ユッテ・ファンデルウェルフテンボスは、10歳の息子にもう「あの話」をした。そういう会話を既に数回している。

 と言っても、セックスの話ではない。安楽死の話だ。

「息子が死にたいと言えば、その決断を支持する」と、彼女は言う。「私のために生きてもらうつもりはない。息子自身の生と死の問題だから。わが子が死にたいのなら死なせてあげるのがいい親だと思う」

 架空の世界の話ではない。ファンデルウェルフテンボスと4人の子供たちが暮らすベルギーでは、今年早々に子供の安楽死を認める法律が成立しそうだ。

 この法案は、末期症状の病気に苦しむ未成年者に、死を選択する権利を認めるものだ。年齢制限はない。ベルギーでは02年に、本人の同意を前提に成人の安楽死が合法化されている。

「子供だからと言って、親の意向を押し付けるべきではない」と、ブリュッセル大学病院の小児腫瘍科医であるファンデルウェルフテンボスは言う。「癌などの末期患者の子供は、精神的な成熟が早い。自分の生と死に向き合い、どのように死にたいかを深く考えている。親より勇気のある子供もいる」

 今回の安楽死法案は、医師が未成年の末期患者に安楽死を選ぶよう勧めることも認めている。子供が死を選べば、親はその意向に従わなくてはならない(ただし、従わなかった場合の罰則は定めていない)。実際の処置は、主に医師が筋弛緩剤か鎮静剤を過量投与することで行われる。そうすると患者は昏睡状態になり、やがて息を引き取る。

 成人の安楽死を認める法律ができて以来、ベルギーでは安楽死を望む患者が増えており、その数は年間1400人を超す。現在、本人以外が処置を行う形での安楽死を認めている国は、ベルギー、ルクセンブルク、オランダの3カ国だ。

 しかし、子供の安楽死を合法化する動きは、さまざまな倫理的・道義的・法的ジレンマを生み出している。親がわが子の安楽死を主張することは、いかなる状況でも許されるのか? 安楽死を選べば周囲の人の人生にも大きな影響が及ぶことを考えると、大人のような合理的判断力のない子供にその選択を委ねていいのか?

[2014.1.21号掲載]

エリーサーベト・ブラウ