１−０で勝っている。前半はロスタイムへ突入した。

　そこでなぜ、攻める必要があるのだろうか。この時間帯に最優先されるのは、失点をしないことである。そのためには、できるだけボールをキープしなければならない。

　相手が寄せてこなければ、自分たちでボールをまわしておく。プレッシャーを受けたら、最終ラインやＧＫまで下げてもいい。１−０で勝っている前半ロスタイムというのは、そういうプレーの許される時間帯のはずである。

　バーレーン戦はアジアカップ予選＝公式だったが、位置づけとしてはテストマッチだ。監督や選手からすれば、「１分でも無駄にしたくない」という思いがあったのかもしれないし、「無駄にしてはいけない」という見方もあるだろう。

　東アジア選手権で不甲斐ない戦いをした直後である。前半終了間際に時間稼ぎをしたら、スタンドからブーイングが飛んでいたかもしれない。監督も選手も必死だったのだと思う。うまくすれば２−０にできるビッグチャンスを作り出したのだから(松井は決めないと!)、結果的に問題はなかったと言うことになる。

　僕自身は、１−０で折り返せばいいと考えていた。繰り返し強調するが、何よりも避けるべきは失点だからである。あの時間帯に追いつかれたら、好調時のチームでもショックを受ける。カウンターに活路を見出していたバーレーンに、チャンスを与えなかったことに安堵した。

　ドイツ・ワールドカップのブラジル戦が、僕には忘れられない。１−０のまま前半終了間際を迎えても、日本の選手はそれまでと同じように攻めた。観衆も攻める日本に声援をおくっていたし、記者席にいる僕も、２点目を狙いにいく姿勢に疑問を抱かなかった。

　その結果が、ロナウドのヘディングシュートである。ＧＫ川口が処理すべきではという指摘もあったが、１−０で前半を終わらせようとしなかったことがそもそもの問題だ。ブラジル相手に3点差以上の勝利が必要だったとしても、あの時間帯は攻めてはいけなかった。

　ブラジル戦を教訓とするためにも、今回のような試合から「時間稼ぎ」を意識していくべきではないのか。アジアカップ予選など比較にならない重圧のなかで、選手たちはすぐに頭を切り替えるのか。「1-0のままハーフタイムを迎えよう」という共通理解を得られるのか。僕にはそうは思えないのである。

・戸塚啓コラム - サッカー日本代表を徹底解剖