さらに付け加えるならば、好調時と比べて今の涌井投手は、上半身を高い位置で使ってしまっている。これをもう少し低い位置で使うようにしなければ、せっかく作り上げた強靭な足腰を使い切れないばかりか、スモーキースタイルを取り戻すこともできないだろう。そして強靭な下半身を使い切れていないばかりに、下半身で生み出したエネルギーが投球動作の途中で、体から投球方向以外の方向に逃げてしまっているのだ。それは右足部の動きを見れば一目で知ることができる。これもやはり、好調時の涌井投手の投球動作とは異なる点だ。

ライオンズは近年、目まぐるしく投手コーチの入れ替えを行っている。そのため、涌井投手の好調時の投球動作が頭にしっかりと焼き付いているコーチが不在なのかもしれない。筆者のように涌井投手のピッチングをプロ入り前からずっと見続けているようなコーチが、恐らくライオンズには今不在なのだろう。石井貴コーチは確かに長年涌井投手とは一緒にプレーしてきたが、しかし選手とコーチという立場での付き合いはまだ長くはない。そういう意味でも渡辺久信監督は、職域を侵してでも涌井投手を徹底的に指導するという覚悟を持つべきなのかもしれない。いや、もちろん監督としそれが難しいのは筆者にもよく分かる。これからは優勝争いが更に激化していく。そんな中で監督が、監督以外の職務を果たそうとすることは物理的に難しいのかもしれない。だが涌井投手がプロ入りした2005年以降、涌井投手を見続けている指導者は唯一渡辺久信監督だけだ。だからこそ今、渡辺監督の直接指導が涌井投手には必要なのだ。

親のような立場で接することも必要だ。昨日見せた渡辺監督の涌井投手への怒りも、涌井投手への愛情や期待があってこそのものだ。だが今はそんな愛情表現よりも、涌井投手を知り尽くす渡辺久信投手コーチの腕の見せ所ではないだろうか。例えば渡辺監督が徹夜をしてでも涌井投手に付き添い、涌井投手の復調のサポートをしたならば、涌井投手自身も心中更に期するものが芽生えてくるだろう。2軍監督時代のように、涌井投手の首根っこを掴んで雷を落とすような、そんなスキンシップを絡めた、存在を近くに感じられるような渡辺監督の指導に筆者は期待を寄せたい。それがあるだけでも、涌井投手はきっと変わるはずだ。

Written by カズ(リトルロックハートベースボールラボラトリー/チーフコーチ
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