JR東海が保有している60Hz専用の車両では、東北新幹線へ乗り入れできません(東北新幹線は50Hz)。直通用の車両を別に用意しなければならないことも、消極的な態度を強める理由になったようです。
協議の結果、14番線の直通化は結論が先送りされ、1991(平成3)年に東北新幹線が東京駅へ乗り入れた際に、線路がつなげられることはありませんでした。
そしてその後、JR東日本も直通需要は少ないと判断し、1996(平成8)年までに直通化の計画を事実上断念しています。なお、東北新幹線のホームは1997(平成9)年、北陸新幹線の乗り入れに伴う列車本数の増加で増設。在来線の9〜10番線ホームが改築され、現在は新幹線の20〜21番線ホームになりました。従来の新幹線12〜13番線ホームも、これにあわせて22〜23番線に改称されています。
ただ、リニア中央新幹線が開業すれば、速達タイプの列車の大半が東海道新幹線から中央新幹線に移るとみられています。東海道新幹線のダイヤにも余裕ができ、いまよりは容易に直通化できるようになるかもしれません。
東北新幹線と東海道新幹線の直通化計画が復活するかどうかも、中央新幹線の焦点のひとつになりそうです。
【写真】「あと少し」のところでつながっていない東京駅の東海道新幹線と東北新幹線
東北新幹線(左)と東海道新幹線(右)の線路は並んでいるが、あと少しのところでつながっていない(2012年9月、草町義和撮影)。