W杯に出場する日本代表の壮行試合は、演劇でいうところのゲネプロにあたる。国内で見せる最後のリハーサル。最終チェックの場だ。半分期待を寄せつつも、半分厳しい目で見つめる、いわばダメ出しの場だ。スタンドに駆けつけるべきは、良いプレイには拍手、悪いプレイにはブーイングができる、愛情溢れる目の肥えたファンだ。単純なクロスに大歓声をあげたり、大久保の登場に黄色い声援を送るファンではない。

 W杯の壮行試合はこれが5回目になるが、観衆の批評精神は98年、2002年より低かった。場内のムードは過去最低といいたくなるほど緊張感、緊迫感に欠けていた。W杯で上位進出をもくろむ集団を応援するに相応しい観客とは言えなかった。昨日ファンになった人も、何十年も応援している人も、チケットを横一線になって「ヨーイどん」で購入するネット販売の仕組みに問題ありと言いたくなる。

 とても素人っぽい観衆に囲まれて、国内最後の試合に臨むことになったザックジャパン。試合内容も推して知るべし、だった。どんなに攻めあぐんでも、多くの観客は常にニコニコ。これでは選手は背中を押されない。

 観衆の質をチャンピオンズリーグ決勝と比較するのはナンセンスだとはいえ、両者には大人と子どもほどの差があった。スタンドを支配するムードがこのままでは、今後、どんなに優秀な監督を招いてもザックジャパンの二の舞になるような気がする。

 試合の出来(レベルとエンタメ性)は4.5(10点満点)、という採点になる。

 以下、キプロス戦に出場した全選手を採点する。

【GK】
川島永嗣 5.5
その185センチの身長が、身長以上には見えなかった。全幅の信頼を寄せられる状態にはない。

【DF】
内田篤人 6
唯一の得点者ながら、全体を通しては、攻め上がりの回数も少なく躍動感に欠けた。キプロスと同じレベルで戦っていた。

今野泰幸 5.5
空中戦主体の相手の攻撃に対し存在感を発揮できず。持ち味であるはずの最終ラインでのゲームコントロールもままならなかった。

森重真人 5.5
ビルドアップ能力に欠けた。もっと長いパスを蹴れるようにならないと、もうワンランク上の国際試合ではきつい。

長友佑都 5.5
右の内田に比べ、常に高い位置を維持した。存在感は発揮した。プレイに元気はあったが、アイデアに乏しかった。技術にも鋭さ、キレを欠いた。ピーク時に比べると1.5割〜2割減といった感じ。

【MF】
山口蛍 5
大きなパスミスを犯し、シュートまで持っていかれた。W杯本番ならやられていたに違いない。以降、プレイは消極的に。その安全第一のプレイが、チームの活気を鈍らせる一因になっていた。

遠藤保仁 4.5
彼こそが本来の司令塔になるが、ボールが彼を経由しても、展開は良くならなかった。流れの中にさえ入れていなかった。心配だ。

香川真司 5
ボールを持って何かしようとするのだが、相手の逆を突けないので、負荷を常に背負っている。67分に放ったミドルシュートも、キック力不足。このプレイでは来季、マンチェスター・ユナイテッドでスタメンを確保するのは夢のまた夢。W杯で大活躍する姿も同様に想像できない。長いトンネルから抜け出せずにいる。

岡崎慎司 5
今季のブンデスリーガで15ゴールを挙げ、得点ランキング7位に輝いた選手。一皮剥けた感のある、いま日本人選手で最も勢いのある岡崎だが、代表チームの中に入ると、従来のヒエラルキーの中に収まってしまう悲しさがある。この試合でも典型的な"いい人"ぶりを発揮した。「俺に寄こせ!」と、ストライカーらしい良い意味での傲慢さは見せずじまい。危険な香りを漂わせずに終わった。俺様的なプレイを好む本田が、その周辺に絶えずいるためだろう。地味な役回りに徹することになるのは。前回、最も勢いのあった本田をトップで起用した岡田さんに倣い、岡崎もトップで起用するべきではないか。試合の途中からでもいい。日本を救うのはそのノリの良さしかない。岡崎もそれを自覚し、もっと偉そうにプレイすべきだ。

本田圭佑 4.5
これほど脆弱な本田を見た記憶はない。足下がフラフラ。何よりバランスが悪い。足先だけで誤魔化している感じ。フィジカルコンディションが悪いというより、身体が動かなくなってしまっている感じだ。躍動感、強引なプレイ、強シュート、ドリブル、逆サイドを見る視野の広さはどこへやら。痛々しい姿をさらけ出してしまった。ザックジャパンを僕はかねがね本田ジャパンと皮肉混じりに述べてきた。本田のワンマンチーム同然に見えたからだが、本番を迎えるに当たり、それでは世界に通用しないと僕は見る。本田はもはやかつての本田にはあらず。少なくとも4年前のレベルにはほど遠い。身体にすっかりバネ、元気がなくなっている。本田中心のチームに本田自身が耐えられなくなっている。

【FW】
柿谷曜一朗 5
プレイに関与する時間、機会に乏しい。チーム最大の得点源はストライカーである。チームで一番偉いのは中盤ではなくストライカー。本田、香川ではなく柿谷なのだ。そうした概念が日本の攻撃陣には欠けている。中盤至上主義にどっぷり浸かってしまっている。前回、岡田さんが採用した本田の0トップはそうした意味で理にかなっていた。中盤至上主義を逆に利用する方法と言えた。だが、ザッケローニにその頭はない。本田もトップを任せられる状態にはない。センターフォワード候補である柿谷、大迫勇也、大久保嘉人、そして岡崎は、もっと文句を言うべき。本田以下に注文をつけるべきだ。そうでないと劣化した攻撃陣を立て直すことは出来ない。

【交代選手】
長谷部誠 5.5
思ったより動けていたが、相手が交代のカードを次々に切ってきた中でのプレイだけに、全面的に信用するわけにはいかない。

酒井宏樹 5
見せ場なし。何のために入ってきたのか。彼らしさは少しも発揮されなかった。

吉田麻也 5
重い印象。フットワーク、バランスに難があった。

大久保嘉人 6
衰えが目立つ本田と、元気の良い大久保。衰えは目立つが中心に位置する本田と、新参者の大久保の関係は見物。大久保がもしセンターフォワードで起用されるなら、本田にガンガン注文をつけるべき。本田中心では攻撃陣の劣化は止められない。

清武弘嗣 5
ザッケローニは相変わらず評価しているようだが、デビュー当時の輝きはもはやすっかり失われている。

伊野波雅彦 採点なし
サイドバックとして、どのような場合に投入されるのか。使い方が見えてこない。

【監督】
ザッケローニ 5
本田を攻撃の中心とするチームのセンターフォワードに柿谷は不向き。サイドで試すべきだった。大久保の投入も遅い。大久保は、好調を維持する数少ない選手。にもかかわらず、これまで彼を招集しなかった。最後の最後になって、遅まきながらようやく選んだわけだが、だとすれば頭から使い、W杯まで時間がない中で積極的に可能性を探るべきだろう。だが結局、投入は後半13分から。ポジションはセンターフォワードだった。本田中心の攻撃陣にあっては、大久保のセンターフォワードも不適切。大久保は香川のポジションこそが適切ではないかと思う。本田と香川。彼らは1トップ下と4−2−3−1の3の左で90分間、フルにプレイしたが、そこまで外せない選手だろうか。もはや両者にかつての勢いはない。ゼロベースでの見直しが求められている。

杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki