気取りのない率直な文章を辿っていくと、いつの間にかどこかわからない未知の場所にいる。どこにでもある日常の描写が気づくと裏返り、異世界が口を開けている。小山田浩子さんの小説にはこうしたマジックがある。そのマジックはデビュー作の「工場」や、芥川賞を受賞した「穴」で高く評価されてきた。この特異な才能が存分に発揮されているのが、今年3月に発売された新刊『庭』(新潮社刊)である。ありふれた田舎の風景や動植物