8月24日、有明コロシアムで5日間にわたって開催された、ワールドグランプリ2014ファイナルラウンドが幕を閉じた。日本は最終戦でブラジルに敗れたものの2位となり、この大会(28ヵ国が参加)で初のメダルを獲得。今大会では、新戦術「Hybrid6」を採用したことも話題を集めた。

 オリンピック中間年の今年は、秋に男女世界選手権が行なわれ、ワールドグランプリはその前哨戦といってよい。ピーキングのこともあり、各国様々な思惑が入り乱れる中での大会となった。中国は予選ラウンドに出場していた195cmのシュテイら主力を数名、表向きは「故障のため」ということで休ませた。

 ただ、前回の覇者(この大会の最多優勝者でもある)ブラジルは、ガチガチの本気メンバーだった。ファイナルラウンド緒戦でトルコに敗れるという波乱があったものの、その後は調子を取り戻し、優勝決定戦となった最終戦では、経験の違いを見せつけられる形となった。

 日本は予選ラウンド5連敗でスタートし、そこから8連勝。新戦術を実戦で試しながらの成績としてはまずまずだが、ブラジルにはロンドン五輪準決勝以来、4試合対戦して1セットもとれていない。昨年のグランドチャンピオンズカップ(グラチャン)でも、組織的なブロックを行なうブラジルとアメリカにはMB1(※)は通用しなかった。今大会のHybrid6でもそれは同様だった。

※通常は2人置かれるミドルブロッカー(MB)を1人に減らし、代わりに対角にウィングスパイカーを配置する作戦

 結果はもちろん大切である。だが今大会は、それ以上に評価すべき成果があった。それは昨年のこの大会で新セッターとしてデビューした宮下遥が、 いったん全日本を外れたものの、再び復帰してファイナルラウンドではメインセッターとして活躍したことだろう。今大会も、予選ラウンドではロンドンで竹下 佳江の控えだった中道瞳が主に先発していたが、ファイナル初戦のロシア戦からスタメンで起用され、ブロックランキングは全選手の中で18位、セッターラン キングで4位につけた。

 眞鍋監督は、「ブロックがいいので、それで精神的にも余裕ができてトスも安定してきたのではないでしょうか」と合 格点。昨年、宮下を「個人的にとても気に入りました。間違いなく日本のトップセッターになるでしょう」と評価していたブラジルのギマラエス監督も、「去年 よりも良くなっている。昨年対戦した時よりも成熟しているし、チームでの責任感も増した。非常に上手くパスを散らし、いいところにいいタイミングでトスを 上げている。精度も高くタイミングもよくなった。大きく成長し今も成長し続けている。非常に興味を持っているセッターです」とベタ褒めだった。

  宮下本人は、「この新戦術のねらいはトスの分散で、そこがセッターの役割だと思います。私はブロックを真ん中で飛んでいたので、ブロックに跳んだあと、な かなか切り返しが上手くいかなくて苦労しました。今大会の収穫は、技術どうこうよりも、連敗して苦しい時期がある中で、ひとりひとりがチームのために、み んなのためにと行動できたことです」と振り返った。

 また、グラチャンでは、本来MBが入るべきローテーションに入っていたサイドアタッ カーは迫田さおりだったが、今大会ではサウスポーの長岡望悠がその役割を担った。中学時代に少しだけMBの経験はあったが、ほとんど一からのスタート。セ ンターからの攻撃だけでなく、ライトからもレフトからも打ちまくった。中国戦では22本打って決定率72%を叩きだし、「私も長いことバレーをしています が、これにはびっくりしました。いつも今日くらいやってほしい」と眞鍋監督を驚かせた。「新戦術で一番輝いた選手かもしれません」とも評された長岡は、個 人賞で2ndベストアウトサイド賞を受賞した。

 そしてもう1人、今大会で成長を遂げたのは、主にレセプション(サーブレシーブ)を免除さ れて攻撃に専念していた石井優希だ。180cmのオールラウンダータイプのサイドアタッカー。2011年に全日本に初招集されたが定着せず、所属の久光製薬 でも、ラリー中のオープントスなど勝負所ではロンドン五輪メンバーの新鍋理沙が処理することが多かった。

 だがブラジル戦、2セットを連取された後の3セット目のマッチポイントを、石井のスパイクによって3回連続でしのいだ。20点以降のプレッシャー のかかる場面では決定率が落ちるケースが多い中で、このプレイは高く評価したい。同じくレセプション免除のポイントゲッターの江畑幸子と交代で起用された が、「チームで一番スパイクのパワーがある。調子がいい時は非常に安定していた」と、眞鍋監督からもお墨付きをもらった。

 8月28日か ら、すぐに次の合宿が始まる。今大会で得られた収穫をしっかりとものにするのと同時に、明確になった課題をいかに修正するか。眞鍋監督のことだから、まだ 手の内を全部見せてはいないと期待したい。イタリアで行なわれる世界選手権は9月23日からスタートする。

中西美雁●文 text by Nakanishi Mikari