データを1000年保存するには「DNAを使うといい」ってどういうこと?

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「ハードディスクは必ず壊れると思っておいたほうがいい」とよくいわれる。つまり「バックアップをとっておけ」ということだ。CDの寿命も数十年といわれている。一般的な手法で記録されるデジタルデータの寿命は意外と短いのだ。

現在われわれが数千年も昔の出来事や社会を知ることができるのは、おもに紙や皮革、石板などに記された文書のおかげだ。しかし、多くの情報がデジタルデータとして保存されるようになった現在において、われわれの持っている情報を数百年、数千年先の子孫に伝えるにはどうすればいいのだろうか?

そのひとつの方法を、スイス連邦工科大学チューリッヒ校のRobert Grass講師をリーダーとする研究チームが発表した。

DNAには膨大なデータが記録できる

膨大なデータを長期間にわたって保存する方法として、同大学の研究者たちが着目したのは生物の遺伝子情報を記録する物質として有名なDNA(デオキシリボ核酸)だ。

DNAは塩基配列によって様々な情報を記録することができる。かずさDNA研究所のウェブサイトによれば、人間のDNAには「新聞の朝刊にすると約25年分もの文字量に相当」する情報が記録されているという。

そのDNAは人間のすべての細胞に含まれている。それほどコンパクトな中に膨大な情報を記録できるのだ。ただし欠点もある。DNAは分解や読み取りの過程で欠損やエラーが起こりやすいのだ。しかし同大学の研究チームは、エラーなしに1,000年以上も情報を保存できる可能性がある方法を発表した。

まず、情報を保持しているDNAをシリカで覆ってしまう。そしてエラーを修正することができるアルゴリズムを使うという方法によってだ。

シリカで包んで劣化を防ぐ

2年前、研究者たちはDNAに情報を保存し、それをまた読み取る技術を発表した。しかし、そのとき書き込みと読み取りのあいだの時間は長くはなかったが、それでもエラーが出てしまったという。DNAは長い時間がたつと環境による化学的な影響によって変質してしまう。

しかし、何百年、何千年前のDNAの遺伝子情報が読み取れることもある。骨の化石などの中に包まれて守られてきたようなケースだ。そこで同研究チームは骨の化石の代わりにシリカで保護するようにしたわけだ。研究者たちは、1921年の『スイス連邦憲章』と、アルキメデスの『方法論』を収めたDNAを直径約150ナノメートルのシリカの球体で覆った。

そして、自然界においては数百年に相当するDNAの劣化を再現するために60〜70度の環境下に約1ヵ月おいた。その後、フッ素を使ってDNAをシリカから簡単に分離させることができ、記録した情報をふたたび読むことができたという。

骨の化石とシリカの中のDNAを大まかに比較して、たとえば-18度の環境であれば、シリカで保護したDNAは1,000年を超える期間、情報を保存できると、研究者たちは見積もっている。これは、約500年といわれるマイクロフィルムに記録された情報の寿命よりも長い。

一方、DNAの劣化以外にも、DNA情報の読み取りの際にエラーが出てしまうという問題がある。これに関しては、同校のコミュニケーション技術研究所のReinhard Heckel氏が解決法をあみ出した。宇宙機との通信など長距離通信の際に使われるエラー補正技術である『リード・ソロモン付合』をベースにしたものだという。

この技術によってデジタルデータが数千年間保存できるようになったとしたら、われわれは子孫になにを残すのがいいだろうか? 同氏はまずか『ユネスコ記憶遺産』を挙げたという。そして次に『ウィキペディア』。

ウィキペディアでは、細かい記述までなされている項目も多いですが、そうでないものもあります。このことは、われわれの社会が何を知っていたか、どんなものにどの程度支配されていたかを俯瞰するのにいいかもしれません

みなさんはどう思うだろうか? でも、このことが決定されたとしたら、みんなこぞってウィキペディアに書き込みをしてしまうかもしれない。筆者だったらそうする。だって数千年後の子孫に読まれたいじゃないか。

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【参考・画像】

※ Data-storage for eternity - ETH Zurich

※ DNAってなに? - かずさDNA研究所