コンビニの「サラダチキン」を食べるバカ

写真拡大

セルフマネジメントは、ビジネスパーソンに不可欠のスキル。太ってしまう人は、自己管理がなっていない──。そんな言葉をまじめに受け止め、コンビニで「サラダチキン」を買い、「糖質オフ」を心がけていると、人生は苦しくなるばかりだ。ネットニュース編集者の中川淳一郎氏は「幸せになりたかったら、『ダイエット教』という呪縛から自由になれ」と説く。

■別にデブでもいいじゃないか!

世の中、ダイエット関連の情報だらけだ。ちょっと思い返してみるだけでも、リンゴダイエットや納豆ダイエット、炭酸水ダイエットなど、これまでさまざまなダイエット法が提唱されては廃れていった。

率直に尋ねたい。そうしたダイエット法にいちいち食いつく人は、いったい何を考えているのだろうか?
 正直、バカなのだろうか? 特定のものを食べ続ければ痩せる……なんて方法に、どんな科学的根拠があるというのか。

人体は基本的に、摂取したカロリーよりも消費したカロリーのほうが多ければ、痩せていくものだ。そして、特定の食べ物や飲み物だけを摂取するといった、極端な偏食をするだけのダイエットで仮に体重が落ちたとしても、私からすれば「それは“痩せた“のではなく“やつれた“だけなのでは」と感じることも少なくない。

とはいえ、今回はダイエット方法の是非について細かく論じたいわけではない。本稿で言いたいのは「別にデブでもいいだろ!」ということだ。

■局地的ブームに流されるだけの中途半端な体型維持

どうせ、中年になれば代謝なんてものは悪くなり、10代、20代のころと同じ調子で食べていれば太ってくる。そして、若いころと同じペースで動いているだけでは体重は減ってくれない。そうした「老い」をきちんと認識しなければならない。それなのに、昨今の「美魔女」だの「ちょい悪オヤジ」だの、局地的ブームに流されては中途半端に体型を維持しようと頑張る。

本当に走るのが好きで好きでたまらない、ジムでワークアウトするオレ、サイコー! みたいに思うのであれば、体を鍛えまくればいいのだが、正直面倒ではないか? 「あぁぁ、今日は会社帰りにジムへ行かなくちゃ……でも、すげー豪雨! どぉしよぉ〜」なんて状況の場合、自宅から2駅前で電車を降りてジムに行くよりも、家の最寄り駅にパッと着いてチャーシュー麺でも食ったら、さっさと帰宅したいところだろう。部屋着に着替えてゆっくりニュース番組でも見て、風呂入って寝たいわ、なんて思うのが、本来自堕落な存在である人間の性なのだ。

もうね、世のオッサン・オバサンは無駄にダイエットしなくて結構! アメリカなんかに行けば、「お前とコビトカバ、どっちのほうが重い?」みたいなオッサンやオバサンがそこらへんを歩き回り、巨大ホットドッグや1リットル近い巨大紙コップのドリンクなんかを口にしている。「ダイエット・コークだから太らないもんね」なんて言いながら、特大バーガーとチェダーチーズまみれの山盛りポテトをわしわしと食い続ける。

■「痩せてないとイケてない」という呪縛

で、私はそれでもいいと思っている。いったい何なのだ、昨今の日本の風潮は! 「イケてるビジネスマンはやせている」的なビジネス書もどきが売れたり、「貧乏人は炭水化物ばかり食ってるからデブ」「エグゼクティブ層は腹を満たすために食べるのではなく“健康”を獲得するために野菜を食べる」と批評したり、いちいち差別的に断じて、危機感を煽るような空気は気色悪くて仕方がない。

しかし、「イケてるビジネスマン」ワナビーのバカはそうした風潮にすぐに食いつく。そして、せっかくの外食なのに妙に高いだけで大してうまくもないサラダのみで済ませたり、コンビニの「サラダチキン」を食っては「時代は糖質オフだよね」なんてホザいたりするのだ。

いい年をしたオッサン・オバサンは、もう「痩せていない人間はイケてない」みたいな呪縛から解放されてはいかがだろうか。痩せているほうが確かに自分を律する人に見えるかもしれないが、結局人生というものは、いかにストレスを減らすか、ラクに生きるかを考えるのが肝要なのである。あとは、いかに「競争」に晒される機会を減らすか。そうした意識を持つことこそ、幸せな人生を送るための第一歩だと、私は考える。

だいたい、ジムに行ったり、皇居の周辺を走ったりすると、基本的には「オレのほうが足が速い」やら、「ワシのほうがさらに重いバーベルを上げられる」やら、「私の着ているウエアのほうが高い」などと、自分のまわりが他人との競争だらけになってしまうのである。体を鍛えなければ、体重を減らさなければ、といった課題は、自然と見知らぬ他人との競争を強いられる状況をもたらし、それがストレスにつながっていく。

■体型よりも仕事の実績

そりゃ、アスリートや俳優、モデルであれば、均整の取れた体を作り上げる必要があるだろう。しかし、ビジネスマンに関していえば、基本的には頭脳さえしっかりしていればなんとかなる。デブでも実績さえあれば、周囲は信用してくれるもの。現在の過度なダイエット志向に振り回されがちな状況を、私は非常に問題視している。

私が毎週出入りしている雑誌の編集部には「入稿メシ」と呼ばれる弁当がよく置かれている。これを編集者やライター、デザイナーが食べるのだが、かなり白米が残されているのだ。では、彼らがみな均整の取れた体なのか? というと、まったくそんなことはない。

年相応に中年太りは多いし、女性であっても「オレよりも体重、重そうだな」という人はそれなりにいる。量が多過ぎて残さざるを得ないのであれば仕方がないのだが、「痩せなくちゃ」「炭水化物をたくさん食べちゃダメよね」という強迫観念で白米を残しているのであれば、そこまで無理をしなくてもいいのでは、と思うのである。

■不気味な「ダイエット教」からの決別

観察してみると、弁当の炭水化物を残す人は案外おやつをバカバカ食っていたり、コーヒーチェーンの生クリームが乗っかったようなコーヒーもどきのドリンクを摂取していたりする。食事の炭水化物をちょっとばかり少なくしようが、一日あたりの摂取カロリーが多ければ体重が増えるのは当たり前だ。

消費カロリーよりも、摂取カロリーを少なくする──この大原則さえ理解していれば、太ることはない。「甘いものが食べたい!」「小腹が減った。何か食べたい!」「せっかくの差し入れ、味見したい!」なんていう状況で、「いや、自分は食わん!」という意志を持てば、デブにはならない。

しかしながら、そこで「食べたい!」という欲望に従ったとしても、罪悪感を抱く必要はまったくない。デブも個性である。好きなように生きようではないか。もう、「ダイエット信仰」は終わりにしよう。少なくとも、風潮に踊らされてストレスを溜めるだけのダイエットからは距離を置こう。

ちなみに43歳の私は身長168cm、体重54kgだが、この体型は15年変わっていない。そして、一度もダイエットをしたことはない。

どうしても体重を増やしたくないんだったら、まずは過度に食うな。減量にラクな道ナシ、である。

----------

【まとめ】今回の「俺がもっとも言いたいこと」
・体型なんて個性。どんな体型だろうと、実績を残せば評価されるもの。
・どうしても太りたくないなら、過度に食べなければいい。
・折々のダイエット法に右往左往するのは愚か。危機感を煽るだけの“ダイエット教“から距離を置くべし。

----------

----------

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者/PRプランナー。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『バカざんまい』など多数。

----------

(ネットニュース編集者/PRプランナー 中川 淳一郎)