人気ドラマ「最高の離婚」を振り返る。今夜、最高の最終回となるか
桜もだいぶ咲いてきましたが、今年は目黒川の桜がやけに気になります。
なぜなら、ドラマ「最高の離婚」(フジテレビ 木 22時)のメインロケ地が目黒川沿いだったからです。
震災をきっかけに結婚した濱崎光生(瑛太)と結夏(尾野真千子)の夫婦と、光生が学生時代につきあったことがある灯里(真木よう子)と上原諒(綾野剛)の夫婦が、偶然、目黒川周辺に住んでいたことから、2組の交流がはじまります。
しかし、どちらも夫婦生活が順風満帆とはいかず……。
紆余曲折ありまくりのアラサー夫婦2組の愛のゆくえが、結婚してる人にもしてない人にも気がかりだったこの3ヶ月間ですが、ついに最終回がやってきてしまいました。
濱崎家(瑛太と尾野真千子)と上原家(真木よう子と綾野剛)に、いったいどんな結末が待っているか早く知りたい反面、このカップルのあれやこれやをもっと見ていたい、まだ終わってほしくな〜い! と名残惜しい気持ちもあって、大変複雑ですが、楽しかった3ヶ月に感謝しながら、ドラマを振り返ってみたいと思います。
多くの恋愛ドラマは、主人公のふたりが最終的には結ばれるであろうと思って最終回まで見続けるわけですが、このドラマは、瑛太と尾野真千子夫婦が、1話から2話にかけて、いきなり離婚届けを提出してしまいます。
彼らが元に戻るのか、真木よう子と綾野剛夫婦とシャッフルされるのか、はたまた、全員バラバラになってしまうのか、簡単には予想がつきません。
この展開が、並のミステリードラマよりもワクワクさせられるものでした。
結婚して2年。瑛太演じる光生は神経質な性分で、尾野真千子演じる結夏のがさつさが気に触り、偶然再会した元カノ・真木よう子演じる灯里(マッサージ師という癒し系にして、しっとり色っぽい)に引かれていきます。
しかし、灯里は光生との恋愛に全くいい記憶を残していませんでした。
灯里は、好きなジュディマリの曲をバカにした上に、灯里の父親がサメに食われてなくなったことを知らずに「サメに食べられて死ぬのだけはいや」と「ジョーズ」を見ながら口走った光生を、「死ねばいいのに」と思っていたと激白します。
知らなかったこととはいえ、光生、迂闊過ぎ。
でも、この展開に、ギュッと心をわしづかみにされてしまいました。
妻への不満をべらべらと実に饒舌に語っていた光生が、自分だって他人の気持ちに無神経だったという事実を痛烈に突きつけられたことに、溜飲が下がる思いです。
相手が何を考えていたのかわからないまま、すれ違って別れてしまうことはありがちです。
「最高の離婚」では、回を増すごとに、こういう他者にはわからない当人の気持ちが、紋切り型でない、冴えた台詞やエピソードによって、どんどん明かされていきました。
第3話では、諒が不倫相手に、なぜ浮気をするかについて、テトリスに例えて話します。テトリスですよ、テトリス。ここもつかみポイントでした。
後に、十代の恋愛トラウマのせいで幸せになるのがこわい病のため、浮気をし続けるのだということもわかります。
それにしても、綾野剛は、こういうちょっと病的な役を演じることが巧い。
今回は、瑛太もエキセントリックな役ですが、直線定規のようなヘンさの瑛太と、柔らかな布のようにふわっとつかみどころのないヘンさの綾野剛とのバランスが面白かったです。
第4話では、結夏が泣きながら光生への思いをぶちまけます。
光生は結局ひとりが好きなのだとわかりながら、いつか家族を思いやるようになることをずっと願っていたという結夏の気持ちが、尾野真千子さんの熱演で胸に迫ります。ここはギュギュッと大きいつかみです。
おもしろいのが、既に離婚とどけを出している光生と結夏ですが、なぜか同居を続けているんですよね。
2人の会話はほんとうにテンポがよくて楽しめます。
息はすごく合ってるのに、生活の仕方が合わないなんて、なんとかならないものでしょーか。
上原家は上原家で、諒が婚姻届を実は出していなかったことが判明し、第5話では、
再び灯里が辛い思いを激白。
最初のうち、灯里はドライな性格なのかと思っていたら、全然そんなことがなくて、心の中ではくよくよ考え、溜めに溜めていたのです。こわっ。
出生地の青森弁になることで、さらに心の奥深くの本音が出てきたのだと思わせるという、ここもまた上質なつかみポイントでありましょう。
というか、灯里と諒も、なんだかんだあっても、湿った性格同士、相性いいんでは?
脚本は坂元裕二。
近作は「それでも、生きてゆく」や「負けて勝つ〜戦後を創った男・吉田茂〜」など。安定して良作を生み出し続ける頼もしい作家です。
坂元は、登場人物の本音がわかったと思ったら、またはぐらかし、役の心を、いわゆる最近のお天気のように、いきなり夏日が来ちゃったり、嵐が来ちゃったりするようにクルクル変えていきます。
結夏は、光生がすごく好きなのに、彼から離れていこうとします。
せっかく、気の合う年下の好青年(窪田正孝)といい感じになっても、
第7話では、「幸せになるために、好きになるわけじゃないから」なんてことを言い出す始末。
一方、光生は、通院していた歯科の衛生士といい感じになったり、「死ねばいいのに」と思われていた灯里ともなぜかいい感じになっていきます。
第8話で、光生と灯里が居酒屋で飲んでいて、次第に甘い雰囲気になっていく時のくすぐったい空気感がものすごくよく出ていました。ここは演出もうまかったと思います。
あるある、こういうこと!って記憶の引き出しをくすぐられた人も多いのではないでしょうか。
4人が集まって話し合うのだけれど、もつれまくるという状況も、他人事には思えません。
諒は、灯里と寄りを戻したいのですが、灯里はキッパリ突っぱねます。
一途な結夏が、酔うとキス魔になってしまう性分が災いして、諒とキスしてしまうなんて展開もあって、それはいくらなんでもどうなの〜!? と物議を醸しつつ、第9話では、灯里に赤ちゃんができたことがわかります。
父親は……諒です。
これをきっかけに、諒と灯里の仲は復活するでしょうか?
そして、光生と結夏は?
注目ポイントは、ひとり上手だった光生が、だんだんと他人のことも考えるようになっているところです。
光生も成長しているんですよね。メガネとってイケメン化もしてます。
灯里もいつの間にか「嘘がないから」光生に好感をもつようになりました。
諒も灯里も嘘をついて生活していたので、それに疲れてしまったんですね。
とはいえ、最終回直前の10話では、光生がなぜか地下アイドルのライブを初体験して、まんざらでもない様子でした。
まさかこのまま、結婚よりアイドル、みたいなことになっていくわけじゃないよね? と思うのですが……。
どうなるのか気になって気になって、身悶えし過ぎて、体がねじ切れそうです。
ひとつわかるのは、このドラマ、「幸せになるために、好きになるわけじゃないから」という台詞からもわかるように、理屈ではないんですね。
ただただ誰かと一緒にいたいという感情というか生理に突き動かされた人たちが、生き生きと描かれています。
その最たるものがエンディングでの4人。
桑田圭佑の主題歌「Yin Yang」のメロディにのって4人が踊っていますが、その色っぽくて、かつユーモアもあるダンスのように、求め合う男と女は、当人たちは懸命だけど、傍から見たら可笑しい生き物なのです。
人はひとりでは生きられない。
それが生理であり、真理です。
その証拠に、光生は、常にものすごくいろんなことを考えていますが、思いを決してひとりごとにしません。
常に誰かに語りかけています。
妻への愚痴は、通っていた歯医者の歯科衛生士相手に語っていました。
ひとりが好きだという光生ですが、自分の思ってることを誰かに聞いてもらわないといられないのです。
しかし、第10話になると、ついに光生はひとりごとを言います。
以前は妻が座っていた、空っぽの椅子に向かって、ひとりごとを語り始めた時、
彼の孤独が痛いほど伝わってきました。
ちなみに諒も、不倫相手や、公園でホームレスらしきいおじさん相手に身の上を語ります。灯里もサウナで同席した人にぶっちゃけトークするし、結夏は光生の思いを手紙に書きます。
本音も嘘も、誰かがいるからこそ存在するもので、
ひとりだったら本音も嘘もありません。
名台詞やおもしろ台詞だって生まれないでしょう。
このドラマには、
「今度は最高の結婚をして下さい」とか
「色鉛筆と同じ。大事なものから先になくなるの」とか
「鬼嫁になるか、泣く嫁になるかの二択しかない」とか名台詞もたくさんありますし、すごくたわいないおもしろ台詞もふんだんでした。
「ピッタリ500円(円形ハゲの寸法を硬貨ではかって)」「それ必要な情報かな」
とか「僕が あぁ、あのお尻いいなぁ。かわいいなぁ〜 と思うのは、ドナルドダックだけです」とか「16か月だよ? ちょっと弱ったハムスターだったら死んでしまう期間だよ?」とか枚挙にいとまありません。
こういう言葉もすべて、誰かといるから交わせるのです。
だから、このドラマを見ていると誰かと一緒にいたくなっちゃうんですよね。
そうそう、濱崎家で飼っている猫もちゃんと2匹です。
最終回、それぞれの登場人物は、誰といっしょにいるでしょうか。
願わくば、最高の面白い会話を交わしてほしいな。
(木俣冬)
なぜなら、ドラマ「最高の離婚」(フジテレビ 木 22時)のメインロケ地が目黒川沿いだったからです。
震災をきっかけに結婚した濱崎光生(瑛太)と結夏(尾野真千子)の夫婦と、光生が学生時代につきあったことがある灯里(真木よう子)と上原諒(綾野剛)の夫婦が、偶然、目黒川周辺に住んでいたことから、2組の交流がはじまります。
しかし、どちらも夫婦生活が順風満帆とはいかず……。
紆余曲折ありまくりのアラサー夫婦2組の愛のゆくえが、結婚してる人にもしてない人にも気がかりだったこの3ヶ月間ですが、ついに最終回がやってきてしまいました。
多くの恋愛ドラマは、主人公のふたりが最終的には結ばれるであろうと思って最終回まで見続けるわけですが、このドラマは、瑛太と尾野真千子夫婦が、1話から2話にかけて、いきなり離婚届けを提出してしまいます。
彼らが元に戻るのか、真木よう子と綾野剛夫婦とシャッフルされるのか、はたまた、全員バラバラになってしまうのか、簡単には予想がつきません。
この展開が、並のミステリードラマよりもワクワクさせられるものでした。
結婚して2年。瑛太演じる光生は神経質な性分で、尾野真千子演じる結夏のがさつさが気に触り、偶然再会した元カノ・真木よう子演じる灯里(マッサージ師という癒し系にして、しっとり色っぽい)に引かれていきます。
しかし、灯里は光生との恋愛に全くいい記憶を残していませんでした。
灯里は、好きなジュディマリの曲をバカにした上に、灯里の父親がサメに食われてなくなったことを知らずに「サメに食べられて死ぬのだけはいや」と「ジョーズ」を見ながら口走った光生を、「死ねばいいのに」と思っていたと激白します。
知らなかったこととはいえ、光生、迂闊過ぎ。
でも、この展開に、ギュッと心をわしづかみにされてしまいました。
妻への不満をべらべらと実に饒舌に語っていた光生が、自分だって他人の気持ちに無神経だったという事実を痛烈に突きつけられたことに、溜飲が下がる思いです。
相手が何を考えていたのかわからないまま、すれ違って別れてしまうことはありがちです。
「最高の離婚」では、回を増すごとに、こういう他者にはわからない当人の気持ちが、紋切り型でない、冴えた台詞やエピソードによって、どんどん明かされていきました。
第3話では、諒が不倫相手に、なぜ浮気をするかについて、テトリスに例えて話します。テトリスですよ、テトリス。ここもつかみポイントでした。
後に、十代の恋愛トラウマのせいで幸せになるのがこわい病のため、浮気をし続けるのだということもわかります。
それにしても、綾野剛は、こういうちょっと病的な役を演じることが巧い。
今回は、瑛太もエキセントリックな役ですが、直線定規のようなヘンさの瑛太と、柔らかな布のようにふわっとつかみどころのないヘンさの綾野剛とのバランスが面白かったです。
第4話では、結夏が泣きながら光生への思いをぶちまけます。
光生は結局ひとりが好きなのだとわかりながら、いつか家族を思いやるようになることをずっと願っていたという結夏の気持ちが、尾野真千子さんの熱演で胸に迫ります。ここはギュギュッと大きいつかみです。
おもしろいのが、既に離婚とどけを出している光生と結夏ですが、なぜか同居を続けているんですよね。
2人の会話はほんとうにテンポがよくて楽しめます。
息はすごく合ってるのに、生活の仕方が合わないなんて、なんとかならないものでしょーか。
上原家は上原家で、諒が婚姻届を実は出していなかったことが判明し、第5話では、
再び灯里が辛い思いを激白。
最初のうち、灯里はドライな性格なのかと思っていたら、全然そんなことがなくて、心の中ではくよくよ考え、溜めに溜めていたのです。こわっ。
出生地の青森弁になることで、さらに心の奥深くの本音が出てきたのだと思わせるという、ここもまた上質なつかみポイントでありましょう。
というか、灯里と諒も、なんだかんだあっても、湿った性格同士、相性いいんでは?
脚本は坂元裕二。
近作は「それでも、生きてゆく」や「負けて勝つ〜戦後を創った男・吉田茂〜」など。安定して良作を生み出し続ける頼もしい作家です。
坂元は、登場人物の本音がわかったと思ったら、またはぐらかし、役の心を、いわゆる最近のお天気のように、いきなり夏日が来ちゃったり、嵐が来ちゃったりするようにクルクル変えていきます。
結夏は、光生がすごく好きなのに、彼から離れていこうとします。
せっかく、気の合う年下の好青年(窪田正孝)といい感じになっても、
第7話では、「幸せになるために、好きになるわけじゃないから」なんてことを言い出す始末。
一方、光生は、通院していた歯科の衛生士といい感じになったり、「死ねばいいのに」と思われていた灯里ともなぜかいい感じになっていきます。
第8話で、光生と灯里が居酒屋で飲んでいて、次第に甘い雰囲気になっていく時のくすぐったい空気感がものすごくよく出ていました。ここは演出もうまかったと思います。
あるある、こういうこと!って記憶の引き出しをくすぐられた人も多いのではないでしょうか。
4人が集まって話し合うのだけれど、もつれまくるという状況も、他人事には思えません。
諒は、灯里と寄りを戻したいのですが、灯里はキッパリ突っぱねます。
一途な結夏が、酔うとキス魔になってしまう性分が災いして、諒とキスしてしまうなんて展開もあって、それはいくらなんでもどうなの〜!? と物議を醸しつつ、第9話では、灯里に赤ちゃんができたことがわかります。
父親は……諒です。
これをきっかけに、諒と灯里の仲は復活するでしょうか?
そして、光生と結夏は?
注目ポイントは、ひとり上手だった光生が、だんだんと他人のことも考えるようになっているところです。
光生も成長しているんですよね。メガネとってイケメン化もしてます。
灯里もいつの間にか「嘘がないから」光生に好感をもつようになりました。
諒も灯里も嘘をついて生活していたので、それに疲れてしまったんですね。
とはいえ、最終回直前の10話では、光生がなぜか地下アイドルのライブを初体験して、まんざらでもない様子でした。
まさかこのまま、結婚よりアイドル、みたいなことになっていくわけじゃないよね? と思うのですが……。
どうなるのか気になって気になって、身悶えし過ぎて、体がねじ切れそうです。
ひとつわかるのは、このドラマ、「幸せになるために、好きになるわけじゃないから」という台詞からもわかるように、理屈ではないんですね。
ただただ誰かと一緒にいたいという感情というか生理に突き動かされた人たちが、生き生きと描かれています。
その最たるものがエンディングでの4人。
桑田圭佑の主題歌「Yin Yang」のメロディにのって4人が踊っていますが、その色っぽくて、かつユーモアもあるダンスのように、求め合う男と女は、当人たちは懸命だけど、傍から見たら可笑しい生き物なのです。
人はひとりでは生きられない。
それが生理であり、真理です。
その証拠に、光生は、常にものすごくいろんなことを考えていますが、思いを決してひとりごとにしません。
常に誰かに語りかけています。
妻への愚痴は、通っていた歯医者の歯科衛生士相手に語っていました。
ひとりが好きだという光生ですが、自分の思ってることを誰かに聞いてもらわないといられないのです。
しかし、第10話になると、ついに光生はひとりごとを言います。
以前は妻が座っていた、空っぽの椅子に向かって、ひとりごとを語り始めた時、
彼の孤独が痛いほど伝わってきました。
ちなみに諒も、不倫相手や、公園でホームレスらしきいおじさん相手に身の上を語ります。灯里もサウナで同席した人にぶっちゃけトークするし、結夏は光生の思いを手紙に書きます。
本音も嘘も、誰かがいるからこそ存在するもので、
ひとりだったら本音も嘘もありません。
名台詞やおもしろ台詞だって生まれないでしょう。
このドラマには、
「今度は最高の結婚をして下さい」とか
「色鉛筆と同じ。大事なものから先になくなるの」とか
「鬼嫁になるか、泣く嫁になるかの二択しかない」とか名台詞もたくさんありますし、すごくたわいないおもしろ台詞もふんだんでした。
「ピッタリ500円(円形ハゲの寸法を硬貨ではかって)」「それ必要な情報かな」
とか「僕が あぁ、あのお尻いいなぁ。かわいいなぁ〜 と思うのは、ドナルドダックだけです」とか「16か月だよ? ちょっと弱ったハムスターだったら死んでしまう期間だよ?」とか枚挙にいとまありません。
こういう言葉もすべて、誰かといるから交わせるのです。
だから、このドラマを見ていると誰かと一緒にいたくなっちゃうんですよね。
そうそう、濱崎家で飼っている猫もちゃんと2匹です。
最終回、それぞれの登場人物は、誰といっしょにいるでしょうか。
願わくば、最高の面白い会話を交わしてほしいな。
(木俣冬)