攻撃的でキレやすい"新型うつ"に要注意
■50代部下でも、褒められたがっている
精神的に成熟した人は、他人からの評価に関わりなく自らの価値を確信していて、腹立たしいことがあっても穏やかに対処することができます。一方、未成熟な人は、常に他者から自分の存在価値を認めてもらっていないと自分に価値があると感じられなくなり、自信をなくして攻撃的になります。とりわけうつ状態ではキレやすくなります。うつとは自分に価値が感じられない状態で、すぐにキレるのは、うつの初期症状でもあるのです。
同じうつでも、従来型のうつでは自分を責める傾向が強いのですが、最近は原因を他者に求め、「自分は悪くない」と考える「新型うつ」もよく見られます。そういう人は「私が実力を発揮できないのは、理解してくれない上司のせい」といった考え方をするので、上司に対しても反抗的になり、キレてトラブルを起こしたあげく、そのまま会社に出てこなくなったりします。
キレる人というのは、実は怯えています。「おまえには価値がない」と決めつけられたと思って、自信を失っているからです。傍からはどう見てもキレた側が加害者であっても、本人は「自分は被害者だ」と思い込んでいます。精神は不安定でも頭はいいという人も多く、直属の上司を飛び越して一段上の上司に訴えたり、訴訟を起こしたりします。
キレる部下に苛立ちを感じたら、まず深呼吸して気持ちを鎮めましょう。トイレに立つなど、別の場所に行くのも効果的です。キレた人も時間が経てば、自分の行動を後悔するものです。追い込まずに、本人が自分から反省して謝罪の言葉を口にするチャンスを与えるようにしましょう。
相手が冷静になってきたら、言葉で勇気づけてあげます。キレやすい人は自分の価値にとても敏感なので、「あなたのここがすばらしいと思う」などと褒めてあげるのです。これは相手が自分より年上でも同じように効果があります。
人間は40代半ばくらいが精神的な成熟のピークで、50代以降になると中高年期特有のうつが始まり、逆に子供っぽくなっていくといわれます。いかにも管理職然とした男性が街でファストフードの店員や駅員など反撃しにくい人、立場の弱い人を怒鳴りつけているところを見ることがありますが、これも中高年期うつの症状です。
そんなタイプの年上部下がキレたらどうしたらいいのでしょうか。実は50代の人も若者と同様、上司に褒められたがっています。「この仕事はあなたにしかできないことですね」「うちの部署にはあなたの力が必要なんです」といったベタな言葉でいいので、相手の実力を認めるメッセージを送ってあげましょう。
こうした手順を踏んで、「あれ? 私のことを認めてくれていたんだ」と感じさせれば、感情の爆発は収まっていきます。
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深呼吸して気を鎮め、相手が冷静になるのを待つ
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明治大学文学部教授
教育学博士、心理療法家。大学で心理学を教えるかたわらカウンセリング活動を続ける。『「本当の大人」になるための心理学』など著書多数。
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(明治大学文学部教授 諸富 祥彦 構成=久保田正志 撮影=大杉和広 写真=PIXTA)