２００１年４月25日に行なわれた一戦を、あなたは覚えているだろうか。日本時間ではすでに26日になっていたが、それはともかく、僕は日にちを思い出すことができなかった。現地時間21時45分キックオフのゲームで、日本代表とスペイン代表が対戦したのである。

　マドリーでもバレンシアでもセビージャでもなく、南部のコルドバが舞台となった一戦は、スペインにとって単なるテストマッチ以上の意味を持たないゲームだったはずだ。２００２年の日韓ワールドカップ前だからこそ実現した、マッチメイクでもあったと思う。

　だとしても、僕にとっては印象深い。世界王者に就任する前とはいえ、アウェイでスペインと対戦する機会はなかなか得られない。いかにもテストマッチという内容とスコアで敗れたとしても、感慨深いものがあった。

　スペイン人は違った。
　コルドバからマドリーへ移動した僕は、日本対スペイン戦の結果を知らない人に出会った。そんな人ばかりだった。数カ月後にバルセロナへ行くと、「そういえばそんな試合もあったね」とか「そんな試合あったの？」といった反応の連続だった。

　テストマッチとはその程度の記憶にしか残らず、ましてやスペインが勝てば＝日本が負ければ、日常生活に埋没していく。特記事項ではない。スコア上は０対１の接戦だとしても、結果に驚きがないからである。

　２０１２年７月26日のスペイン戦は、違う。舞台はロンドン五輪である。紛れもない真剣勝負だ。

　日本は50分近くを数的優位で戦ったが、イニゴ・マルティネスの退場は永井のフォアチェックが呼び込んだものだ。前線から執拗にプレッシャーをかけた戦略が、スペインを窮地に追い詰めたのである。称賛されるべきは日本の戦いぶりであり、スペインが何を語ったところで言い訳に過ぎない。歴史に残るのは、記憶に刻まれるのは、結果なのである。
　
　２０１２年７月26日は、日本人だけでなくスペイン人にとっても、忘れ難い一日となるだろう。我々は喜びとともに、彼らは悔しさとともに。

　スペイン国民が悲しみや怒りに沈んだなどと言うつもりはない。それでも、「日本に負けた」という事実は広く知られるものとなり、五輪のたびに掘り起こされる、と僕は思う。

　とはいえ、スペイン戦は五輪の決勝戦ではない。グループステージの初戦だ。日本はまだ何も手にしていないし、スペインも挽回する可能性を残している。

　優勝候補の一角にあげられるスペインのようなチームは、コンディションのピークをもう少し先に設定している。再び対戦する機会があれば──可能性は決勝戦のみだが──ルイス・ミジャ監督率いるチームは、まったく違う表情を見せるに違いない。
試合内容を冷静に振り返ると、手放しで喜べるものではない。追加点を奪える機会を、何度ムダにしたことだろう。３対０でも、４対０でも、おかしくないゲームである。１対０で勝ち切ったのは評価できるとしても、拙攻の印象は残る。
　
　スペイン戦の結果に関わらず、重要なのはモロッコ、ホンジュラスとのゲームと言われてきた。白星スタートを飾ったいまも、残り２試合が大切なのは同様である。
ブラジルから勝利をつかんだアトランタ五輪のチームは、それでも、決勝トーナメントに進出できなかった。ナイジェリアとの第２戦に０対２で敗れたことが、大会からの撤退につながってしまったのである。

　対照的なのはシドニー五輪だ。南アフリカとスロバキアに連勝したことで、ブラジルとの最終戦に敗れたものの準々決勝へ進出している。

　28日に行なわれる第２戦は、モロッコとの対戦だ。ホンジュラスとの第１戦を２対２で引き分けたピム・ファーベクのチームは、日本戦に勝利を求めてくるだろう。スペインとの最終戦にかかる負担を減らすためにも、勝ち点３を稼ぎたいと考えるはずだ。