いよいよブラジルW杯の開幕だ。注目の日本代表について、本田など何人かの選手は「優勝する」と発言しているけど、現実的な目標としては、決勝トーナメント1回戦で敗れた前回の南アフリカW杯以上の成績、つまり、ベスト8が妥当だろう。なんとかその目標をクリアして、日本サッカーの歴史に新たな1ページを刻んでほしいね。

ただ、少し心配なのは、選手もメディアもファンも楽観的すぎるように見えること。ベスト8進出はもちろん、グループリーグ突破だって簡単なことじゃない。なのに、メディアは本田の「優勝」発言をそのまま伝え、「史上最強」とファンを煽っている。

聞くところによると、日本代表のレプリカユニフォームは、前回の7倍のペースで売れているそうだ。そこまで期待が膨らむと、結果を出せなかったときの反動が怖い。何しろ日本人は熱しやすく冷めやすいからね。もしグループリーグで3連敗でもしようものなら、みんなサッカーへの関心を失ってしまう。そういう意味で、目標(ベスト8)は目標として、グループリーグ突破が最低限のノルマになるかな。

そのためにも、とにかく初戦のコートジボワール戦が重要だ。

前回の南アW杯で、初戦を落として決勝トーナメントに進んだチームは優勝したスペインだけ。また、過去の日本の成績を振り返っても、初戦に負けた1998年フランスW杯、2006年ドイツW杯はいずれもグループリーグで敗退している。だから、初戦は絶対に負けられないし、できれば勝ち点3を奪いたい。

相手のコートジボワールは、アフリカのチームらしく全員が強烈な身体能力を持つ。そして、ヤヤ・トゥーレ、ドログバ、ジェルビーニョらの中心選手は欧州のビッグクラブでの経験も兼ね備える。南アW杯の初戦で対戦した当時のカメルーンよりも、はるかに手強い相手だ。

また、4年前とは日本の立場も変わった。はっきり言って、南アW杯では対戦相手がナメてくれていた部分がある。当時は欧州で名前を知られた選手がいなかったからね。

でも、今回の日本選手の所属クラブを見ると、ACミラン(本田)、マンチェスター・ユナイテッド(香川)、インテル(長友)とビッグクラブが並ぶ。相手も気持ちを引き締めてくるだろう。厳しい戦いになるのは間違いないよ。

ただ、コートジボワールにつけ入る隙がないわけではない。確かに、攻撃陣はタレントぞろいだけど、守備陣はそれほどでもない。1対1の対人プレーは強いものの、裏に抜けるスピードに弱いんだ。ボールを奪ったら、手数をかけすぎず、素早く相手のDFラインの裏を狙う。そういう攻撃を何度も仕掛ければ、チャンスはつくれる。

理想は、昨年11月の親善試合のオランダ戦(2−2で引き分け)とベルギー戦(3−2で勝利)で見せた攻撃。2試合とも、日本は相手のミスをついてボールを奪い、カウンターで得点を重ねた。

そうした攻撃を仕掛けるためには、戦術以上に、選手たちのコンディションがカギを握る。初戦にピークを合わせられるか。事前合宿からの暑熱対策がどこまで効果を発揮するか。日本は試合中のペース配分が上手なチームではないだけに、そのマイナスをコンディション調整でどこまで補えるか。それは勝利の前提条件ともいえる。こればかりは僕ももう祈るしかないよ。

(構成/渡辺達也)