トランプ米大統領は昨年の大統領選期間中から、為替相場を操作しているとして中国を非難し続けてきました。2月19日には、上院外交委員会の共和党と民主党のメンバー2人が、「大統領が中国を為替操作国に認定した場合、議会はそれを支持する」との見解を表明しています。

為替操作国を認定するルールとは

 2015年の貿易法(貿易円滑化・貿易執行法)では、大統領に為替操作国に対する交渉・制裁の権限を与えています。また、年2回公表される米財務省の為替報告書で、3つの明確な基準にのっとって為替操作国を認定するルールが昨年4月から導入されています。3つの基準とは、対米貿易黒字が200億ドル以上▽経常収支の黒字が国内総生産(GDP)の3%以上▽外貨買い(自国通貨売り)介入を繰り返し、1年間の総額がGDPの2%以上――というものです。

 過去2回の報告書では、3つの基準を満たした国はありませんでした。ただ、2つの基準を満たしたとして昨年4月、日本と中国、韓国、台湾、ドイツの5カ国が監視リストに入り、同10月にはスイスが追加されました。日本と中国、韓国、ドイツは上記1番目と2番目を、台湾とスイスは2番目と3番目を満たしています。

 中国は、昨年10月の報告書では1番目を満たしただけでしたが、いったん監視リストに入ると最低2回は解除されない、とのルールに従ってとどまったようです。換言すれば、中国が次回、新たに基準を満たすことがなければ、監視リストから外れる可能性もあります。

 それでも、トランプ政権は新たな基準を設けたり、ルールを変更したりして強引に中国を為替操作国と認定するでしょうか。次回の為替報告書は今年4月に公表される予定です。どんな内容になるか非常に興味深いものがあります。

人民元相場に起きている“異変”

 ところで、今年に入って人民元相場にちょっとした異変が起きています。中国は人民元を特定の水準に誘導する管理変動相場制を採用しています。資本取引に規制があるため、中国本土の「オンショア市場」と、香港やシンガポールなどの「オフショア市場」では、参加者や取引の目的などが異なることもあり、両市場の人民元相場にはかい離が生じます。もっとも、ある程度の裁定が働くため通常、両者のかい離は大きくありません。

 それが今年に入って、オフショア人民元の相場がオンショア人民元の相場を上回り、両者のかい離が拡大しています。これは中国当局がオフショア市場における人民元の流動性を引き締めたためとみられます。人民元安を阻止する動きです。結果として、オンショア、オフショア人民元の対ドル相場はともに「ほぼ横ばい」となっており、下落基調が目立った昨年と様子を異にしています。

 中国が事実上、対ドルでの人民元切り下げを行った2015年8月には真逆の現象が観測されました。オフショア人民元相場がオンショア人民元相場を下回る形で両者の差が拡大したのです。これは、海外投資家(投機家?)がさらなる人民元安を予想して、オフショア市場で人民元を売り仕掛けたためとみられます。

通貨安阻止も「為替操作国」と認定されるか

 中国当局が人民元安にブレーキをかけようとした形跡は別の統計からもうかがえます。中国は2016年の1年間に米国債を1900億ドル近く売り越しました。日本が約300億ドルの売り越し、中国と日本を除く外国が約800億ドルの買い越しでしたから、中国の売り越しの突出ぶりがわかります。同様に中国の外貨準備も減少しており、中国が「米ドル売り人民元買い」の介入を行っていたと想像できます。

 トランプ政権は、自国通貨安を阻止するための介入を繰り返している国も為替操作国と認定するのでしょうか。介入をやめれば、人民元安に大きく振れるかもしれません。もっとも、中国の管理変動相場制自体が当局による為替操作を前提とするものとも言えるため、米国が最終的に要求するのは完全な変動相場制への移行ということかもしれません。

(株式会社マネースクウェア・ジャパンチーフエコノミスト 西田明弘)