【戸塚啓コラム】勝負の分かれ目は忍耐力
不気味である。断じて簡単な相手ではない。パラグアイはしぶとく、それでいてしたたかだ。
試合前日の公式記者会見に臨んだヘラルド・マルティーノ監督は、記者の前に座っていた15分35秒で、「日本はスピーディだ」という表現を何度となく使った。「日本はスピードがあるので、ボールポゼッションで上回りたいと思う。やはり前へ行くべきで、これはW杯における野心の礎、基礎となっている。相手より多くのポゼッションを取るべきだ」と。
グループリーグのパラグアイを振り返ると、１−１で引き分けたイタリアとの開幕戦は、ボールポゼッションが48対52だった。シュート数は８対10である。前半を１−０で折り返したこともあるが、守備重視のプランでゲームを進めようとしたことが分かる。
続く第２戦では、スロバキア相手に２−０の勝利を収めた。前半27分に先制し、後半終了間際の86分に追加点を奪うのは理想的な展開である。そして、この 試合のボールポゼッションは49対51だった。相手にボールを持たせることで主導権を掌握したのはイタリア戦に共通する。
ニュージーランドとの第３戦は、ボールポゼッションで大きく上回った。57対43である。ただ、彼我の力関係を考えれば驚きではない。ニュージーランドにボールを持たせるのはそもそも難しく、自分たちがポゼッションしながらのゲームとなるのは妥当だ。
そこで日本戦である。マルティーノ監督はポゼッションの重要性を強調しているが、実際は彼ら本来のプランで臨んでくると予想する。日本にポゼッションをさせながら、「守」から「攻」への素早い切り替えに活路を見出すの狙いだ。
守備重視が基本なのは日本も同じである。予想される先発メンバーに変更はなく、過去３試合より疲労がたまっていることを考えても、守備のブロックを築いたうえでのリアクションサッカーが、少ないリスクで成果をあげられる現実的な対処法だ。
決勝トーナメント１回戦は、積極的な攻め合いが続いてきた。スロバキア相手に先制したオランダを除けば、どのカードもお互いの良さをぶつけ合う攻防が繰り広げられた。ウルグアイに敗れた韓国も、ブラジルに屈したチリも、敢闘精神を見せつけた。
日本対パラグアイ戦は、これまでの６試合とは違う構図が描かれる。相手の良さを潰し合うことが出発点となり、どちらが我慢強く戦えるかが勝負の分かれ目になると思う。
１対１やルーズボールの攻防で激しくプレーするパラグアイの守備に、苛立ちを募らせたらリズムを失う。じっくりとボールをまわし、相手が取りにきたところ で背後を突くような攻撃をしたい。パラグアイがボールを取りにこなければ、攻め急がずにボールを動かす。わずかなスキを好機に変える狡猾な南米勢との対戦では、どこまで我慢できるのかが重要だ。
勝てば史上初のベスト８進出となるのは、日本だけではない。パラグアイにとっても、歴史を変えるためのゲームとなる。マルティーノ監督が「野心」という言葉を使ったのは、史上初のベスト８入りを日本戦に賭けているからだ。
グループリーグの対戦相手のように、上から目線で見下してくる相手ではない。勝利の可能性を少しでも固めるために、パラグアイはルールの範囲内で様々な駆け引きを仕掛けてくる。事前のスカウティングがハマったグループリーグのようにはいかない。ピッチ上での応用力が問われる一戦となる。
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関連情報（BiZ PAGE＋）
1968年生まれ。'91年から'98年まで『サッカーダイジェスト』編集部に所属。'98年秋よりフリーに。2000年3月より、日本代表の国際Aマッチを連続して取材している
