シングルマザーとして2014年ソチ五輪出場を目指している、フィギュアスケート安藤美姫(25歳)。彼女が9月21日、茨城県内で行なわれたアイスショーにゲスト出演し、取材に応じた際の言動が波紋を呼んでいる。

当日は安藤の今季のショートプログラム(SP)が初披露されたのだが、その使用曲名をニュースや記事で公表しないよう報道陣に申し渡したのだ。この前代未聞の通達の理由は、本人によれば、「他社(フジテレビ、テレビ朝日)との契約がありますので」というもの。

だが、仮にメディアが曲名を伏せたとしても、演技を見た観客がツイッターなどに書き込めば簡単にバレてしまう。その可能性を記者のひとりに指摘されると、彼女はこう言い放ったのだ。

「ファン同士で語るのと紙面で発信するのは一緒にしちゃダメだと思う。それなら取材する必要はないと思いますし」

これに激怒したのが報道陣だ。

民放テレビ局のスポーツディレクターのA氏が語る。

「ショーの主催者側がオープンに取材を受け入れている以上、一選手が自身の使用曲の公表を禁じる権利などないし、メディアの側が通告に従う義務もない。“契約”とやらがどのような内容にしても、それは彼女と両局との間の問題であって、こちらにはまったく関係ないんですから」

それに加えて、まさかのメディア軽視発言が火に油を注いだ。

「例の極秘出産の際には、誰に頼まれてもいないのに、『報道ステーション』で“独占告白”するなど、自分だってメディアを都合よく利用してきた。なのに、『取材する必要はない』とは、どの口が言えるのでしょう?」(A氏)

安藤とのやりとりの間こそ誰もが平静を装っていたが、取材終了後、フジ、テレ朝以外の記者たちは「何さまのつもり?」などと不満をぶつけ合い、果ては「だったら各社でスクラム組んで、安藤絡みの報道を一切やめようか」といった取材ボイコット話にまで発展しかけた。

だが、いろいろ話題を振りまいてくれる彼女は、今やメディア各社にとって浅田真央以上においしい取材対象という現実がある。

スポーツ紙フィギュア担当記者のB氏は、こうため息をつく。

「僕らはしょせんサラリーマン記者。兵隊レベルの話し合いで、集団ボイコットなどできるはずもありません。また、曲名を公表して安藤側の機嫌を損ね、出入り禁止にでもなれば、こっちのクビが飛ぶ。だから、結局は理不尽な申し渡しを受け入れ、渋々ながら曲名を伏せることにしたのです」

とはいえ、彼らにも意地がある。例えば、新聞記者なら記事中に、「『自分らしい演技、色を出したい』との思いでバラード曲を選んだという」(スポーツニッポン)「テーマは『今までも、これからも自分の道を歩いていく』」(日刊スポーツ)

などと書き、SPの曲名が『マイ・ウェイ』であることを読者にほのめかして、可能な限りの抵抗を見せたのだった。

「なんとも彼女らしいベタな選曲ですよ。波瀾万丈の人生を重ね、自己陶酔しながら氷上を舞うんでしょうね」(B氏)

観客席からの反応が少なからず採点に影響するなど、人気商売の側面もあるフィギュア選手にとって、自分を報じてくれるメディアは共存共栄のパートナーだ。しかも、出産によるブランクがある安藤がソチ五輪に出場するためには、短期間のうちに国内外の大会で好成績を挙げ続ける必要がある。

そんな彼女にとって、特定のテレビ局ばかりと通じ、他メディアから反感を買うのは、決して得策ではないように思えるのだが……。