「便器からネズミが…」「高級車が巣に…」マンション住民の悲鳴。相次ぐ“野生動物トラブル”で問われる管理責任の所在【マンション管理士が警鐘】
マンションで起こるトラブルといえば、設備の故障や騒音問題が定番ですが、近年は蛇やネズミ、ハトなどの野生動物に関する“想定外の事態”が増加しています。「共用部分で起きたことだから管理組合が責任を負うはず」と思われがちですが、果たしてそうなのでしょうか。あるマンションの理事長が直面した「専用庭の蛇」や「ネズミによる高級車の被害」という事例をもとに、トラブルの責任の所在についてマンション管理士の松本洋氏が解説します。
「庭に蛇が…」休日の緊急対応で16万円の請求
「庭に蛇がいるので、すぐに駆除してほしい」
ある土曜日、1階の専用庭付き住戸の居住者から管理員へ一本の連絡が入りました。管理員は害虫駆除業者を紹介したものの、「蛇の捕獲は対応できない」と断られました。その日は休日で自治体も休みだったため、居住者は自ら便利屋へ依頼。
蛇は無事に捕獲されたものの、後日届いた請求書は約16万円。理事会は管理会社へ相談したところ、蛇の捕獲費用の相場は地域差はあるものの3〜5万円程度との説明を受けました。
さらに管理規約を確認すると、専用庭は共用部分ではあるものの、特定の区分所有者だけが使用できる「専用使用部分」であり、「専用庭の日常の管理・維持に要する費用は専用使用権者が負担する」と定められていました。
居住者は「専用庭は共用部分なのだから管理組合が支払うべきだ」と主張しました。しかし、理事会では以下の項目を総合的に検討した結果、管理組合による費用負担は認められないと判断しました。
・管理組合が業者を手配していないこと
・居住者が独自に契約したこと
・請求額が一般的な相場を大きく超えていること
・専用庭の日常管理は専用使用者の責任であること
高級輸入車のエンジンルームが「ネズミの巣」に…相次ぐ被害
別のマンションでは、以前からごみ置き場周辺でネズミの目撃情報が相次いでいました。
ある日、ごみ置き場に隣接した駐車場に停めていた高級輸入車を始動すると、エアコン吹出口から強烈な異臭が発生。
点検したところ、エンジンルームにはスポンジや布切れなどが大量に運び込まれ、なんとネズミが巣を作っていたのです。さらに配線もかじられ、高額な修理費用が必要となる事態に発展。
車の所有者は、「ごみ置き場から離れた駐車区画へ変更してほしい」「修理費も管理組合に負担してほしい」と主張しました。
理事会は、住民の不安に配慮し、駐車区画については来客用区画との交換を認めた一方で、車両の修理費については別問題と判断。
駐車場は共用部分ではあるものの、契約者が専用使用権を有する場所であり、管理組合が個人の車両を保管・管理しているわけではありません。そのため、「車両そのものの損害は所有者が負担すべき」との結論に至りました。
便器からネズミが飛び出す…「都市の生態系変化」で相談増加
管理会社によれば、近年はネズミや蛇、ハトなど野生動物に関する相談が以前より目立っているそうです。背景として指摘されるのが、都市部の生態系の変化です。
カラスの減少により、ネズミなど小動物が増えやすくなった可能性があるとの見方もあり、さらにネズミが増えることで、それを餌とする蛇が住宅地へ入り込むケースも考えられます。加えて、温暖化や都市開発、ごみ管理の状況、建物の老朽化など、さまざまな要因が複雑に影響しているとみられています。
トイレの便器からネズミが飛び出すことも
ネズミ被害が起きる場所は、ごみ置き場だけではありません。実際に管理会社には、「深夜、トイレへ入ったら便器のなかからネズミが飛び出してきた」という相談が寄せられたこともあります。
ネズミは下水道から排水管を通じて便器内へ侵入することがあり、古い排水設備ではまれに発生する事例として知られています。住民にとって精神的な衝撃は大きく、建物全体での防鼠対策や排水設備の点検が重要となります。
総会では「猫でネズミ退治」の提案も
あるマンションでは、防鼠対策費用を総会で審議していた際、高齢の組合員から「猫を飼っている住戸があるのだから、猫にネズミを捕ってもらえばいい」との発言がありました。
しかし、「飼い猫を共用部分で放し飼いにはできない」「動物福祉の観点からも問題がある」「住民同士の新たなトラブルを招く」といった反対意見が相次ぎ、提案は採用されませんでした。
最終的には、専門業者による防鼠対策と侵入経路の調査・封鎖を実施する方針が承認されました。
【マンション管理士が警鐘】「共用部分だから管理組合が払う」は誤解
マンションでは、「共用部分で起きた事故だから管理組合が責任を負う」と考えられることが少なくありません。しかし、専用庭や駐車場などの専用使用権が設定されている場所では、管理規約により日常管理や一定の費用負担を専用使用者に求めているケースが多くあります。
2つの事例をみても、「誰が契約したのか」「誰の利益のための支出だったのか」「管理規約でどう定められているか」が、重要な判断材料となりました。
管理組合は建物全体を維持管理する団体であり、個人の財産に生じた損害を無制限に補償する組織ではないことを改めて示した事例といえるでしょう。
「管理規約」の理解がトラブル防止に
蛇やネズミなど予想外のトラブルは、今後も増える可能性があります。緊急時には、まず管理会社や自治体へ相談し、対応可能な業者や費用の目安を確認することが重要です。
また、管理組合は共用部分の環境改善や衛生対策を進める責任を負う一方で、専用使用部分や個人所有物に生じた損害まで当然に補償するわけではありません。
マンションで安心して暮らすためには、「共用部分だから管理組合が負担する」という思い込みではなく、管理規約や責任範囲を居住者全員が正しく理解しておくことが、不要な対立を防ぐ第一歩となります。
こうした事態に備えて、細かいルール(使用細則)を策定することも有効な手段となるでしょう。
松本 洋
松本マンション管理士事務所代表

