米国民は経済的自由を満喫しているのか?

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今回はWillyさんのブログ『統計学+ε: 米国留学・研究生活』からご寄稿いただきました。

■米国民は経済的自由を満喫しているのか?

戦後の日本の雇用制度は社会主義的な色彩が強く「日本は最も成功した社会主義国」などと揶揄されることもあるが、それでは米国民は日本と違って自由経済の恩恵を満喫しているのだろうか?
答えは、イエスでもありノーでもある。

肯定的な側面から取り上げよう。
米国企業は、有能な経営者や専門職には多額の報酬を支払っている。時価総額で上位100位に入るような企業のCEOは、典型的に3〜6百万ドル程度の報酬を得ており、さらにストックオプションを受け取る事も多い。役員クラスでも大抵、年間百万ドル以上の報酬を受け取っている。専門職では、PhDやMBAの新卒で10万ドル以上を受け取ることが多く、管理職につけば年収が20万ドルに達する職業は珍しくない。報酬の分配という面では、米国は資本主義的に物事が決まっていると言えるだろう。

しかし、国民が稼いだお金を自分の好きなように使っているのだろうか、というと少なくとも日本との比較において、その答えは完全にノーだろう。

まず、米国の世帯収入5〜10万ドル程度の中間所得者層に対する実行税率は日本に比べて非常に高い。ラフに言って、単身者世帯では5万ドル、夫婦では9万ドルを超える世帯年収に対する限界税率は、35%を超す。その内訳は、連邦税の限界税率が25%、社会保障税が7.65%、州税はミシガンであれば、4.35%である。日本では、年収800万円(約10万ドル)での限界税率は、単身者世帯でも26%、4人家族では23%程度に過ぎない。

こうした高率の所得税を免れるためには、多額のローンを組み不動産を購入して所得控除を増やすか、401(k)や403(b)、457(b)といった個人年金に加入する必要がある。こうした年金は制度により多少の違いはあるものの、基本的に59.5歳以前に引き出すと多額のペナルティーを課せられるものが多い。もちろん、それまで待ってもその時に所得税がいくらかかるかは誰にも分からない。ただし、こうした年金も住宅を購入する際には特例として引き出せることが多い。簡単に言えば、政府は中間所得者層に対し、精一杯の住宅ローンを組むか、還暦を迎えるまでお金に手をつけないかの二者択一を迫っているというわけだ。それでは高い所得税を払えばあとは自由にお金を使えるかというと、残念ながらこれもそうではない。

大学の学費高騰は、米国の最大の社会問題の一つだが、子供の奨学金の受け取りに関し、親の資産にはペナルティーが課せられる。米国の大学に進学する際に受け取れる奨学金やローンの額は、年毎に[大学進学にかかる経費] ー [各家庭の支払い可能額(EFC)]を計算し、それを元に決められるのだが、EFCには親の資産の5.64%、子供の資産の20%がカウントされる。親の資産には控除額があるものの、わずかに4万5千ドル(360万円)に過ぎない。実質的にこれがどれくらいのペナルティーになるかどうかは、いくらの財政援助を受けられるか、そのうち何割が給付となるかによるが、お金のある私立大学が必要な額の全額を給付するという最良のケース(=最悪のケース)では、4年間で親の資産の約2割、子の資産の約6割もが没収されるに等しいことになる。このEFCの算出に当たっても、政府の公式では自宅の不動産と年金が除外される。私立大学はこうした資産を含めて計算することが多いという話も聞くが、少なくとも政府のメッセージは、「4万5千ドル以上の貯蓄をするのはけしからん。家か年金に回せ。」ということなのだ。

「分かった、引退後は自分の資産を自由に使えるんだね?」