と人々は考えるかも知れないが、実態はそうではない。
つかの間の快適なリタイヤ生活を楽しんだあと、介護が必要になった場合を考えてみよう。

日本では入居待ちの問題はあるにせよ、特別養護老人ホームに入れば、要介護度5で個室に入居という一番高いケースでも自己負担は月約13万円に過ぎない。ただし、これは介護保険からの補助が月約25万円出るためだ。

米国では、軽い生活の補助が必要な人が老人ホームに入ると年4万ドル、介護老人ホーム(nursing home)に入ると年8万4千ドルかかるそうだ(ソース*)。これは2010年のデータだが、費用は1年でそれぞれ5.4%、4.6%上昇した。現在、介護老人ホームに入る費用は9万ドルを優に超えていることになる。アメリカの老人用医療保険であるメディケアは、こうした介護費用を短期間の例外を除き負担しない。一方予めプライベートの介護保険に入っておく人は、わずか5%程度だという。そもそも、そんな経済的余裕のある人は多くない。結局、自分の財産で支払うことになるが、大半の人は半年以内に一文無しになるそうだ。(思い出して欲しい。政府に取って4万5千ドル以上の貯蓄は「ケシカラン」のだ。)結局、政府の低所得者向け保険 medicaid に入れてもらい面倒を見てもらうことになる。

*:http://www.elderlawanswers.com/resources/article.asp?id=8717&Section=4&state(※現在リンク切れ)

medicaidに入るためには、金融資産が2000ドル以下でなければならず、その他の資産は、身の回り品、車1台と525000ドルまでの自宅不動産しか許されない。

つまり、米国では中流階級が老後に備えると同時に子供にささやかな財産を残そうと思うなら、無理して大きな家を買い、金の時計やダイヤのジュエリーをたくさん身につけ、お金に余裕があるなら大きなキャデラックやBMWに乗りつつ、いざとなった時には相部屋で介護を受けながら侘しい生活を送るという覚悟を決めることが、合理的な選択なのだ。

日本では、日本人とアメリカ人はアリとキリギリスに例えられるが、アメリカ人の大多数を占める中間層にとって、そもそもアリになる権利など与えられていない、というのが真実なのである。

執筆: この記事はWillyさんのブログ『統計学+ε: 米国留学・研究生活』からご寄稿いただきました。