科学誌に掲載されているあらゆる論文をインターネット上で無料で閲覧可能にする海賊版サイト「Sci-Hub」は、どんどんその勢力を拡大しており、「もはや手に入れられない論文はない」と呼べるところまで到達していることが明らかになりました。

Sci-Hub provides access to nearly all scholarly literature [PeerJ Preprints]

https://peerj.com/preprints/3100/

Sci-Hub’s cache of pirated papers is so big, subscription journals are doomed, data analyst suggests | Science | AAAS

http://www.sciencemag.org/news/2017/07/sci-hub-s-cache-pirated-papers-so-big-subscription-journals-are-doomed-data-analyst

科学論文は科学誌を通じて世間に公開され、新しい技術的な知見が広められます。しかし、科学に関する知見は人類の共有物であるべきだとして、高額な購読料を取って人類の共有物を制限していると科学誌を批判して、論文公開サイト「Sci-Hub」が生まれました。

4700万件の研究論文を「科学の発展」のためタダで読めるようにしている海賊版サイト「Sci-Hub」 - GIGAZINE



論文の購読料で成り立つ科学誌のビジネスモデルを破壊するという声さえ上がっていたSci-Hubについて、ダニエル・ヒメルシュタイン氏らの研究チームが実態を調査した論文をPeerJ Preprintsに掲載しました。ヒメルシュタイン氏らは、Sci-Hubで公開されている約816万件の論文の識別情報データベースを作成して、世の中の論文と照合して公開率を検証したとのこと。

その結果、学術論文全体の約3分の2がすぐにアクセスできる状態であると判明しました。特に、有料購読制が採られているサブスクリプションジャーナルに掲載された論文のうち、85%が無料で公開されているとのこと。中でも、多数の科学誌を保有するElsevierのような有力出版社の科学誌について言えば、なんと97%の論文が公開されているという驚愕の事実が明らかになっています。



論文を掲載されている科学誌Scienceが、Sci-Hubの実態調査に関する論文を執筆したダニエル・ヒメルシュタイン氏とチャットでインタビューをしました。ヒメルシュタイン氏によると、Sci-Hubは影響力の高い出版社の科学誌に掲載された論文を優先的に扱っていることがわかったとのこと。なお、この影響力の高い出版社とはElsevierやAmerican Chemical Societyで、この2社はSci-Hubを提訴した出版社であることは興味深いところです。

学術論文の無料ダウンロードを可能にする「Sci-Hub」が約17億円の賠償金を命じられる - GIGAZINE



ヒメルシュタイン氏によるとSci-Hubに掲載されているのは学術論文全体の69%に及んでいるとのこと。しかし、残りの31%とは「誰にも求められていない論文」であり、世の研究者や一般人にとって必要な論文の99%はカバーされていると推測しています。Sci-Hubのカバー率が高い論文は自由なアクセスが禁じられているものが多く、オープンに公開されることが多いコンピューターサイエンス分野の論文のカバー率が低いことからもこの傾向がわかるそうです。

ヒメルシュタイン氏は、出版社が論文へのアクセスを制限すればするほどSci-Hubの利用が進むという、出版社にとっては逆効果が出ると指摘しており、今回の調査の結果について、「購読料を徴収する学術出版モデルの終わりの始まりであり、よりオープンな論文公開のモデルが必要となることは避けられないと思います」と述べています。