『がんばらない』著者・鎌田實「○でもなく、×でもなく、△に生きろ!」
ベストセラー『がんばらない』や『いいかげんがいい』(ともに集英社文庫)の著者で、『news every.』(日本テレビ系)のコメンテーターとしても活躍している医師の鎌田實(かまた・みのる)センセイが、今度は“△に生きろ!”という不思議な本を出版した。
△の意味とはなんなのか? ○という勝ち組になれなかったアラサー男子は、どのように△に生きればいいのか? とりあえず“がんばらない”で“いいかげん”に聞いてみた?
■ペットを抱くとモテるようになる?
―早速ですが、“△(さんかく)に生きる”というのはどういうことなんですか?
鎌田 そうだなあ、例えば原発に関していうと、原発推進か反原発かで今ヒステリックに分かれているでしょ。みんな○(まる)か×(ばつ)かで意見を戦わせている。でも、現実はその間にある△を選ぶということがとっても大事になってくるわけです。
―原発を維持しながら、少しずつ脱原発するとかですね。
鎌田 そう。世間でいわれている正論や正解という“○”と、その反対の“×”の間には、○に近い△から、×に近い△まで無数の△があるわけです。
―ああ、そうですね。
鎌田 原発という堅苦しい話じゃなくて、健康法の話をしましょうか。僕は長生きのために“だらしないベジタリアン”というのを勧めているんです。ベジタリアンというくらいだから、普段は野菜を中心に食べているんだけれど、友達から焼き肉に誘われたりすると、喜んでついていってたくさん肉を食べてしまう。ベジタリアンになったら菜食主義を徹底する人がいるけど、そういう○にこだわらず、たまには肉を食べる。これが△な生き方ですよ。そして、そのほうが長生きできる。
―なんかラクで、楽しそうな生き方ですね(笑)。
鎌田 そう。人生は楽しまなくちゃいけない。若い人に興味ある話でいうとAKB48。総選挙で1位から64位まで順位がつけられるけど、誰もが応援する1位や2位の人のファンになるんじゃなくて、たとえ64位以下の人でも、その人のいいところを見つけて、自分だけでもファンになる。そういうことができると生きていくのが楽しくなるんです。
―△に生きるということは、みんなが○だと思っていることに流されない生き方ということですか。
鎌田 みんながいいという○ではなく、自分に合った△を見つけるということ。△に生きると人生が楽しくて自由になれるんですよ。僕は、大学の医学部を卒業して、累積赤字4億円という、今にも潰れそうな病院へ赴任した。そんな所に行くのは僕ひとりだった(笑)。
―そりゃそうでしょうね(笑)。
鎌田 △というより×みたいな病院だったけど、×みたいな世界だったからこそ、ほんのちょっと何かをすると×からすぐ△になった。そして×に近い△になるだけで、みんなから「すごーい!」って褒(ほ)めてもらえた。だからすごく楽しくて、なんでも自由にできた。
―ああ、なるほど……。
鎌田 逆に大きな立派な病院に行ったって、楽しく自由に生きていない医者もいるんです。この間、日本最大級の医療グループが選挙違反で強制捜査を受けましたよね。それで病院長を含む16人が「もっと患者さんを大事にする病院にしよう」って、経営陣に反旗を翻したんです。ということは、それまでは自由になんでも言える病院じゃなかったということ。大きな群れの中に入っちゃうと、結局、群れの一匹としか扱われないから、周りの空気を読んで、きゅうきゅうとして生きていかなければいけない。すごいストレスのなかで生きてるわけですよ。これだと人生が楽しくもないし、自由でもない。
―そうですね。
鎌田 だから、自分は今負け組だ、×だと思っている人がいたら、それはほんのちょっとしたことで、すぐに楽しくて自由な△になれる可能性がある場所にいるっていうことなんです。今いる×の世界は楽しくないかもしれないけれど、そのすぐそばにある△の世界はとっても楽しくて自由なんです。
―じゃあ、その△に生きるためには、まずどんなことをすればいいんですか? 例えば、女のコにモテるようになるためには?
鎌田 考え方をちょっと変えるだけでいい。モテない男は、女のコとエッチをしたいっていう本能だけで頭がいっぱいになっているのだろうけれど、このときに相手のことを少し考えてみる。この相手のことを考えるというプロセスを入れるだけで、×だったものが△に近づくんです。
―相手のことを考える?
鎌田 認知症のケアにバリデーション療法というのがあるんですが、みんなが認知症の人に「この人は価値ある人だ」と思って接していると、認知症の人がそれまでしていた迷惑行為がものすごく少なくなるんです。人間は他人から価値ある人だと思われるだけで心が変化するんですね。だから、自分が好きになった女性のことをまずは、すごく価値のある人だと思って大切に接してあげてください。それだけで“×”から“×に近い△”になれるかもしれない。
―へぇ〜。
鎌田 それから、人は人と抱き合うとオキシトシンというホルモンが出ます。これはストレスを緩和したり、感染症を予防したりする効果があるんですが、このオキシトシンというホルモンが出ると人に対してすごく親切になるんです。だから抱き合うパートナーがいるとオキシトシンがたくさん出て、そのパートナーに優しく接することができる。また、パートナーだけじゃなく、ほかの人にも親切にできるようになるから「あの人、優しいわね」って、パートナーとは別の異性からモテるようになる。さらに、異性だけじゃなく社会貢献もするようになるから、「あの人、偉いね。カッコいいわね」となってどんどんモテるようになる。
―モテのスパイラルじゃないですか! センセイ、それ、男同士で抱き合ってもいいんですか?
鎌田 男同士でもいいし、動物でもいい。
―じゃあ、ペットでもいい?
鎌田 いい。それに、これはどこから手をつけてもいいんです。ボランティアみたいな社会貢献をするとオキシトシンが出ますから、そうすると人に優しくできて、モテるようになる可能性があります。
―すごいじゃないですか!
鎌田 他人を価値ある人だと思ったり、ボランティアをしてみたり。そんなちょっとした行動で、×から△になれるかもしれない。そして△という生き方をすれば、人生が自由に楽しくなるんですよ。
―センセイ、△に生きる方法をもっともっと教えてください。
鎌田 じゃあ、この本(『○に近い△を生きる』)を買ってください。そんなちょっとした行動が大事なんです(笑)。
―う〜ん、そうきましたか(笑)
(取材・文/村上隆保 撮影/森モーリー鷹博)
●鎌田實(かまた・みのる)
1948年生まれ、東京都出身。東京医科歯科大学医学部卒業。74年、長野県・諏訪中央病院に赴任。84年、病院長に。05年、名誉院長に就任。チェルノブイリやイラクの救護活動を長年続けている。
■『○に近い△を生きる 「正論」や「正解」にだまされるな』(ポプラ社新書・819円)
「○ と×」「勝ちと負け」という発想ではなく、その間にある無数の△を見つけて、その△で生きていくことが大切だと教えてくれる