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2016年4月から、一般家庭まで含めた電力小売りが完全に自由化される見込みだ。個人もどこから電力を買うか選べる時代になる。ただ、そう言われても何がどう変わるか、わからない人も多い。多くの人が感じる4つの「素朴な疑問」にここで答える。

【疑問(1)】我が家の周りには、東京電力の電線と電力メーターしかない。どうやって、別の会社から電力を買うの?

【回答】地域の大手電力会社(ここでは東京電力)の送配電網を借りることになる。たとえば、電力小売りA社から電気を購入する場合どうなるか。A社は、卸電力取引所などで調達した電気、または自ら発電した電気を、皆様の家まで届けるよう東京電力に委託する。したがって、皆様の家に電気を届けるのは、これまで通り東京電力で変わらない。どれだけ電気を使ったかも、東京電力の電力メーターで計測される。もし異なる電力メーター(スマートメーターなど)に交換する必要があれば、電力会社の負担で交換する。ちなみに、敷地内に設置されている電力メ-ターは電力会社の所有物である。なお、電気料金の支払先は東京電力ではなく、電力小売A社に代わる。請求書はA社から送ってくる。

【疑問(2)】自然エネルギーの購入って、どうやってやるの?

【回答】「多少、料金が高くても、自然エネルギーで作った電気を使いたい」という人のために、たとえば「太陽光で発電した電気の購入」といったメニューを提供する小売会社(B社)も出てくることが予想される。この場合B社は、メガソーラーから調達した電気を、皆様に販売する。電気を運ぶのは、地域の電力大手に委託する。電力料金の請求書は、B社から送ってくる。

【疑問(3)】電力小売りが自由化されると、電気料金は安くなるの?

【回答】安くなる可能性が高い(必ず安くなるとは限らない)。現時点で、自由化部門(大口・高圧)料金は、規制部門(一般家庭・低圧)料金よりも安い。大口需要家は、価格交渉力が高い分、割安な料金の提示を受ける可能性が高い。一軒一軒の家庭の電力購入は小口だが、小売り自由化後に、電力小売会社がたくさんの家庭をまとめて一口として電気を購入すると、大口と同じ割安料金で購入できる可能性が高まる。そこから小売会社の利ざやを差し引いても、一般家庭の電力料金は、従来の規制料金より低くなる可能性がある。

電気料金は、今、以下の4つの部分から構成されている。

1. 基本料金:契約の大きさによって決まる。2. 電力量料金:実際に使用した電力量によって決まる。3. 燃料費調整額:電力会社が使用する燃料価格変動により賦課される。4. 再エネ発電賦課金:太陽光など再生エネルギーを電力会社が高値で買い取ることによって生じる負担を、利用者全体に電力使用量に応じて転嫁するもの。

上記のうち、(3)・(4)は、法律によって賦課が決まっているので、自由化しても低下させる余地はない。自由化後に下がる可能性があるのは、基本料金と電力量料金である。たくさんの家庭がまとまって大口となることで、電力量料金に低下余地が生じる。

季節ごとに電気使用量が大きく変動する家庭や事業者は、基本料金の負担部分が低下する可能性もある。たとえば、冬の電気使用量が大きく、夏にはほとんど電気を使わないスキー場やスキー宿は、基本料金が割高になっている可能性がある。夏に電気使用量の大きい海水浴場と共同で、独立電力小売り業者から電気を買うようにすると、基本料金部分が割安になる可能性がある。

【疑問(4)】電気と携帯電話をセットで契約すると、電気料金が安くなるの?

【回答】セット割引はいまや携帯電話・ケーブルテレビ・インターネット接続など、あらゆる分野に広がっている。消費者にとっては、セット販売を申し込むと、ばらばらに分かれている料金支払いが一本化される上に、割引料金を受けられるので、メリットになる。電力小売り自由化後は、さまざまなセット料金に、電気も加わってくる。セットで購入すると、電気料金が割引になる可能性が高まる。

通信や放送会社から見て、電気料金とのセット販売は魅力的である。携帯電話会社にとって、解約(他社への乗り換え)率を低下させることは、経営上の重要課題だ。携帯電話を、ケーブルテレビやインターネット接続とセットで契約する顧客は、携帯電話だけを単独で契約している顧客より、解約率が低いことがわかっている。携帯電話会社は、解約率を下げるのに効果があるセット販売に積極的だ。電気料金とセットで販売すれば、解約率がさらに低くなることが期待できるので、携帯電話会社は電気とのセット割引をいろいろ検討してくるだろう。

ガス小売りも2017年に自由化される見込みなので、電力・ガスといろいろなものをセットで1つの業者から買うことで、セット割引を受ける余地も生まれるだろう。

利用者は、いろいろなセット販売を幅広く比較して、自分にとって最もメリットが大きいと思うセット販売を慎重に選択すべきだ。最初に聞いた話に飛びついたら、後から、もっと有利な提案がたくさん出てくるということもあり得る。電気やガスとのセット販売をやりたい企業は、たぶん、日本中にたくさんあるはずだから。

(※写真画像は本文とは関係ありません)

○執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。

(楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト 窪田真之)