ボサボサ髪の少女探偵『名探偵マーニー』
現在二巻まで発売されている『名探偵マーニー』は、タイトルと表紙ではいまいちどんな内容か、わからない。
「名探偵」ってくらいだからねえ。推理とかするんでしょ、探偵なんでしょ。
はい、そうです。推理します。探偵が主人公です。
しかし、1話読むだけでわかります。これは探偵物であり、探偵物じゃない
主人公は表紙にいるボサボサ髪の少女、マーニー。
彼女の父は「ロイド探偵事務所」を営んでおり、それに伴うように娘のマーニーも探偵業を行なっています。
日当5千円+経費。成功のあかつきにはその三倍。これって高いんですかね安いんですかね。安そうですが。
起きる事件は、ストーカー調査、人探し、写真の流出などなど。地味です。
殺人や強盗など、推理探偵ものにつきもののようなデカい事件は、ほとんど起きません。
マーニーは事件に没頭するクセがあり、思考世界に入ってしまうと頭を金田一耕助のようにボリボリとかきながら、夢中になります。
あえていえばその分析能力が彼女の特技なんですが、ちょーっと探偵マンガの特技としてはパッとしません。
このマンガのポイントはマーニーが優れた探偵だ、ということではない。
いや、優れてるんですよ。でもそれを超越しているものがあるからこのマンガすごいんです。
推理モノは、犯人に当たる人間が動機があって、ゆえに人に迷惑をかけたり踏み外した行動をとることを暴くのが重要なところです。
トリックはその味付け。大事なのは「動機」です。
この作品は「動機」に深く切り込みました。
例えばマーニーの友人、ゆりかちゃんの場合。
彼女は何度も出てくるレギュラーキャラなんですが、彼女から人探しの依頼がマーニーに入ります。
親戚の結婚式と葬式で出会った人に恋に落ちてしまった。その相手を探してほしい。
ここまでなら普通の探偵物です。マーニーは調査に移ります。
そこで、2つのことが判明するのです。
その一つが、ゆりかちゃんは他人の結婚式に勝手に参列して幸福な気分になるのが趣味というとんでもない事実でした。
なんだそれ!
もう一つはよんでチェックしてみてください。
まー、普通ではないですよ。だめでしょうそれ。めっ。
ただ「常軌を逸した行動」かというと、……まあ常識は外れているけれども、逮捕されるほどでもない。だれも迷惑かかってないし。
こうして、週刊チャンピオンの柱にゆりかちゃんの紹介が出てくる度に、結婚式に忍び込むのが趣味、と書かれるようになりました。
恥ずかしいこれは恥ずかしい。
このマンガに出てくるキャラクターに、明確な「犯人」にあたるものはほとんどありません。
「犯人」とは、何らかの危害を加える意思を持って、犯罪をおかす人、という意味です。
意図的に誰かに迷惑をかけようとする、わかりやすい「悪」があまりないんです。
結果、迷惑になっちゃった、という顛末なんです。
私怨、怒り、恨み、嫉妬……描かれていないわけではないですが、推理モノとしてはありえないくらいに、これらの感情がありません。
幸せになりたい。
生きている証を得たい。
平安を得たい。
そんな当たり前の感情の人間ばかり。
ただ、それを表現する方法がおかしかっただけ。
江戸川乱歩の小説に出てくる奇人達に近いでしょう。乱歩のキャラは踏み外してますが。
常識では思いつかない行動を、常識の範囲内でとる人間達の物語なのです。
色々な快楽や喜びや幸せがあって、そのためにとった行動はちょっと理解の範疇外。
でもその行動は、なんとなく感覚としてわかる部分もある。
オムニバスで数多くの人間の「わからないけどわかる行動」が描かれていきます。
ここは推理モノの一番の面白い部分なのであえて書きません。
読み進めれば「なんだそれ!?」という物が多いし、「でもまあ、わからんでもない」というものばかりだ、とだけ述べておきます。
21世紀人の、やさしくてブラックな怪人列伝。
『名探偵マーニー』はそんな作品です。
怪人っていっても、何の能力もない、普通の人間。ただ心の裏が表に出る時、ちょっと奇怪なだけ。
その「だけ」が面白い。
かつて『フランケン・ふらん』という作品では人間の業を交えてグロテスクな怪奇譚を描き、『ヘレンesp』では三重苦の少女を通じて明るい希望に満ちた人間を描いた作者の木々津克久。
ブラックとホワイトを経て、作者の興味が人間のありのままに向かっているのも興味深いところです。
それにしても、毎週ここまで怪人達が出てくるのは、面白いんですが……続けるの大変そうだなあといらん心配をしてしまいます。
人間の心って、視点を変えたらここまでたくさん謎が出てくるものなんだなあ。
100人いたら、100通りなんか別のもの抱えてるんだな、人間は。
やっぱり、事件の内容よりも、人間の心の方が、奇っ怪だ。
木々津克久『名探偵マーニー 1』
『名探偵マーニー 2』
(たまごまご)
「名探偵」ってくらいだからねえ。推理とかするんでしょ、探偵なんでしょ。
はい、そうです。推理します。探偵が主人公です。
しかし、1話読むだけでわかります。これは探偵物であり、探偵物じゃない
主人公は表紙にいるボサボサ髪の少女、マーニー。
彼女の父は「ロイド探偵事務所」を営んでおり、それに伴うように娘のマーニーも探偵業を行なっています。
日当5千円+経費。成功のあかつきにはその三倍。これって高いんですかね安いんですかね。安そうですが。
殺人や強盗など、推理探偵ものにつきもののようなデカい事件は、ほとんど起きません。
マーニーは事件に没頭するクセがあり、思考世界に入ってしまうと頭を金田一耕助のようにボリボリとかきながら、夢中になります。
あえていえばその分析能力が彼女の特技なんですが、ちょーっと探偵マンガの特技としてはパッとしません。
このマンガのポイントはマーニーが優れた探偵だ、ということではない。
いや、優れてるんですよ。でもそれを超越しているものがあるからこのマンガすごいんです。
推理モノは、犯人に当たる人間が動機があって、ゆえに人に迷惑をかけたり踏み外した行動をとることを暴くのが重要なところです。
トリックはその味付け。大事なのは「動機」です。
この作品は「動機」に深く切り込みました。
例えばマーニーの友人、ゆりかちゃんの場合。
彼女は何度も出てくるレギュラーキャラなんですが、彼女から人探しの依頼がマーニーに入ります。
親戚の結婚式と葬式で出会った人に恋に落ちてしまった。その相手を探してほしい。
ここまでなら普通の探偵物です。マーニーは調査に移ります。
そこで、2つのことが判明するのです。
その一つが、ゆりかちゃんは他人の結婚式に勝手に参列して幸福な気分になるのが趣味というとんでもない事実でした。
なんだそれ!
もう一つはよんでチェックしてみてください。
まー、普通ではないですよ。だめでしょうそれ。めっ。
ただ「常軌を逸した行動」かというと、……まあ常識は外れているけれども、逮捕されるほどでもない。だれも迷惑かかってないし。
こうして、週刊チャンピオンの柱にゆりかちゃんの紹介が出てくる度に、結婚式に忍び込むのが趣味、と書かれるようになりました。
恥ずかしいこれは恥ずかしい。
このマンガに出てくるキャラクターに、明確な「犯人」にあたるものはほとんどありません。
「犯人」とは、何らかの危害を加える意思を持って、犯罪をおかす人、という意味です。
意図的に誰かに迷惑をかけようとする、わかりやすい「悪」があまりないんです。
結果、迷惑になっちゃった、という顛末なんです。
私怨、怒り、恨み、嫉妬……描かれていないわけではないですが、推理モノとしてはありえないくらいに、これらの感情がありません。
幸せになりたい。
生きている証を得たい。
平安を得たい。
そんな当たり前の感情の人間ばかり。
ただ、それを表現する方法がおかしかっただけ。
江戸川乱歩の小説に出てくる奇人達に近いでしょう。乱歩のキャラは踏み外してますが。
常識では思いつかない行動を、常識の範囲内でとる人間達の物語なのです。
色々な快楽や喜びや幸せがあって、そのためにとった行動はちょっと理解の範疇外。
でもその行動は、なんとなく感覚としてわかる部分もある。
オムニバスで数多くの人間の「わからないけどわかる行動」が描かれていきます。
ここは推理モノの一番の面白い部分なのであえて書きません。
読み進めれば「なんだそれ!?」という物が多いし、「でもまあ、わからんでもない」というものばかりだ、とだけ述べておきます。
21世紀人の、やさしくてブラックな怪人列伝。
『名探偵マーニー』はそんな作品です。
怪人っていっても、何の能力もない、普通の人間。ただ心の裏が表に出る時、ちょっと奇怪なだけ。
その「だけ」が面白い。
かつて『フランケン・ふらん』という作品では人間の業を交えてグロテスクな怪奇譚を描き、『ヘレンesp』では三重苦の少女を通じて明るい希望に満ちた人間を描いた作者の木々津克久。
ブラックとホワイトを経て、作者の興味が人間のありのままに向かっているのも興味深いところです。
それにしても、毎週ここまで怪人達が出てくるのは、面白いんですが……続けるの大変そうだなあといらん心配をしてしまいます。
人間の心って、視点を変えたらここまでたくさん謎が出てくるものなんだなあ。
100人いたら、100通りなんか別のもの抱えてるんだな、人間は。
やっぱり、事件の内容よりも、人間の心の方が、奇っ怪だ。
木々津克久『名探偵マーニー 1』
『名探偵マーニー 2』
(たまごまご)