グーグルの新デバイス「クロームキャスト」はテレビ番組を駆逐するか?
5月28日、グーグルは新型デバイス「クロームキャスト」(税抜4200円)を発売した。
いったいどんなデバイスなのか? ITジャーナリストの三上洋氏に聞いた。
「簡単に言うと、クロームキャストはYouTubeなどのネット上の動画をテレビの大画面で見られるようにするアダプターです。動画出力は垂直解像度1080本のフルハイビジョンと高画質。その動画を自分が持っているスマホやタブレットでリモコンのように簡単に操作することができます。
これまでにも、アップルTVなどネット動画をテレビ画面で見られるデバイスはありましたが、それらはアップルならアップルのOSにしか対応していません。しかし、クロームキャストはアップル、Windows、Androidと、どのOSにも対応していることが新しい点です。
また、コンテンツも現在は『YouTube』、NTTドコモの『dビデオ』(有料)、au(KDDI)の『ビデオパス』(有料)だけですが、それ以外にも『ニコニコ動画』も『hulu』も前向きに検討したいとコメントを出していて、今後はもっと増えていくでしょう。
先行発売したアメリカでは生産が追いつかないほどの人気で、クロームキャストによってYouTubeの視聴者が増えたともいわれています。日本でもYouTubeやニコニコ動画をテレビ画面で見る人が増え、テレビ番組とテレビ画面の奪い合いになっていくんじゃないでしょうか」
では、こうした状況をテレビ局側はどうとらえているのだろうか。
元フジテレビ報道局解説委員で、現在はウェブメディア『Japan In−Depth』編集長の安倍宏行氏に聞いてみた。
「私もクロームキャストを買って使ってみました。これは、今までになかったテレビの使い方だと思います。今後は、テレビ番組を見るだけじゃなく、『dビデオで映画が見たい』などと家族でお茶の間にある大型テレビの画面の取り合いになる可能性もあるでしょう。
テレビ局として困るのは、リアルタイム視聴が減ること。ただ、現在はアーリーアダプター(新商品などをいち早く受け入れる人)が利用している状況だと思うので、すぐに視聴率に影響が出るとは思っていません。
しかし、中長期的に見たら、テレビ番組の視聴時間は減っていくと思います。そして、クロームキャストの発売は、テレビ画面がテレビ番組のリアルタイム視聴の道具だけではなく、ほかのいろいろなコンテンツを映し出す道具になったということで、エポックメイキングな出来事だと思います」
さらに、コンテンツの戦いだけでなく、「広告の分野でもクロームキャストが現在の状況を大きく変える」と前出の三上氏は言う。
「テレビ画面でYouTubeの動画を見るようになれば、YouTubeで放映される広告の価値はかなり上がるでしょう。
グーグルは、スマホで見ている広告、タブレットで見ている広告、クロームキャストで見ている広告をすべて判別できます。また、クロームキャストを使っていれば、何日の何時から、何回再生されたかなどの情報がわかります。そうなると、テレビ番組よりも広告効果が高くなるので、当然、広告料金も上がるでしょう。
この1、2年で劇的に変わるとは思いませんが、ジワジワと浸透して、気がつけば家庭のテレビ画面に映るのは、YouTubeやニコニコ動画などのネット番組だらけになっていたということもあり得ます」
テレビ番組とネットの戦いが、思わぬところで始まっていた。
(取材・文/村上隆保)