6月からはiPad向けにも最適化され、より一覧性が高くなった

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日本で電子書籍が流行らないといわれたのも今は昔。気がつけばこの数年で、数々の電子書籍ストアが乱立する事態となりました。中でも人気が高いのが漫画で、最新作から往年の名作までずらりと揃っています。

でも、スマホの画面だと文字が小さすぎて読みにくいんですよ! また掲載作品が似たり寄ったりで、ストアごとに代わり映えがしない。冒頭だけ無料配信で余計にフラストレーションがたまってしまうことも。

もっとスマホに特化していて、オリジナル作品が充実していて、ずーっと無料で読めるサイトはないものか・・・。そんなワガママをしっかり受け止めてくれるサイトがありました。NHN PlayArtが昨年10月にオープンした「comico(コミコ)」です。

10月31日にはアプリ版comicoがiOSとAndroidで登場し、2月18日に100万、5月1日に200万、6月30日には300万ダウンロードと、アプリの普及に加速が付いてきました。iPhoneケースやTシャツなど、人気作品の公式グッズ販売も始まり、一気にブレイクしそうな予感です。

最大の特徴は通常の電子コミックのようにページを横にめくるのではなく、画面を縦にスクロールして読み進めること。当初はコマ割りが画一的な作品が多かったのですが、ここにきて縦に思いっきり長いコマを用いて、舞台劇のような演出を試みるなど、実験的な作品が見られるようになりました。

思えば今の漫画のコマ割りって、見開きで読ませるという雑誌の形態にあわせて進化してきたもの。媒体が変わると、それに従って新しいコマ割りが出てくるのも当然です。こうした遊び心が「漫」画ならではという感じでしょうか。

作品は1話につき短くて1〜2分、長くても5分程度で読み終わり、通勤時間に片手で読むのにぴったり。作品は毎週更新されていき、新作が出るとプッシュ通知でお知らせしてくれます。このほか会員登録をすればコメントを残せたり、好きなコマをキャプチャしてSNSに投稿できたりと、ネットならではの交流機能も盛りだくさんとなっています。

ランキング上位の作品は基本的どれも面白いんですが、ここでは個人的にオススメの作品を3作品、紹介しましょう。

■縦コマ多用! 書店員と編集者の恋「失格人間ハイジ」

小説家の夢に破れ、バイト先の書店で契約社員となった灰澤修治(29歳)、通称ハイジが恋した相手は自分より年収の高い編集者だった・・・。ハイジのダメっぷりもさることながら、ヒロインの一色ひかる(29歳)のグダグダぶりも負けず劣らずで、平成負け組恋愛事情って感じです。出版業界の裏側がちらりと覗けるのもポイント高し。でも一番のオススメポイントは、大胆な縦長ゴマの使用法です。回想シーンが映画のフィルム風になっていたり、列車の窓ガラスがコマになっていたりと、スマホならではの実験的描写がみられます。内容と表現方法の融合が興味深いです。

■骨から描きます! 美大生の恋と青春「人体解剖学 富沢ゼミ」

M美大の富沢ゼミに集うクリエイター志望の若者たちによる青春群像です。骨格標本を愛する学生の泉真生、筋肉専門の富沢教授、内蔵フェチの八乙女助手ら、登場人物はみな「天然」ばかり。ほのぼの系ながらも人体の構造がキッチリ解説されたり、美大生ならではの悩みなどが描かれていて好感が持てます。大腿骨を斜め内側から見下ろした時のなまめかしさについて、欄外で作者が熱く語る漫画は本作が初めてでしょう。ま、そんなことよりも本作の特徴は、骨から描いていること! 顔のアップを描くとき、鉛筆で頭蓋骨格から下描きしてるんですよ。そこまでやるかと、びっくりしました。

■写真を活用 どんどん猫が増えていく「猫嫌いの家に生まれた猫好きが猫と暮らす絵日記」

猫と暮らすために一人暮らしをはじめた作者によるエッセイ漫画で、猫の写真がバンバン出てきます。手書きの文字で猫の台詞が書かれていて、それぞれの描き分けも見事。猫好きにはたまらない漫画でしょう。そんなことより本作の見どころは、どんどん猫が増えていくんですよ。近くの公園が野良猫のたまり場で、見かねた作者が保護を進めた結果、常時十数匹と暮らすことに・・・。中には死に別れたり、里親にもらわれていったりした猫たちも。最近ではボランティア団体と交流し、本格的な保護活動に乗り出しています。漫画もさることながら、作者の行動がアクティブすぎて目が離せません。

とまあ、つらつら書きましたが、どれも「好きで描いている!」という感じが良く伝わってきます。紙の出版物の二次利用・三次利用では絶対に出せないオリジナルの魅力でしょう。またcomicoの特徴は媒体がアプリでリリースされている点もユニークです。そのため会員ごとに異なるプッシュ通知を送るなど、きめ細かいマーケティングが行われています。オリジナルの作品群とアプリメディア。この組み合わせから今後、何かドカンと新しい流れが生まれそうな気がします。ぜひ覗いてみてください。
(小野憲史)