写真提供:マイナビニュース

写真拡大

大阪大学は、同大学大学院医学系研究科の近藤誠准教授、島田昌一教授(神経細胞生物学)らの研究グループが、セロトニン3型受容体が脳の海馬のIGF-1(インスリン様成長因子-1)の分泌を促進することにより、海馬の新生ニューロンを増やし、抗うつ効果をもたらすという、うつ病の新たな治療メカニズムを発見したことを発表した。この研究成果は4月25日、米国科学誌「Molecular Psychiatry」(モレキュラー・サイキアトリー)に掲載された。

うつ病治療には現在、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が第一選択薬として最も広く使用されているが、その寛解率は半数にも満たず、SSRIが効かない難治性うつ病患者を治療するための新たな治療薬が待ち望まれている。研究グループは、セロトニン3型受容体の働きに着目し、セロトニン3型受容体と海馬の神経新生やうつ行動との関連について、マウスを用いて詳しく解析し、うつ病の治療メカニズムの解明を試みたという。

その結果、マウスの脳の海馬において、セロトニン3型受容体を発現する神経細胞がIGF-1を産生していることを新たに発見した。さらに、セロトニン3型受容体を刺激する薬物(セロトニン3型受容体アゴニスト)をマウスに投与すると、海馬のIGF-1分泌が増加することを明らかにし、セロトニン3型受容体が海馬のIGF-1分泌を制御していることを新たに見出した。

さらに、セロトニン3型受容体アゴニストが海馬の新生ニューロンやうつ行動に与える影響を解析したところ、セロトニン3型受容体アゴニストは海馬のIGF-1分泌を促進することによって、神経幹細胞の分裂を促進して新生ニューロンを増やし、抗うつ効果をもたらすことも明らかとなった。このメカニズムは、SSRIを投与した時には見られない現象であり、SSRIによる抗うつ作用とは異なるまったく新しいメカニズムによる抗うつ効果であるという。

この成果により、SSRIが効かない難治性うつ病に対して、セロトニン3型受容体を標的とした新たな治療薬の開発につながることが期待される。さらに、セロトニン3型受容体アゴニストは、SSRIと併用することでも相乗的なうつ病治療効果をもたらし、うつ病の寛解率を上げる可能性が期待されるとしている。

(早川厚志)