彼自身も交代直前の74分にシュートを打ったが決められなかった。
「交代するだろうなと思っていたので、なんとか1チャンスをモノにしたかった。シュートでいこうと思ったんですけど、もったいないですね」
 85分にバイエルンにPKのチャンスを与えるが、これを防ぎ、ドルトムントが逃げ切った。

「この勝利はかなりデカい。相手にPKを与えたけれど、ああいう外し方をして、負けたことで、相手もダメージが大きいと思う。逆にこっちはああいう勝ち方ができて嬉しいです。
 今日はプレッシャーも大きかったと思うので、そこで勝ちぬけたことがチームとして成長できたし、ここ最近失点が続いていた中で、PKを与えたけどゼロでおさえたことは大きいし、強さを示せたかな。チームとしては大きな自信になっていると思う。
 なにがなんでも勝ちたかったし、自分の得点で勝つことを意識して、やっていたけど、そういう意味でうまくいかなかったのはすごく悔しい。後半になって足に来た部分はあったし、90分戦えないのは自分のすごい課題だと思う。こういう厳しい戦いの中で、結果を残していきたいし、もっともっと存在感を出していくといううえでは、物足りない結果だったので、残念ですね」
 試合終了後はチームメイトと歓喜の輪の中ではしゃいでいた香川だったが、「喜びと悔しさが半々」と複雑な表情を浮かべてもいた。

 そして、4月14日の大一番がやってくる。
 9分に先制点を決めたシャルケは試合の主導権を握りながらも、セットプレーのチャンスを生かせない。焦れる相手を前にドルトムントはしっかりとした守備から少ないチャンスを結果につなげ、17分、63分とゴールを決めて、勝利を手にする。

「バイエルン戦で、ひとつの山を越えて、チームとしてもやりきった感みたいなものが出ていたから、精神的にも肉体的にもシャルケ戦へ向けての準備はすごく難しかった。アップをしているときから、今日は大丈夫かなっていう感じもあったけど、試合になったら、キレはないなりに動けた感じはあった。
厳しい日程で厳しい相手との連戦というのは分かっていたから、集中力ということだけを意識していた。アウェイの雰囲気に飲まれないように自分を鼓舞しながら、前半はやっていました。
 シャルケはフィジカルを押し出して、攻め込んでいましたけど、そこを凌いでね、逆転勝ちをするというのは、今のチームの強さを示している。勢いだけじゃなくて、25試合負けなしが続いているという強さをこの試合でも表せたと思う」

 シャルケ戦でもバイエルン戦同様にチームとしての連動が乏しく、香川自身もいつものようなプレーを見せることはできなかった。しかし、冒頭で紹介したように彼の顔は晴れ晴れとした清々しさに満ちていた。シャルケ戦の勝利はバイエルン戦の勝利以上に格別だった。
「今日は本当に勝つために、何をすべきかということを考えてプレーしていた。内容も大事ですけど、勝つことがそれ以上に大事な試合。ここで負けたら、バイエルン戦に勝ったことの意味もなくなるので」
 フィジカル・コンディションは万全ではないが、それでもやれることをやりきれたという満足感が伝わってくる。
 
 1週間前のヴォルフスブルク戦では、勢いに任せて得点しても、とどめを指すゴールが決められず苦労していたドルトムント。しかし、上位対決2連戦では耐えて凌ぎ勝ちきる、堂々たる強さを発揮する。思うようなプレー、自分たちのサッカーができずとも苦境を打開するたくましさがあった。
 CLやELの準々決勝を経て、ドルトムント戦を迎えるバイエルンやシャルケと比べれば、CLをグループリーグで敗退したドルトムントは有利な状況だと考えられたが、実際は週2試合というペースに慣れていないせいか、ドルトムントのほうが“連戦”に対して神経質になっていたのかもしれない。