西野監督は12日のパラグアイ戦で出場機会の少なかった選手を起用した【写真:Getty Images】

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1996年アトランタ五輪初戦の番狂わせから考える、“策士”西野監督の思惑

 1996年のアトランタ五輪における日本のブラジル撃破──いわゆる“マイアミの奇跡”は、なぜ起きたのか。

 三つの要因が思い浮かぶ。

 一つ目はスカウティングである。

 オーバーエイジで加入した相手センターバックのアウダイールとGKジダが連携に不安を残していることを、U-23日本代表を率いる当時の西野朗監督とスタッフはスカウティングから読み取っていた。果たして、GKと最終ラインの間へのクロスは相手守備陣の混乱を誘い、この試合唯一の得点が生まれたのである。

 現在、西野監督はロシア・ワールドカップ(W杯)に向けて、ベースキャンプ地のカザン入りしてからセットプレーの確認に時間を割いているが、おそらくそれだけではないだろう。アトランタ五輪のアジア最終予選で白井博幸を、本大会のブラジル戦で服部年宏を相手のキーマンにぶつけたように、コロンビア対策としてのオプションを非公開練習の向こう側で練り上げているかもしれない。

 6月12日に行われたパラグアイ戦でそれまで出場機会の少なかった選手を起用したのは、彼らのゲーム勘やゲーム体力を刺激するのが目的だった。そのうえで、これまでとは違う戦術オプションをコロンビア戦にぶつける準備を整えた、とも理解できる。守備のブロックはともかくとして、アタッカー陣は複数の組み合わせが考えられるからだ。


守護神の奮闘なしには成立しないアップセット

 22年前のブラジル撃破の二つ目の要因は、GK川口能活の働きだ。実に28本のシュートを無力化させた守護神の奮闘なしに、世紀のアップセットは成立しなかった。

 前評判の高くないチームが驚きをもたらすのに、GKの活躍は不可欠だ。中南米の小国コスタリカは1990年イタリア大会でベスト16入りを果たしたが、グループリーグでスコットランドとスウェーデンを撃破した歩みは、GKガベロ・コネホの存在があったからだった。2014年ブラジル大会の8強入りも、GKケイラー・ナバスの活躍があったからだった。

 大会4日目を終えた今回のロシアW杯でも、GKがもたらす驚きが生まれている。アルゼンチンとアイスランドのドローは、GKハンネス・ハルドーソンの好守が生み出した。メッシのPKを阻止した彼の活躍が、初出場の母国に勝ち点1をもたらしたのである。

 ドイツを1-0で下したメキシコには守護神ギジェルモ・オチョアがいた。PKストップのような分かりやすいプレーはなかったが、試合を通してほぼミスはなかった。

 日本はどうだろう。ガーナ戦とスイス戦に先発した川島永嗣は、率直に言って不安定なプレーぶりだった。とはいえ、パラグアイ戦に出場した東口順昭と中村航輔を、コロンビア戦で抜擢するとは考えにくい。プレッシャーの種類も重さも異なるW杯の、しかも初戦ということを考えれば、過去二度の本大会を経験している川島の起用に着地するだろう。


コロンビア戦の前半の戦いぶりが「大会を左右する」

 三つ目は前半の戦いぶりである。

 アトランタ五輪のブラジル戦で、もし前半にゴールネットを揺らされていたら、GK川口がどれほど絶好調だったとしても、最少失点に抑えられたとは考えにくい。格上のチームが精神的に慌てることで、アップセットの条件は整う。

 具体的には前半を0-0で抑えたい。できれば後半途中まで──マイアミで伊東輝悦が決勝点を決めた後半27分まで無失点で凌いだように、コロンビアの焦りを誘うのだ。

「最初の45分をどう戦うのかが、本当に大会を左右すると思う」

 西野監督はこう話す。前半の戦いをコロンビア戦だけでなく大会全体にとって重要と考えるのは、グループリーグ突破を目標とするからだ。“マイアミの奇跡”は日本サッカーの偉大な一歩として記されているが、日本は2勝1敗の好成績を収めながら得失点差でブラジル、ナイジェリアを下回りグループリーグを突破できなかった。

 ロシアW杯で西野監督が望むのは、コロンビア戦を2戦目以降へつなげることであり、チームの照準はベスト16入りなのである。


(戸塚啓/Kei Totsuka)