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●2015年度になぜ大量閉店をしたか

クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパンが再び攻めに転じる。2015年度下期の大量閉店から出店を抑制していたが2018年度から一転、年間10-20店の出店を目指す。店舗改装や新業態の展開も実施するなど、再成長への挑戦が始まった。

○大量閉店の真相

クリスピー・クリーム・ドーナツは米国発のドーナツチェーンだ。日本には2006年に上陸、かつては店舗前に行列ができ、大きな話題となった。それも今や昔。行列を目にすることはなくなった。

ドーナツに関する大きな動きを見れば、最大手のミスタードーナツが長年苦戦を強いられている。市場も緩やかに縮小しており、ドーナツそのものの人気が低下しているとも思わせる状況だ。だからこそ、流行が去り、業績が悪化してクリスピー・クリーム・ドーナツは大量閉店に追い込まれたのでは? と想像されてしまう。

しかし実態は違うようだ。同社の若月貴子社長は次にように説明する。

「業績が悪いから大量閉店をしたのではない。当社が20年、30年と日本で残っていくために、店舗の営業力の再評価をする必要があった。関東、東海、関西に店舗を集中させて建て直しを図ろうと考えた」(若月貴子社長、以下、発言同氏)

2015年度下期に実施した大量閉店の真相は、再成長に向けて、経営資源の集中の結果に過ぎないというのが同社の説明だ。

○今は第2創業期

では、大量閉店以降、現在まで同社は何をしてきたのか。若月社長はこの間を「第2創業期」と位置づける。これまでは再成長のための地盤固め、今年度からが飛躍という位置づけだ。

これまでに実施したのは商品力とサービスの向上。商品では看板商品のオリジナルグレーズドに迫る人気のブリュレグレーズドを日本発で企画・開発。ブリュレグレーズドは2017年度のグローバルの商品開発賞を受賞したほどだ。その他、日本発の企画・開発商品が多数生まれており、日本での開発商品は、世界のクリスピー・クリーム・ドーナツでも注目を集めているという。

サービス面では属人的ナレッジに依存したやり方から、トレーニングツールと評価ツールを刷新。サービスが生み出す顧客単価の違いなど具体的なデータを提示しながら、意識を改革し、スタッフの育成に努めた。

結果として、顧客・従業員満足度が上昇。既存店売上も2017年8月以降7カ月連続してプラスになっている。あらゆるところから上向いていることについて「目新しいことはやっていない。QSC(クオリティ、サービス、クレンリネス)といった当たり前のことに取り組んだだけ。社員一人ひとりがよりよい品質を、よりよいサービスをと意識したことで業績に結びついた」とする。

●新しい店舗フォーマットで攻める

○新店舗はどこにできるか

第2創業期の仕上げが、2018年度からの再成長である。これまでに築き上げた商品力とサービスをベースに、新規出店、新業態としてテイクアウト専門店の展開ほか小売販売の本格化を通じて、タッチポイントの拡大を図り、存在感を増したい考えだ。

冒頭にも述べたが、2018年度は10-20店のオープンを予定(テイクアウト店含む)している。先々については「当面の店舗数目標については定めていないが、2019年度以降も2ケタの出店を継続していきたい」としている。現在、同社は関東・東海・関西を中心に46店舗あり、ここに数十店舗が加わるならば、2年で2倍近くになることもありえる。いかにチャレンジングな取り組みかわかるはずだ。

では、出店先はどうなるのか。過去に閉店したエリアへ再進出するのか。若月社長の発言から察すると、現在、注力する関東・東海・関西の大都市圏が中心となりそうだ。エリアを絞ってドミナント的な出店戦略を展開していくと見られる。

○客席を減らす

新規出店でもうひとつ注目したいのは店舗デザインだ。画一的だった店舗デザインを改め、郊外、都市と立地に応じたデザインを取り入れる。郊外型はファミリー層が楽しめる施設やスペース作りを行い、都市型は客席数を減らす。

「客席を減らす?」とお思いかもしれないが、間違いではない。従来は他のファストフード店にならい、客席数をいかに増やすかを重視してきた。しかし、店内を観察すると、どうやらそれが最適解でないことがわかってきたのだ。

特に2人掛けの対面式の客席。お客の向かいにあるのは、その人の荷物。客席は埋まっているがお客の数は想定よりも少ない。そうした店内の現状を目にし、ダイニングテーブルを店内に取り入れることにした。結果的に客席数は減っている。減った分のスペースを居心地の良い空間作りに費やしたほうがいいという結論に至ったわけだ。

これは何も仮説ではなく、実際に関西の店舗で検証した結果を踏まえてのことであり、客席を減らしたほうがトータルの客数が増え、売上も伸びたという。

旗艦店となる有楽町イトシア店、渋谷シネタワー店では客席数は従来比で約2割減。くつろげる空間を創出。内装に木目調のデザイントーンを採用するなど、店内での過ごす時間のイメージは大きく変わりそうだ。

また、旗艦店では限定メニューが提供されることが発表された。スイーツのドーナツとしてではなく、食事としてのドーナツ「ドーナツ キッシュ」「ドーナツ バーガー」といった新メニューも出していくようだ。

●最大の目標は何か

○最高のドーナツ体験の提供を維持できるか

一連の施策を見ると、クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパンが再成長に向けて多方面から取り組み努力してきたことがわかるだろう。

先々の店舗数は数年で倍増近いイメージだ。販売先も店舗のみにこだわらない。メニューも食事としてのドーナツを提案していく。

気がかりなのは、一気に変わろうとし過ぎているようにも見えることだ。同社の店舗はすべて直営。つまり、店舗ごとに社員の配置が不可欠となる。そのために人材も獲得していかなければならない。人材育成についても、属人的な育成方法から脱却したとはいえ時間がかかるはずだ。

若月社長は発表会の席上で「最高のドーナツ体験を多くの人に」という言葉を何度も繰り返しており、これをないがしろにして出店を進めるつもりはまったくないと断言する。

その言葉を信じるならば、問題はなさそうだが、掲げた目標に近づくには、スピード感も無視できない。大きな成長を遂げるために、理念とスピードのバランスをどう保つかが課題となりそうだ。