チャンピオンズリーグ(CL)、シャルケ対ステアウア・ブカレスト戦。67分、シャルケの先制点は内田篤人の右足から生まれた。

 右サイドでセンターバックからのパスを受けた内田は、ゴール前に走り込むボアテングの姿を見極めると、上がり切らずにクロスを放り込む。ボールはボアテングには合わず流れてしまったが、結果的にゴールマウスに吸い込まれた。ボアテングのシュートを予測していた相手GKは動けず、先制点となった。味方が駆け寄ってくるが、当の内田本人はバツの悪そうな顔をしながら、「僕のゴールではない」と否定するような手を振る仕草を見せた。

「もっと普通のゴールが良かった。ケビン(ボアテング)がつめてくれて、ほとんど彼のゴールだと思います。彼が呼んでいたのでクロスを入れた。彼はゴール前で本当に質のいいプレイをしてくれる。まあ、クロスは流れちゃったけど」

 ゴールシーンを振り返るテンションはやや低かった。

 内田にとって、シャルケ在籍4年目で3度目のCL出場だ。CLは内田が最も楽しみにし、気合いを入れて臨む大会でもある。ただ、その楽しみ方もこれまでとは少し違ってきている、と言う。

「リーグとCLは違いますからね。あのアンセムを聞くと、この舞台に帰ってきたなと思う。CLに出れるチームというのは少ないから、そこにいられるのは幸せなこと。でも僕の中では、試合に出られるかということより、次のステップ、つまり勝たなきゃいけないというところに進んでいる。試合に出られるかを気にするより、次に行きたい」

 1年目からチームの主力ではあった。多くの選手の出入りがあった中で、内田は変わらず右SBを守っている。チームの古株として、もしくは年齢的に中堅からベテランに位置する者として、自覚が備わり始めたようだ。

「1年目はラウルに引っ張られ、ノイヤーに支えられ、もちろん他のチームメイトにも支えられましたけど、それで戦った。その後、主力が何人か抜けて、新しい選手を獲って(チームは変わった)。自分の中でも、これだけ試合に出させてもらったのだから、やらなくちゃ、という気持ちが大きい。支えられているところもあるけど、 走って戦えればいいと思います」

「走って戦うなんて、シャルケっぽいな」と、付け加えながら笑った。これまでとは違う覚悟があることが、言葉からにじみ出る。

 この日のブカレスト戦、前半からペースを握ったのはシャルケだった。だが、ゴールをこじ開けることができない。

「ホームだけど、簡単じゃないってことはわかっていた。相手もCLに出てくるくらいのチームなので。後ろは耐えるだけだった。2試合連続で無失点が続いていたこともあって失点したくなかったし、相手には自由にさせたら怖い選手がいるから」

 悪い雰囲気を察してか、ハーフタイムのロッカールームは静かだったのだと言う。そして後半に入ると一転、試合はブカレストのペースが続く。

「向こうも良い選手が多いから(先制点は)ラッキーだった。後ろはほんとに耐えるだけだった。前が(点を)取ってくれるのを待つ、という。自分的にはセットプレイとカウンターでゲーム展開的にぽろっとやられるのが怖かった」

 そんな矢先に生まれたのが内田のゴールだった。その後は一気に流れが変わり、3−0というスコアにつながった。

「うちは流れに乗ったら強いんです。スタジアムが"1点取れ"と後押ししてくれる。昨年、一昨年のCLでも、アウェーで耐えてホームに戻ってくればやれる、というのがあったから。うちはファンに後押しされている」

 内田は日頃から「何があっても一喜一憂はしない」ように心がけているのだそうだ。その通りに低く落ち着いたテンションで話を続けた。

 この勝利に安堵している暇はない。中2日でバイエルンをホームに迎える。

「こっちは中2日、相手は中3日か......。でもホームに来てくれるからね。ノイヤー(バイエルンのGK)に恥ずかしくない試合をしたい。2試合連続ゴール? ないない」

 相変わらず低いテンションのまま、内田は「帰ってご飯食べて寝ます」と言ってスタジアムを後にした。平常心を保つ内田はこの先どんな活躍を見せてくれるのか。楽しみなCLの舞台になりそうだ。

了戒美子●文 text by Ryokai Yoshiko