4年43億円の大型契約を勝ち取った左腕ミラー

 例年ウィンターミーティングを境にフリーエージェント市場が大きく動き始めるが、今年は開催以前から次々とフリーエージェントによる契約やトレードによる移籍のニュースが飛び込んできた。その中でも特に注目しておきたいのが、ヤンキースと4年3600万ドル(約43億2000万円)でサインした中継ぎ左腕アンドリュー・ミラーのケースだろう。9回を任されるクローザー以外のリリーフ投手が、4年という長期契約で、しかも1年あたり900万ドル(約10億8000万円)という大型契約を勝ち取ることは非常に珍しいからだ。

 ミラーと言えば、今季のトレード期限日7月31日にオリオールズへ移籍するまで、レッドソックスのブルペンでセットアッパーとして活躍した人物。田澤純一とともに守護神・上原浩治につなぐ重要な役割を担った。

 今季はレッドソックスとオリオールズの両軍合わせて73試合に登板。防御率は2・02で、62回1/3を投げながら被本塁打3、与四球17、奪三振103の成績で、WHIP(1回あたりの被安打数+与四球数)は0・80という素晴らしい数字を残している。左腕である上に約2メートルという背の高さで、速球は時速94マイル前後を計時し、武器は曲がりの大きなスライダー。細身の長身から投げ下ろされるボールは、打席に立つとより一層速さが感じられるという。

 今オフのFA市場でリリーフ投手は、完全なる「売り手市場」だ。

 今季のワールドシリーズを戦ったジャイアンツとロイヤルズが、両チームともに鉄壁のブルペンを誇っていたように、先発ローテーションはもちろんだが、安心して試合を締めくくってくれる中継ぎ&抑えの重要性を多くのチームが痛感している。

 だが、FAとなったリリーフ&クローザーの数は少なく、需要が供給を上回る形になっている。最大の目玉と言えば、ヤンキースで守護神を務めたロバートソン。そんなこともあり、ミラーの元には20球団を超える数のオファーが届いたという。

中継ぎ投手に扉を開いたミラーの契約

 最終的にヤンキースと獲得を争ったアストロズは4年4000万ドル(約48億円)の条件を提示していたという報道もあり、多数球団による値段のつり上げ合いが、メジャー通算1セーブ(セーブ機会は3度)の29歳が年俸900万ドルという大型契約に至った真相のようだ。こう考えると、早々に上原と2年1800万ドル(約21億6000万円)で再契約したレッドソックスは、正しい選択をしたと言えるのかもしれない。

 もちろん、ミラーの契約には「近い将来クローザーを任せたい」という期待値も多分に含まれているだろうが、先発投手と比較すると評価されづらいセットアッパーをはじめとする中継ぎ陣に大きな扉を開いた形となった。

 これまで守護神を務めたことがない中継ぎ投手で最も長い契約と言われていたのが、スコット・ラインブリンクが2008年にホワイトソックスと結んだ4年1900万ドル(約22億8000万円)だった。オプションを含まずに4年が保証され、クローザーの契約に匹敵する3600万ドルが用意されたことは大きな意味を持つ。

 ミラーの契約がまとまったことで、より注目を集めることになったロバートソンは、ホワイトソックスと4年4600万ドル(約55億2000万円)で契約合意と報じられている。クローザーとしての経験を持つロバートソンの方が、年俸にして250万ドル(約3億円)高い契約をむすぶことになったのも、ミラーの契約が“叩き台”となった可能性は高い。この2人の契約が基準となった今、他のリリーバーたちがどんな契約を勝ち取るのか興味深いところだ。

佐藤直子●文 text by Naoko Sato

群馬県出身。横浜国立大学教育学部卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーとなり渡米。以来、メジャーリーグを中心に取材活動を続ける。2006年から日刊スポーツ通信員。その他、趣味がこうじてプロレス関連の翻訳にも携わる。翻訳書に「リック・フレアー自伝 トゥー・ビー・ザ・マン」、「ストーンコールド・トゥルース」(ともにエンターブレイン)などがある。