森川快刀投手(帯広三条)

土壇場で追い付かれても！

延長10回裏。二死から死球で走者を出し、盗塁を決められても、マウンドのエースで主将・森川 快刀(2年)と帯広三条ナインは冷静だった。北照のバッターは2番北原海登(1年)。ここまでの4打席はしっかりと打ち取っていた上に、6回の第3打席ではドラッグバントをしてきた打者だ。外野の頭を越える確率は低い。だからこそ9回に追いつかれた時のように、内野手と外野手の間に落とされぬよう、外野手は浅く守った。1ボール2ストライクからの4球目、森川の球に手を出した北原の打球はショートゴロ。橋本陸(1年)がしっかりとさばき、試合終了。3連覇を狙った王者・北照を見事に破った。そして無失策での勝利。校歌を斉唱し、スタンドへの挨拶に駆けだすナインは満面の笑みを浮かべていた。

冷静沈着な主将の森川は、｢まだ若干何が起きたのかわからない｣と目を丸くしながらインタビューに応えた。山本浩介監督は、｢打ち合いになったら勝てないが、終盤に競り合いになれば勝機はあると思っていました。無失策はビックリです｣と願い通りの展開での勝利を掴んだ選手を讃えた。

立ち上がりの1回、先攻の帯広三条は1番山口順也(2年)が二塁打を放った。その後二死となるが、チャンスが広がって、5番角玄隆斗(1年)がライト線へと落とすタイムリー。森川がマウンドに上がる前に1点が入った。

その森川は、アンダースローから浮き上がる独特の直球に、変化球を効果的に交えて北照打線を打ち取っていく。北照の河上敬也監督は、｢コントロールが良くて、ピッチングが上手｣と相手エースを見つめる。特にフライアウトが多く、完全に打たされていた印象が強かった。最後の打者となる北原が6回に仕掛けたドラッグバントは、打たされる中で『正攻法で打つよりも、出塁できる確率が高い』と見てのもの。それだけ森川の球に威力があったということだろう。

1点を失ったが、北照の先発・山田 宏夢(2年)も立ち直り、ゲームは“スミ1”の展開となっていた。終盤にかけて、ファウルで粘る北照打線に徐々に球数が多くなる森川。だが、打者に対して終始ストライクから入ってカウント有利の形ができていたことが、精神的に楽な気持ちをもたらしていた。

しかし完封目前の9回裏、なりふり構わず選手を代えてきた北照が、代打・西川和希(2年)のセンター前へと落とすタイムリーで、ゲームを振り出しに戻した。3連覇を狙うチームが見せた意地。｢ボール球を投げたかったが、握力が弱くなっていて、抜けて甘くなってしまった｣と悔やむ森川。

それでも、｢あそこで気持ちを切り替えられなかったら、夏と同じになる。しっかり次のバッターを抑えようと思った｣という森川の脳裏には、9回に逆転サヨナラ負けを喫した北北海道大会準決勝(旭川南戦)の悔しさがある。だからこそ勝利寸前の土壇場で追い付かれても、表情をほとんど変えなかった。そしてすぐに気持ちを切り替えて抑え、延長に持ち込んだ所を、野球の神様は見逃さない。

10回に一死一塁から9番川岸優太朗(1年)が仕掛けたバントを、処理したファースト・土門 愛大(2年)がセカンドへ悪送球。ボールがレフトへ転がる間に、走者の丸子隆一郎(2年)が決勝点となるホームベースを駆け抜けた。

王者を破ったとはいってもまだ1回戦。｢僕たちの野球は一戦必勝。先を見ずに、集中して次の試合をやりたい｣とエースで主将は連戦となる2回戦に目を向けた。

北照三連覇ならず

一方で敗れた北照は、打線が帯広大谷・森川の投球術にはまり、わずか4安打と沈黙。立ち上がりを1点で凌いだものの、徐々に重くのしかかる典型的なパターンだった。

その1回の1点。先発の山田は、山口に二塁打を浴びた後、犠打を挟んで、3番ピッチャーの森川に四球を与えている。一死一、三塁で4番中田陽介(2年)が打席の時、一塁走者の森川に対し執拗に牽制球を投じた。相手投手が走者の時の牽制は勝負の常道手段でもあるが、山田自身のコントロールがまだ定まっていなかった。結局中田も歩かせてしまい、『森川に対して気を使いすぎた』という印象が残った。その直後の5番角玄のタイムリーだったのである。次の打者を併殺に打ち取り、何とか最少失点で凌いで立ち直っただけに、少しもったいない失点だったようにも感じる。

もう一つは、エースナンバーの齋藤 綱記(2年)を使えなかったこと。試合後半に何度かブルペンに足を運んで準備をしている姿があったが、山田に代走を出した後の10回のマウンドにはレフトを守っていた土門が上がった。この場面が、齋藤が使えないということを暗に示している。

そして土門は先頭打者に四球を与え、今度はファーストを守る川端 翔(1年)とポジションチェンジ。ファーストに回った土門が送球ミスを犯してしまい、決勝点を与えた。

試合後に項垂れていた土門だが、この試合に関してはまだファーストに守り慣れていない状況。レフトでうまくバックアップできなかった岡本 飛雅(2年)も、この回からの起用だった。

表面上はミスで1点を与えた形だが、色んな要素が重なってのもの。勝負の難しさを感じる10回の攻防だった。

｢力不足｣と河上監督が話したように、まだチームができたばかりの秋。北照ナインは大きな宿題をもらって来年夏へ向かって冬場に立て直しを図る。　

(文＝編集部）