日本人の多くが書店でブックカバーをしてもらう理由は?(写真:zak/PIXTA)

「ブックカバー、お付けしますか?」

初めて日本の書店で買い物をしたときのことです。一瞬、意味がわかりませんでした。「え?」と聞き返すと、本にカバーをつけるかどうかを聞いているということがわかりました。

確かに、注意して周りを見てみると、包装紙にカバーされた本を持っている人がいることに気が付きました。これは、ギリシャではもちろん、今まで私が訪れたことのある国では目にしたことがない光景だったので、とても驚きました。

最初は有料だと思っていたが・・・

始めのうちは「大丈夫です」と言っていました。有料だと思っていたからです。ですが、しばらくして、無料だと気が付きました。それからは、私も日本人のマネをしてブックカバーをつけてもらっています。ただ、このサービスの弱点は、本棚に置いてしまうと、どれがどの本だったかがわからなくなってしまうことです。

「だったら、ブックカバーを外せばいい」と思うかもしれませんが、せっかく日本でつけてもらった貴重なブックカバーを外すのはなんだかもったいない気がして、結局つけたままにしてしまいます(笑)。

なぜブックカバーをするのかを考えると、まず本をきれいにしておきたい、汚さないでおきたいという、モノを大切にする日本人の姿が見えてきます。こういうことを考える日本人だからこそ、ブックオフのようなお店も人気なのだと思います。いろいろな種類の本だけでなく、DVDや洋服なども扱っているので、たとえば待ち合わせまで少し時間があるときなどは、とても便利ですよね。

買うのはやっぱりマンガが中心になりがちで、印象に残っているのは、剣道の話が出てくるときの『クレヨンしんちゃん』や、サザエさんの作者の長谷川町子さんの『いじわるばあさん』、あとは料理が好きなのでレシピ本もけっこう買います。

クックパッドのレシピ本に掲載されている料理は、簡単に作れるし外れがないので、本当に便利です。私はいつも何か変化を加えたくて、パセリを入れてみたり唐辛子を入れてみたり、してみるのですが、夫には「レシピ通りに作って」と言われます。

もう1つ、ブックカバーをつける人を見ていて気が付いたことは、どういう本を読んでいるかを人に見せたくない、知られたくない。そんなちょっと恥ずかしがりなところがあるのではないかということです。

ギリシャ人は買う本の「言い訳」をする

でも、これは少しわかるような気がします。ギリシャで本と言えば、専門書のような堅い本や小説が多いですが、日本にはいろいろな本があるので、自分の好みがわかってしまうのが嫌なのかもしれません。『デキる人になるための○カ条』とか『モテたい人必見!』とか。確かに、こういった本を人前で読むのは、自分の弱みを見せているみたいでなんだか恥ずかしいですよね。

ギリシャ人にもこういう部分が少しありますが、日本人とはちょっと考え方が違います。プライドの高い人が多いので、たとえば少し内容が軽い本を買うときは、プラトンやアリストテレスなどの少し難しい本と一緒にレジへ持って行って、「やさしい本は子ども用、私はこっちの難しい本」とわざわざ言って、周りの人にアピールしながら買う人もいます。

もちろん難しい本はフェイクなので、読まないで本棚に収まります。もしかしたら10年後、その人の子どもが大きくなったら読むかもしれません(笑)。

それにしても、日本には悩みを解決するための、いわゆるハウツー本が多いですよね。たとえば、『人に好かれるための話し方のコツ』というような本を見かけたときはビックリしました。まず、皆が皆というわけではありませんが、ギリシャ人はおしゃべりな人が多くて、あまりこういう悩みを持たないので驚きました。

それから、悩みを解決するために本を読むという考え方は新鮮だったので、これにも驚きました。何か悩みを持っているときは、ギリシャ人の場合、両親や年齢が上の友人に相談することが多いです。インターネットにある記事に目を通すことはありますが、本一冊読むという人はあまりいません。

ヨーロッパというと、日本の方は「自由」なイメージを持っている方も多いと思いますが、ギリシャやイタリアなど南欧の国は意外と保守的です。なので年長者の言うことを尊重する傾向があります。

もしもお母さんに見つかったら・・・

以前にも書いたように(外国人が日本に来て感じる「美徳と違和感」)、困ったことがあると両親に相談しますし、また年齢が自分より上で、いろいろなことを経験していそうな人を頼ることもあります。そこからのアドバイスが正しいかどうかは別の話ですが……。

もしお母さんが掃除をしていて、『話し方のコツ』の本を見つけてしまったら大変です。「もしかして学校でいじめられているのでは?」と、とても心配します。そして、お父さんに電話して家族会議が始まります。子どもが帰宅すると、真剣な表情で両親が座っていて「まあ、そこに座りなさい……」という感じで始まり、「悩みがあるならちゃんと言いなさい!」と大事になってしまうかもしれません。

もちろん、日本でも両親や他の人に相談をする人はいると思いますが、悩みを解決するためのハウツー本が多く売られているということは、それだけ本を読むことで悩みを解決しようとする人が多い証拠だと思います。

でも、こういうハウツー本は、タイトルや本のそでに書いてある要約がとても興味を引くものになっていますよね?『いい人をやめる本』というタイトルの本を見つけたときは「え!?悪い人になれってこと?」と思って、思わず立ち止まってしまいました。このようなハウツー本をついつい手に取ってしまう人の気持ちがわかったような気がしました。

ブックカバーの話に戻しますと、日本人が本にカバーをするのは、ほかの人の反応を気にする傾向が強いからというのもありそうです。たとえば、人と話す時に緊張してうまく話せない人は、こういうことを言ったら相手はどう思うか?傷つかないか?自分が相手にどう思われるか?そういうことを心配しているから、言うことを躊躇してしまうような気がします。

これとは反対に、ギリシャ人は、そのとき思ったこと、感じたことをそのまま言います。なので、言い争いになることもしばしばですが、言うことをためらったり、恥ずかしがってあまり話さないという人は、それほど多くありません。

山ちゃんがギリシャ人のようで違う点

これに似ているのが、南海キャンディーズの山ちゃんです。最近、ネットフリックスでテラスハウスのシリーズを観ています。日本人の生活が見られて面白いですし、また日本人にもいろんな人がいるんだなぁと、新しい発見もあります。

その中で、いつも注目して見ているのはストーリーの途中にある出演者のコメントです。特に山ちゃんは、ほかの人が言いにくいと思っていることでも、スパッと言ってしまいます。これはギリシャ人っぽいので、観ていてとても面白いです。

だけど、山ちゃんの考え方は、一見ギリシャ人に似ているようで、実は違う。ギリシャ人はその瞬間に思ったことをそのまま話す人が多いですが、山ちゃんは人のことを考えてほかの人が傷つかないように、また全体のバランスを壊さないように、ちゃんと計算して話しているように思います。すごく頭のいい人だと思いますし、ちょっと尊敬しています。

日本人にとっては「たかがブックカバー」かもしれませんが、私はこれを日本以外の国では見たことがありませんでしたので、日本人独自の考え方がここに表われているような気がしています。「神は細部に宿る」と言いますが、これからもこのような細かいところにも気を配って、日本のことをもっと知っていきたいです!