マイアミ大会でベスト16まで進出した尾崎里紗  マイアミで続いていた尾崎里紗の快進撃は、世界女王の前でついに途絶えた。だが、22歳の尾崎にとってベスト16まで進出した経験は、今後の彼女のキャリアにとってかけがえのない貴重なもので、自信にすべき大切なものだ。

 マイアミオープンは、女子ワールドテニスWTAツアーで、1年に4大会しかないプレミア・マンダトリーのグレードで、グランドスラムに次ぐハイレベルな大会だ。その予選を初めて勝ち上がった尾崎(WTAランキング87位、3月20日付け、以下同)は、1回戦でルイーサ・チリコ(63位、アメリカ)を3-6、7-5、6-1で破り、本戦初出場で見事初勝利をつかんだ。尾崎にとっては、プレミア・マンダトリー大会での初勝利ともなった。

「ドローを見て勝つチャンスはあると思っていたので、そのぶん力みというか、勝ちたいという気持ちが強すぎて、今までだったら(ラケットが)振り切れなかったりしました。けど、今日は、わりと振り切れていたし、自分の展開にもっていけたパターンが多かった。こういう大きな大会で、チャンスと思った時にしっかり勝てたのがよかったと思います」

 さらに2回戦で第16シードのキキ・バーテンズ(21位、オランダ)を6-4、4-6、6-1で破るシードダウンをやってのけて勢いに乗ると、3回戦ではジュリア・ゴルゲス(47位、ドイツ)を7-6(5)、6-3で破って、ベスト16進出を決めた。日本女子選手が、マイアミ大会で4回戦に進出するのは、2008年の杉山愛以来の快挙だった。

 ジュニア時代から尾崎に帯同している川原努コーチは、マイアミでの躍進の理由を次のように挙げる。


「今シーズンここまで里紗は、勝ちたい気持ちが強すぎて、勝つテニスにつながらなかったんです。だから体が硬くなって、ラケットを振るのを怖がっていた感じでした。勝ち負け、ボールが入るか入らないか、というのが彼女の頭に常にあるので、それをやめよう、と。それでマイアミで結果が出て、里紗もやれると思えるようになって、自信をつかんでいい方向に来ているかな」

 尾崎の最大の武器はフォアハンドストロークだが、好調時は振り切りがよくラケットヘッドが加速して、いいトップスピンがかかりボールが伸びる。だが、昨年のUS(全米)オープン予選決勝で負けた頃の尾崎は、ラケットにボールを当てるだけになり、ボールが失速していた。

 ターニングポイントとなったのは、直近のWTAインディアンウェルズ大会1回戦で負けた後、ロジャー・フェデラーや錦織圭の試合を見たことだった。彼らがボールを弾くようにしてシンプルに飛ばすのを見て、尾崎はいいイメージをつかんだのだった。

「フェデラーは、全部のボールを打ちにいっていないのがすごい印象的でした。私は、一時はもっと攻めないと、と思って崩れた時があったんですけど、そんなにしなくていいんだと思えて、ちょっと気持ち的にもラクになって無理せずにプレーを組み立てることができた」

 また、予選から本戦での尾崎の高いレベルの戦いを支えたのが、向上してきたフィジカルだ。「よくなっている実感はすごくあります」と自身も手応えを感じている。昨年末から北村珠美トレーナーに見てもらっている尾崎は、テニスに効率のよい動き方を学びながら改善を図っている。現在、目指す課題の55%をクリアできているという尾崎の体と、北村トレーナーはじっくり向き合っている。


ランキングも急上昇。グランドスラム大会での活躍も期待される
「(サイドに振られた時に)ももの前を使って止まると、疲れが出やすくなって、けいれんにつながるので、なるべくももの裏やお尻を使って止まった方が効率よく動けます。止まり方は前よりよくなったし、筋肉痛の場所がももの裏に出るようになった」

 そして、4回戦では、女王の座を奪還したばかりのアンジェリク・ケルバー(1位、ドイツ)への挑戦権を得た。尾崎にとってはトップ10選手との初めての対決でもあったが、予選から数えると6試合目となり、女王と対峙する十分なエネルギーが尾崎には残されておらず、2-6、2-6で敗れた。

「予選からの連戦と暑さで、試合途中で気分が悪くなってしまいました。ナンバーワンとやるには、もっと体力をつけないといけないし、この大きな舞台で勝っていないと、上の選手とは戦えないと思う。今回4回戦に進んで、ケルバーと対戦できたことは、すごいいい経験だと思っています」

 尾崎は実力を十分に発揮できずに敗れたが、「ケルバーのカウンターやしつこいプレーは、私にとってお手本になります」と今後ツアーで戦っていくためのヒントを得た。川原コーチも、「一発の力がない里紗は、ケルバーのようなしつこいテニスをしていけば、20〜30位にいける可能性はある」と新たな目標を得た。

 今回のマイアミ大会ベスト16の成績によって、大会後に尾崎のランキングは68位あたりまで上昇する予定だ。


「私のフォアのボールがちゃんと自分の思ったようになれば、トップが相手でも打点を狂わせることができましたし、ミスさせることもできた。もっとフォアを磨いていけば、どんどん主導権を握れると思います。自分は(プレーが)しつこいタイプなので、質のいいボールでミスを少なくする。どんどんエースを狙うというよりは、コートを広く使って、戦術的に相手を上回れるようなプレーを目指したい」

 毎年マイアミで好成績を収めている錦織は、尾崎の活躍をまるで妹のことを語るように嬉しそうにこう話す。

「すごいですね。ここ(マイアミ)で格上の選手を倒して(ベスト)16まで入ってきているので。体格が小さい分、外国の選手と戦うのは難しいだろうけど、戦いながらいろんなやり方を見つけていくのでは。とても将来が楽しみですね」

 日本テニスの第一人者である錦織からの言葉を伝え聞いた尾崎は「やっぱり圭君にそう言われるのは嬉しい」と笑顔を見せ、新たなモチベーションを見出したようだ。

 ジュニア時代から認められてきた才能がマイアミで覚醒し、プロとしての大きなスッテプを踏み出した尾崎。彼女がその実力を遺憾なく発揮できれば、グランドスラムで初勝利をつかむ日は近い。そして、日本女子テニスの新しい時代を切り開いていく選手へ必ず成長していくだろう。

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