ベネズエラ最高裁の建物を攻撃したとされる元警官のオスカル・ペレス容疑者が出演した2015年のベネズエラ映画『ムエルテ・ススペンディーダ』のワンシーン(撮影日不明)。(c)AFP=時事/AFPBB News

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【AFP=時事】南米ベネズエラの首都カラカス(Caracas)で今週、最高裁判所の建物にヘリコプターから手りゅう弾が投げつけられるなどした「クーデター未遂」とみられる事件で、エリート警官兼アクション俳優の男が主犯格だったことが分かり、注目を集めている。この事件について、ベネズエラ国内では様々な陰謀説も上がっている。

■自画像は「タフガイ」

 日焼けした肌に筋骨隆々の体。オスカル・ペレス(Oscar Perez)容疑者(36)は、ベネズエラの平均的な警察官よりもビン・ディーゼル(Vin Diesel)さんのようなアクションスターたちとの共通点の方が多いかもしれない。

 ペレス容疑者は、画像共有サービス「インスタグラム(Instagram)」のアカウントに銃を使ったスタントをする写真や映画に出演した際の自らのインタビューを投稿。実在するタフガイとして自分をアピールしていた。

 現地紙によると、ペレス容疑者は「ヘリコプター操縦士、戦闘潜水員、落下傘部隊の隊員」であり「父親、友人、俳優でもある…だが私は、一度家を出れば、二度と帰れるかどうか分からない男だ。死は作戦の一部だからだ」と述べていた。

■警官、アクション俳優、そして「テロ」容疑者へ

 ベネズエラ政府は、盗難ヘリコプターから最高裁の建物に手りゅう弾を投げつけ、内務省に向かって発砲した反乱警官らをペレス容疑者が率いたとしている。ニコラス・マドゥロ(Nicolas Maduro)大統領は事件は「テロ」行為で、クーデターの企ての一部だと主張。ペレス容疑者の背後に米中央情報局(CIA)が動いていると非難した。

 ペレス容疑者はインターネット上に投稿された動画に登場し、最高裁上空の「展開部隊」の一員だったと認めている。また自分たちの部隊を「神の戦士たち」と呼び「われわれはこの犯罪的な暫定政府に反対する兵士、警察官、公務員からなる連携部隊だ」と述べ、マドゥロ政権に対抗するようベネズエラ国民に呼び掛けている。

 28日の時点で、ヘリコプターは発見されたが、ペレス容疑者の足取りはつかめていない。

 ペレス容疑者は2015年に映画の共同プロデューサーと俳優を務めていた。この映画は2012年にカラカスで実際に発生したポルトガル人実業家の拉致事件に基づいたものだった。インタビューでペレス容疑者は、子どもたちが犯罪に手を染めないように啓発するのが、この映画制作の動機の一つだったと語っている。

 俳優として活動する前のペレス容疑者は、ベネズエラ警察の犯罪捜査局の空挺(くうてい)部隊に所属し、警察犬の訓練士も務めていた。

■政府の自作自演説

 ベネズエラではこの3か月間、社会主義政権のマドゥロ大統領の退陣を求める反対派のデモが毎日続いており、これまでに77人の死者も出ている。

 一方、マドゥロ大統領はここ数か月、中道右派の野党勢力と米政府が自らに対するクーデターを計画していると非難してきた。

 ヘリコプターによる目立つ攻撃や、ペレス容疑者が公開した動画、さらに映画に関わる彼の経歴などから、マドゥロ大統領に対する批判勢力の間では政府の自作自演説を疑う声が上がっている。

 野党出身のフリオ・ボルヘス(Julio Borges)議会議長は報道陣に対し、「自作自演だと言う人もいれば、本当(の事件)だと言う人もいる」と述べた上で、「どちらにしろ非常に深刻だ。ベネズエラのこの状況がずっと続くことは不可能だという点だけは言える」と指摘した。

 マドゥロ大統領は先週、陸軍、海軍、戦略司令部、憲兵隊などのトップを入れ替えたことを発表した。英情報調査会社IHSマークイット(IHS Markit)のアナリスト、ディエゴ・モヤオカンポス(Diego Moya-Ocampos)氏は「ヘリコプターによる事件は政府の自作自演の可能性がある。人々の関心をそらすとか、治安部隊内での粛清を続けるために将校らの決起を挑発する狙いがあるのかもしれない」と述べた。

■マドゥロ政権「米政府の陰謀」

 一方、マドゥロ政権と足並みをそろえるベネズエラ最高裁は28日、マドゥロ批判の最先鋒に立つルイサ・オルテガ(Luisa Ortega)検事総長に対し、資産凍結と渡航禁止を適用した。また前日27日には、米国の侵略を可能にするためにマドゥロ大統領に対する陰謀を企んだとされる批判派の5人が逮捕されたと、大統領自らが発表した。サムエル・モンカダ(Samuel Moncada)外相は、クーデター計画の疑いについて多くの国が「沈黙」していると非難している。

 欧州連合(EU)のキャサリン・レイ(Catherine Ray)報道官は、ベネズエラの緊張と暴力的状況は「さらに一歩悪化したと思われる」とし「すべての当事者に暴力の停止と武力行使の回避を呼び掛ける」と述べた。
【翻訳編集】AFPBB News