史上初となる三冠を達成した美里工が21年振り2度目の秋を制覇!

優勝旗を手にする美里工業

 一年生で唯一の公式戦である一年生中央大会で昨年優勝、翌二年生となってからの新チーム初の公式戦となる新人中央大会でも優勝した現美里工ナインが、沖縄県高校野球史初となる三冠(※)へ挑んだこの秋季大会。

第一シードとして、またこの年代では無敗の王者として周りからかけられるプレッシャーを跳ね除けてきたナインが苦しみながらも決勝を制して、1992年に優勝したとき以来となる21年振り2度目の頂点に立った。

※参考記録 : 興南高校1984年一年生中央大会優勝1985年新人中央大会優勝同年秋季県大会準優勝

チームを支えた上位打線で最後も決勝点を演出!これが美里工の強さだ!

美里工・長峰飛翔

 美里工の先発は、去った第95回全国高校野球選手権沖縄県大会の決勝で沖縄尚学を相手に投げたサイドスローの長嶺 飛翔(つばさ)。「そのイメージもありましたけど、前日の宜野座戦で10得点取ったこともあって、ストレートには強いと。今日はスライダーを中心に攻めていこうとキャッチャーの翔と話し合っていました」という長嶺は、切れ味抜群のスライダーで沖縄尚学打線から空振りを奪っていった。前半の3回を終えて許した走者は与えた四球ひとつのみ。一方、沖縄尚学の先発の山城 大智もヒットは打たれるが単打に抑える。試合が動きそうになったのは4回。沖縄尚学は一死からキャプテン赤嶺謙がレフトへ二塁打を放つと、続く上原 康汰のセンターフライで三塁を陥れ、さらに四球でニ死一・三塁としたが、与那覇 廉がセンターフライに打ち取られるなど、一気に長嶺を崩すことが出来なかった。

対する美里工も直後の5回、四球で走者を出すと松堂 正のバントヒットでオールセーフ。一塁カバーに入ったときに少し慌てた場面を見て、二塁走者が果敢に三塁を狙ったが、ここは沖縄尚学の久保 柊人が落ち着いてサードへ転送しアウトにした。

5、6回と三者凡退で切り抜けた長嶺は7回、上原康の内野安打と犠打で一死ニ塁を背負うが次打者をセンターフライに打ち取ると、長打力のある安里 健と無理に勝負せず敬遠気味の四球で空いている一塁へ歩かせ、山城を狙い通りの三振に斬った。「球が浮いてきていた」(神谷嘉宗監督)のと、ほぼ100球に近い96球だったこともありここでお役御免。初めから考えていたという伊波 友和へスイッチした。

ミスを帳消しにする一閃!激戦に幕を閉じたホームラン

延長10回、走者一掃のタイムリーを放つ美里工・花城 航

 美里工優勝の影のヒーローといえば、優れたバットコントロールで斬り込み隊長として活躍したヒットメーカーの神田 大輝と、試合状況を冷静に見る判断力に加え、ベンチからのあらゆる指示に応えることが出来る高い技術力を持った最高の繋ぎ役である西藏當 祥(にしくらとう・しょう)が挙げられる。神田は決勝戦までの5試合全てで複数ヒットをマーク(投手のレベルが上がる準決勝と決勝の2試合でも8打数6安打)するなど21打数15安打、打率は驚異的な.714にまで跳ね上がる。2番に座る西藏當は12打数4安打と平凡ではあるが、6打点とチャンスに強く且つ得点は11を数えた。さらに四死球7つを選べば、犠打も5つを記録するなど、玄人好みの選手だ。

そんな1、2番を長打力のある宮城 諒大(9打点)と花城 航(7打点)のクリーンアップが返す理想の上位打線が美里工の強さでもある。それが如実に現れたのが延長10回だった。8回から登板し、2イニングを完璧に抑えて波に乗る伊波が先頭打者として打席に立ちライト前ヒットで出塁。犠打で進めると、ここまで2安打の神田がセンター前へ抜けようかというしぶとい当たりを放ち(沖縄尚学ショートの砂川修が抑えて内野安打)、一死一・三塁とチャンスを広げた。そして打席には西藏當。

「スクイズやエンドランなど、何をしようかと相手を伺いつつ」(神谷監督)の美里工ベンチだったが、沖縄尚学バッテリーにプレッシャーを掛けつつボール球を見極めた西藏當が四球を選んで満塁。「ああなったら思い切り」(神谷監督)の指示に、宮城 諒大があわや満塁弾かというような大ファールで会場をどよめかす。結果はセカンドゴロの本塁転送フォースアウトとなったが、逆にあのファールで花城も思い切り振れるだろうと指揮官は期待していた。当の本人も「おいしい場面だなとワクワクしながら打席に入りました」と、プレッシャーなど微塵も感じさせない。この試合、山城が投じた127球目のストレートを「張っていた」という花城のバットがジャストミート。打った瞬間にそれと分かる、右中間真っ二つの走者一掃タイムリー三塁打で夏の決勝で敗れた沖縄尚学に引導を渡し、三位決定戦に続く緊迫した延長戦を制した。

敗れた沖縄尚学だが、エース山城はこの日も規定の9回を終え無失点。二回戦の興南、準々決勝の真和志、準決勝の宜野座(5回コールド)を含めると32イニング連続無失点。美里工・伊波友和や八重山商工馬場寿希矢と同じく、最高位の投手として大会を彩った。惜しむらくは、前日の宜野座戦で爆発した打線が長嶺の前に沈黙してしまったことか。それでも来たる第133回九州地区高校野球大会で、十分に上位進出が可能な好選手が揃うチームだ。(厳密に言えば連覇ではないが)秋の王者として連続優勝を狙って欲しい。

余談だが夏の決勝戦と同年秋の決勝戦が全く同じ顔合わせというのはこの57年間(沖縄県高校野球連盟発足=1956年以降)で4度しかなく、1986年の沖縄水産ー興南戦以来となる27年振り。20世紀の沖縄県高校野球史で名を馳せる両校は、この前年である1985年の夏と秋のファイナルをも戦った。智将神谷監督率いる美里工と、若き大将である比嘉公也監督率いる沖縄尚学も、最高のライバルとしてこれからも数々の名勝負を繰り広げていくのかも知れない。

(文・写真:當山 雅通)

美里工   TEAM   沖縄尚学 守備位置 氏名 打順 守備位置 氏名 中堅 神田 大輝 1番 左翼 西平 大樹 二塁 西藏當 祥 2番 遊撃 砂川 修 一塁 宮城 諒大 3番 中堅 赤嶺 謙 三塁 花城 航 4番 一塁 上原 康汰 捕手 與那嶺 翔 5番 捕手 伊良部渉太 遊撃 石新恭士 6番 右翼 与那覇 廉 左翼 安座間 樹 7番 三塁 安里 健 投手 長嶺飛翔 8番 投手 山城 大智 右翼 松堂 正 9番 二塁 久保 柊人