「ガンスリンガーストラトス2」キービジュアル
(C)2015 SQUARE ENIX/GUNS PROJECT

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スクウェア・エニックスが送り出したアーケード(ゲームセンター向け)ゲーム『ガンスリンガーストラトス』。2014年夏のリリース以来、ネッワークでの4VS4対戦や立体的な戦闘、緊張感あふれる駆け引きが熱烈に支持されて大会も開催され、現在は「2」が稼働中の人気ゲームです。
そんな通称「ガンスト」がアニメ化され、この4月から放送スタート。アニメでも引き続き活躍するという嬉しいお知らせ。
シリーズ構成を担当するのは、作家の海法紀光さん。『俺の屍を越えてゆけ』や『式神の城』などゲームのノベライズ、TRPGの世界観やアメコミの翻訳まで、幅広いメディアで健筆を振るっている才人です。最近では犬溶接マン……もとい『HITMAN』の話題をTwitterで巻き起こし、実際に日本語版の発売にこぎつけたのが記憶に新しいでしょう。
その海法氏が原作ゲームから関わっているアニメ版も、穏やかじゃないわね! という事態になってるはず。アフレコ収録が終わった直後に、お話を伺ってきました。

●全ては虚淵さんの「今ヒマかね?」から始まった

──海法さんは様々なメディアで活躍して来られましたが、アニメの脚本デビューは『翠星のガルガンティア』でしたね。
海法 そうですね。久しぶりにニトロプラスに行ったら、虚淵(玄)さんが「海法君、今ヒマかね?」というのでヒマです、と答えると「じゃあガルガンティアの脚本やろう!」と言われまして(笑)
──虚淵さん、決断が早いですね(笑)
海法 自分でシリーズ構成する立場になって、いくら信用してるとはいえ、アニメ脚本を一度もやったことがないライターにパッと声をかけるなんてスゴい度胸が要るなあと思いましたね。
──海法さんは原作ゲームの段階から関わっておられましたよね。
海法 ええ、厳密には(開発を担当した)バイキングさんとスクウェア・エニックスさんの両社で「現代でドンパチをやろう」という方向でゲームを作られていて、ストーリーを考えているうちに煮詰まってこられたそうで、ここはシナリオのプロにお願いしようと。そういう経緯でニトロプラスが呼ばれて、ゲームのあり方から逆算して話を作っていったんですね
──アクションシューティングの中でも、これほど堅実なシナリオがある作品は珍しいですよね
海法 でも、やっぱり必要なんですよね。この人達はなんで空を飛んでるの?とか、毎回ビルを壊してるの?とか、理由付けがないと説得力がなくて。
──最近は格闘ゲームでもストーリー性が求められますよね。
海法 やっぱりカッコいい武器で建物をぶっ壊したいですよね、じゃあ「未来から来た」という話にしましょうと。どうして未来から来たかというと、現代を起点に2つの未来が分岐して……と、虚淵さんが組み立てていったと聞いております。
──2つのパラレルワールドの激突というのは、ゲーム的には1Pと2Pキャラの戦いで、ビジュアルも面白いですよね
海法 格闘ゲームではかなり前からあったことですよね。1Pと2Pカラーが戦っていて、微妙にパラレルワールドが混じっているんじゃないかと。その裏付けを、ちゃんとやったという感じですね。

●『進撃の巨人』を演出した江崎監督による立体機動アクション

──原作ゲームもアクションが激しかったんですが、アニメ版もシナリオを拝見する限り、たっぷりアクションしてますよね
海法 それは監督の江崎慎平さんが元々は『進撃の巨人』の演出をされていた方という事情もありますね。「こんなにアクション書いちゃっていいのかな」と心配になったんですが、やっちゃってくださいと(笑)
──監督のオーダーをしたシナリオなんですね。
海法 小説とアニメ脚本の違いというのは、小説の仕事は個人で完結しますけど、アニメの脚本は出発点なんですよね。あくまで土台であって、それが歪んでいると上に構築するものもエライことになるのでちゃんと作らないといけないんですが、土台以上のものではないんですよ。で、アニメはすごく多くのスタッフが関わる中で、一番融通がきいてパパっと直せる仕事なので、色んな所をフォローする役割なんです。だからいろんな人の要望、主に監督のやりたいことを反映させるのが仕事だなと思っていて。
──ガンストは空を飛ぶ立体機動の戦いが魅力ですから、『進撃の巨人』の経験がある監督には相性バッチリですよね
海法 監督の方からは、よりリアル感のあるSF映画的な世界観をやってみたいという声がありまして。
──映画の『リベリオン』に近い感じですかね
海法 そうですね。あとは『バタフライ・エフェクト』とか、『ふたりのベロニカ』とか、監督はあのぐらいのリアリティ感が好きで、その方向でやりたいなと

●メディアが変わるときは工夫が必要

──原作ゲームにはディープなファンが多いかと思いますが、地上波で放送されるアニメは初見の人がほとんどですよね。2タイプの視聴者を想定して、バランスを調整されたのでしょうか?
海法 それは企画の最初期に、スクエニさんが「いまゲーセンではガンスト(『ガンスリンガーストラトス』の略称)は好調なので、初見のお客さんにガンストは面白そうだと興味を持ってもらうことに力点を置いて下さい。むしろアニメとしてちゃんと面白いものにしてください」と明確なオーダーを頂いたので、迷いはなかったですね。もちろんゲームをやり込んでる人も楽しめるように、いろんな工夫は盛り込んでいます。
──原作ゲームの設定を、アニメではアレンジされてますよね。
海法 ゲームの設定はゲームで一番機能するようになってるので、アニメ化に向いてないんですよ。ゲームの方では毎日対戦をしてもおかしくない設定なんですが、そうするとアニメでは1クールの中には収まらない。広い意味ではアニメの世界とゲームの世界はどこかで繋がっている可能性も残しているんですが、一応は別ものであると。メディアが違うと、ラノベをアニメにするのも、マンガにするにしても、全くそのままでは辛いと思うんですよ。何か工夫をしなければいけなくて、今回もそうしました。

●パラレルワールドで育った同キャラの戦い

──原作での第十七極東帝都管理区(以下17)とフロンティア(以下F)、管理社会と自由社会との対立という構図は同じですよね。なぜアニメ版では前者を主人公に?
海法 まずFの方は自由とはいっても『北斗の拳』的な自由でして、モヒカン刈りの人達がヒャッハーしてるような弱肉強食なんですよ。何度か検討を重ねてみたんですが、こちらを主人公にすると、感情移入いただくまでが大変になる(笑)。要するにサバイバルの世界で生きてるので、(笑)。要するにサバイバルの世界で生きてるので、こちら側の世界の人達と微妙に常識が違うんですよ。そこをフォローすると、ただでさえ説明することが多い作品なので、尺が足りなくなる。もう一方の17は管理社会ではあるんですが、アタマに「腐敗した」が付くんですね。「全ての人間の能力を考慮して職業を決定する」と言ってるんですけど、なぜか政治家の子供はいつも政治家になっている(笑)。絶対おかしいだろと思いながら、みんな言えないでいる社会なんですね。そんながんじがらめの中で学校に通ってる少年は、今の我々の感覚に意外に近いよねと。
──弱肉強食よりは腐敗社会のほうが身近ですよね。
海法 Fは強い人には無限の自由があるけど、弱い人には死ぬ自由しかないんですね。17もFも、自分たちの社会はこのままではいけないという意識は持ってるんですが、なかなか上手くいかない。アニメ版では両者の対立をシャープにするために、より互いが相手を認めない感じになってますね。
──同じ顔形で同じ性格のはずが、真っ向から対立するんですね。
海法 環境の違いですね。我々も生き別れた双子の弟が紛争地帯で育っていたら、考え方が食い違うだろうと。Fの人達も「力こそ正義」ばかりではなくて、みんなが生きられる社会を作らなきゃいけないとは思ってる。でも、そのためには力が必要であって、そこから逃げられないんですね
──ちびっこハウスのために戦うタイガーマスクのようですね。
海法 まったくもってその通り。俺は虎の穴を脱走したんだ、でもラフファイトしか生きる道がないんだと(笑)。Fの人からしてみると、17の側の自分に「僕たちは話し合うことができる」と言われて、おまえは分かってない!となるわけです。

●「分岐した世界」の原点はアメコミや海外SF

──1クールに充実したストーリーを収めるにはキャラクターの選別が大事かと思いますが、主人公の風澄徹と近い人からチョイスを?
海法 やはり徹を中心としてますね。原作ゲームの方でも、徹は大勢の人間と関わっていて、人間関係の真ん中にいる人なので。でも、こいつも出したかったなと惜しまれるキャラクターもたくさんいますね。そのへんは、『電撃マ王』で連載中の外伝コミック(『ガンスリンガー ストラトス:ギガントマギア』)でフォローしてます。そちらはジョナサン達がメインを張っていて、17ともFとも違う連邦という世界が出てきますね。そちらはアニメにも参加している森瀬繚さんが原作を担当してます。
──「分岐したパラレルワールド」はすでに一つの定番ではありますよね。
海法 私はアメコミが大好きで翻訳を手がけてきたんですが、アメコミも分岐する世界がすごくたくさんある。やはり私も、アメコミに影響されているところはあるかなと思いますね
──東映版スパイダーマンが参戦したことで話題になった『スパイダーバース(Spider-Verse)もそうですよね。
海法 それにSFですね。私が好きな小説に『時間衝突』(バリントン・J・ベイリー著/創元推理文庫)というのがあって、そこでは時間は実は2つあると。一つは過去から未来へ流れていく我々の世界で、さらに未来から過去へと流れている時間もある。で、過去から来た時間と未来から来た現在が衝突して全て滅びるという非道い話で(笑)。衝突する地点である現在の人達は死んでしまうので、どうしようということなんですね。そうした多くのSF作品を参考にさせてもらったところはあります。
(多根清史)
後編に続く