″家事ハラ″の前に考えたい、共働き夫婦の「家事負担」理想と現実

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■家事ハラとか意味が分からないが、夫に家事はさせねばならぬ

ここしばらくネットで話題になっているのが「家事ハラ」という話題です。

旭化成ホームズの共働き家族研究所が7月14日に発表したプレスリリースが話題の震源で、共働き家庭で夫が家事を手伝っている経験は93.4%と高いものの、65.9%は家事のやり方にダメ出しを受けている(これを同研究所は家事ハラと呼んでいる)、というのです。これをもって、家事ハラは夫の家事意欲を下げる(89.6%)としています。

実は岩波新書に「家事労働ハラスメント(竹信三恵子著)」という本がすでにあり、こちらではむしろ女性問題や貧困問題として家事の軽視ないし蔑視が議論されています。つまりまったく逆のことを同じ言葉で定義してしまったことがネットでの炎上理由のひとつとなっています。おかげで、旭化成ホームズのプレスリリースや広告キャンペーンはたくさんの批判を浴びているようです。(子育てママさんなら、SNSですでに記事をいくつも読んでいるかもしれません)

一度、旭化成ホームズのホームページを見てみると、いくつかおもしろい点が明らかになります。

まず調査結果によると、妻はフルタイム(8時間)で働く共働き夫婦がアンケート対象ですから、夫が家事を手伝う率が100%にならない、というのはなかなか意味不明です。夫は週末も勤務、平日も12時間労働でもしているのでしょうか。

また、93.4%が参加しているといっても、よく手伝うとしているのは47.2%であって46.2%はたまに手伝うと答えています。これも平日は手伝わないという雰囲気です。

今回、「家事ハラ」という言葉が一人歩きしていますが、まず考えるべきは「お互いフルタイムなのに夫が日常的に家事をするのは半分以下」という現状でしょう。お互いフルで仕事をしているのですから、どちらも家事をするのは前提とすべきです。

百歩譲って、夫のほうが年収が高いから家事負担が軽減されるといっても、妻400万円+夫600万円の夫婦であれば、妻6:夫4くらいで家事分担があってもおかしくないわけで、ゼロということはありえません。6:4というと相当の家事をこなさなければなりませんが、こうした割合で夫が家事を分担している夫婦はかなり少ないのではないかと思います。

「家事ハラ」はともかくとして、夫には今よりももっと家事をしてもらうことを考えるべきです。

■家事のルールははっきりさせておいたほうがいい

「家事ハラ」という言葉が一人歩きしている感があるものの、プレスリリースそのものの調査結果はなかなか興味深い内容が含まれています。まず、ダメ出しが出やすい家事の種類は夫婦双方とも「食器洗い」「洗濯物干し」が1位、2位となっています(洗濯ものたたみは7番目あたりに位置しており、作業としては区分されている)。夫が参加しやすい家事の筆頭であり、これに「風呂・トイレ掃除」「部屋掃除」が続いています。

また、どんなダメ出しがなされたかという結果もおもしろいものです。夫の回答結果の1位は「やり方が(妻のルールや手順と)違う!と指摘を受けた(42.6%)」で、2位は「やり方が雑、ちゃんとしていない!と指摘を受けた(39.8%)」となっています。「やり方が下手」と言われたのは3位です。一方、妻の回答結果は1位と2位が夫と逆で、3位は同じになります。

筆者の家庭も共働きで、比較的家事をやっていたほうだと思いますが、子育てが始まってからずいぶんダメ出しを受けています。そのほとんどが「子育て前にはやっていなかった家事にチャレンジした」場合で「彼女が希望としているルールや手順を外れると叱られる」というパターンです。まさに「やり方が違う!」のケースです。

男性的にいえば、がんばって未知の家事にチャレンジしたとき、だめ出しを食らうのは確かにキツいです。それなら手伝わなければよかったとよく思います(本人にもそう言ってます)。

このとき、筆者が妻に言うのは「仕様書があるなら明らかにしてほしい(彼女の仕事はIT系なのであえて「仕様書」と言っている)」ということと「人に頼むのであればクオリティが下がるのは容赦すべきだ」ということです。

期待している手順がありながら、それを伝えずに要件を満たしていないと文句をいうのはおかしな話です。もし手順が違うのであれば、手順を説明するしかありません。家事はローカルルールの山なので、納得のいく水準を求めるなら指導するしかないのです。これは育児がどんなに大変だろうが伝えるしかないのです。

我が家の場合、「うんちもれした場合の乳児の服洗い(キッチン用の薬用ミューズを使うのがコツらしい)」とか「保育園送り迎えの手順(着替え置き場の決まり事とか)」については共有のクラウドにルールを入力してその手順に従うようにしています。今では「離乳食の作り方マニュアル」なども共有されているため、妻の不在時にも私が子どもにご飯を食べさせることも安定的にできるようになりました。

男性に家事をさせるのは最初の数回がハードルです。マニュアルがはっきりしていたり、経験値が貯まると家事をどんどんこなす傾向があるように思います。共働きならなおさら、男性の家事参加をうまく促して欲しいところです。

■イクメンを気取りたいなら育児より家事だ!

イクメンという用語があまりにも安易に使われるようになっており、ちゃんと育児に参加している男性が使用をためらうまでになってしまいました。しかし、まじめにイクメンしている人はぜひイクメンであると堂々と声を上げて欲しいと思います。

このとき、私が男性にあえて言いたいのは「イクメンを気取りたいならむしろ育児をするな!」ということです。奥さんが必死に掃除をしている横で、子どもをあやして遊んでいるのがイクメンのイメージだとしたら、これは「しんどいことを女性にやらせて、楽しい時間を子どもと過ごす」ということです。

イクメンほど、育児ではなく家事をすべきだと思います。また、いいイクメンは家事もしっかりこなしているものです。母親が子どもと遊んでいるあいだに、掃除機をかけたり皿を洗ったり洗濯物を干すのがイクメンなのだと思います。

しかし、子育てがスタートしてからはじめて家事をすると、先ほどの家事ハラ問題に夫は直面します。不慣れで時間はかかるしクオリティは低いのだから当然、妻は怒ります。ただでさえ子育てで疲れている(あるいは仕事との両立で疲れている)のに、なんで夫の家事指導をしなければならないのだ、というわけです。

これをクリアする方法はもう、「育児スタート前に家事を覚える」ことにつきます。子どもが生まれるより前から、「共働きだから、家事もシェアしよう」という発想を当たり前に持つことが大切です。子どもが生まれる前なら妻も家事の指導をする余裕がありますので、男性は素直に教えを請い、女性は今のうちが家事を教えるチャンスと考えるといいでしょう(夫を叱るよりは褒めて伸ばしてください!)。

男性や妊娠期間中にぜひ家事を分担し、負担を増やす心構えも忘れずに。仮に年収比で家事分担もバランスが取れていたとしても、これから子育てという負担が増えることになり、また負担バランスは変わります。そう、子どもが生まれたら、男性は今までより家事負担を増やすのは当然のことなのです。

広告的に使われる「家事ハラ」という言葉はイマイチですが、これが共働き夫婦の家事シェアのあり方を考えるきっかけになればいいなと思います。

参考資料:旭化成ホームズ「30代〜40代・子育て中の共働き夫婦を対象とした「妻の家事ハラ」実態調査結果を発表」