/中国から撤退してもしなくても、現地の工場や店舗は潰れるときには潰れる。むしろ遠い将来を見据え、ツケを恩義ある従業員や顧客に押しつけたりすることなく、堂々とした姿勢を貫く覚悟が日系企業に問われている/

 いま、一連の騒動で多くの日系企業が中国からの撤退を検討している、と言う。挙げ句には、恩を仇で返した、などと騒いでいるやつまでいる。だが、将来の世界を考えるとき、十三億の優れた労働力と購買力を抱える中国を無視して、経営が成り立つのか。この程度のことで浮き足立っていたのでは、あれだけの大国と今後も互角にやっていくことなどできるものか。そしていま、彼らもまた日系企業の心底を見極めようとしている。

 1942年、日本軍が上海租界に攻め込み、米英の銀行と企業を接収した。アジア生命保険会社もまた強制的に清算を命じられ、社長のリッチフィールドはやむなくそれに従った。その作業は昼夜の休み無しに経理部で行われた。だが、日曜の夕方、社長の自宅に経理部から連絡が入った。香港支社の勘定分が除外されていたことに日本人将校が気づいて激怒している、と言う。さて、どうするか。

 社長のリッチフィールドは考えた。1いますぐ会社に出て行って日本人将校に説明する。だが、興奮している相手に弁明すれば、よけいに怒りを買って殺されるだろう。2ここから逃げる。だが、上海を出る前に捕まって、その場で殺されるだろう。3しばらく会社には行かず、すべて現場のせいにする。だが、向こうから逮捕にやって来て、結局は自分も最後の責任者として殺されるだろう。つまり、どのみち殺される。

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