ある日インスタのリールで流れてきた、あまりにも木村拓哉なのにどこか違和感をおぼえる動画。そこに映っていたのは木村拓哉を心から愛し、木村拓哉になりたいと心から願い、現在木村拓哉モノマネとして香港でブレイク中の芸人、元木敦士(41)。なぜ彼は人生そのものをキムタクに捧げようと思ったのか、その覚悟に迫った。(全3回の1回目/2回目に続く)

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木村拓哉そっくり”芸人・元木敦士さん ©佐藤亘/文藝春秋

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木村さんにどっぷりハマり「キムおたく」って呼ばれていた

――しかし……ほんとに似てらっしゃいますね……。

元木敦士さん(以下、元木) ありがとうございます。しゃべればしゃべるほど、ご本人からは離れていくんですけど(笑)。

――元木さんが木村拓哉さんのモノマネをしようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。

元木 「モノマネ」と「好き」はほぼ同時で。僕は中学まで部活をやっていて、ずっと坊主やったんですけど、高校生になってやっと髪も伸ばせるという時に、僕の時代のファッションリーダーが木村拓哉さんだったんですよ。どんな雑誌にも木村さんがいた。まさに周りはキムタクブーム、みんな木村さんの「外ハネ・ロン毛」を真似していました。僕も憧れの木村さんみたいになりたいなと、そしてモテたいと(笑)。

 ただ、ちょっと周りと違っていたのが、友だちが「家でゲームしようぜ!」と言ってる中、僕だけ憧れすぎて「家でキムタクのドラマ観ようぜ!」みたいな、気づかないうちに木村さんにどっぷりハマってて。「このときのキムタクめちゃくちゃかっこいいな」「このキムタク、ヤバいやろ」とか、ドラマのシーンを一時停止しながらうっとり観てました。そしていつの間にか高校の文化祭でSMAPを歌ったり、なりきってですね。ただ、僕は歌がヘタなんで、みんな笑っちゃうというオチ。

――モテましたか?

元木 いや、やっぱりねえ、中身って大事みたい(笑)。モテるというよりはイジられキャラ、女の子からもキムタクかぶれ、キムタクおたくということで「キムおたく」って呼ばれてました。ただ、うわさは広がって「キムタクマニアのすごいやつがいる」みたいな。「あの高校にキムタクがいるらしい」と他校の女子が学校に見に来るんです。クラスメイトも「元木くんのこと見に来てるらしいよ」って。

他校の女子に「キムタクに似てる人、どこに居ますか?」と聞かれ…

――すごい。他校にまで轟いていた。

元木 僕もドキドキしながら、鏡で髪型セットして、ちょっとキムタク風に歩いていったら、他校の女子に「すいません。キムタクに似てる人、どこに居ますか?」と聞かれて。

――あ……。

元木 僕、顔真っ赤になって。友だちにもむちゃくちゃ笑われて。僕もちょっとプライドあるから「今日は休みみたいですよ」とか言いながら。誰よりもこんなに外ハネしてキムタク感出してるのに(笑)。ほんとに顔が真っ赤になったのはあのときですね、16歳でした。

――きっとものすごい感じで噂が伝わっていたんでしょうね……。

元木 そうですよ。ものすごいハードルが上がってたんですよ……。

――元木さんは元々芸人さんを目指していたんですよね。

元木 そうなんですよ。根本は笑ってもらうことが好きなので、それが今の芸風にも行き着いちゃってはいるんですけど。高校卒業してお笑いがやりたくて上京しました。自分と同じ身長のぬいぐるみを作って、そこに手を通して操作しながら、ぬいぐるみプロレスコントみたいなことをピン芸人としてやってました。

コントと木村さんのモノマネが融合

――急にシュール(笑)。

元木 ある日モノマネ番組のオーディションがあると知らされて。そこで初めて木村さんのモノマネをやってみたんです。「次の人、どうぞ」って言われてオーディション会場に入っていったら、審査員の方は総立ち。「キムタクみたいなやつ、来たで!!」みたいな感じになって。

 僕もなりきって、一切しゃべらずにこんな感じの雰囲気で立ってました。「すごいね」「キムタクだよね、きみ」みたいな感じでザワザワする中、ネタを披露すると声は全然似てないから、審査員総ズッコケ。それが木村さんモノマネのスタートでした。

 それからは木村さんのモノマネとコントを並行してやり始めたんですけど。周囲の人に「キムタクのネタを作ってみたら?」と提案されて、だんだん芸風が木村拓哉さんコントみたいなことをやるようになって。

――最終的にコントと木村さんが融合した。

元木 融合しましたね。なんならぬいぐるみの時期はいらなかったですよね(笑)。思えば遠回りをして今があります。

「しゃべりはガチで似てない」“キムタクものまね芸人”としての葛藤

――百戦錬磨のオーディション審査員がざわつくぐらいだったのに、ぬいぐるみとのコントを主にやっていたということは、あまりご自身は木村さんと似ていることに自覚的ではなかったのでしょうか。

元木 なかったですね。木村さん独特の笑い方だとか、しゃべると全然似てないとかで笑わせてたらいいかなあぐらいのスタンスで。ただ、葛藤はありました。

――葛藤とは、どんな。

元木 プロデューサーさんからとことん似せるほうでいってほしいと言われたり。ただ、お気づきのようにしゃべりはほんとにガチで似てない。歌も全然歌えない。今キムタクモノマネ芸人はけっこう出てきたんですけど、声が似てる人、歌が似てる人、しゃべったらダメな僕みたいなやつ……みんなそれぞれ芸風がかぶってないから、ちょうどいいバランスになってて。

 だから、僕はこれを貫きたいなと。このスタンスのまま、お茶の間がクスッとなるような。「このキムタクかぶれ、あかんやん」みたいなほうで行けたらなとは思ってます。やっぱり根っこは笑ってもらえるほうで行きたい。

木村さんやらなきゃ意味がない

――他のモノマネ芸人さんのように木村さん以外のレパートリーを増やそうとは思わなかったのでしょうか。

元木 ないですね。ほんとに木村さんありきでモノマネをやっているので、もし木村さんのモノマネができないとなったら、モノマネ自体しないと思います。木村さんやらなきゃ意味がないので。

――木村さんやらなきゃ意味ない、かっこいい。

元木 いやいや、ただ純粋に憧れているんです。仮面ライダーに憧れて、同じベルトをしたいっていう子どもの気持ちと一緒です。だから僕は木村さんが好きで、同じものを着たい。

――木村さんの衣装をたくさんお持ちなのはそういう理由なんですね。

元木 ほんと変身ベルトと同じで、自分が強くなった気分になる。木村さんと同じ服をオーダーメイドして、それを着ることで憧れのかっこいい人になりたいんですよ。不思議とその服を着るとスイッチが入る。

国民的スターのモノマネに対する批判

――どの年代の人も「キムタク=かっこいい」と記憶している、木村さんは国民的なスターだと思うのですが、モノマネに対して批判を受けることはなかったですか?

元木 あります、あります。最初の頃はやっぱりお叱りというか。ファンの方からしたらびっくりしちゃうわけですよね。「何か変なやつが出てきた」「拓哉はそんなんじゃない!」とか。こちらもそれはわかってはいるんですけど……すいませんって思いながらモノマネしてました。事務所に直接電話がかかってきたり。

――モノマネをやめろと?

元木 そうです。しかもかなり怒っていらして、ちょっと過激なことも言っていたみたい。そしたら当時のマネージャーさんがなぜか折り返し先の番号を聞いてきて「元木さん、かけてもらっていいですか?」って。

クレームを入れたファンに直接電話して「申し訳ございません」と…

――ええ!? かけたんですか??

元木 電話しました。俺、コールセンターのバイトもしてたんで、謝罪はちょっと慣れてはいたんですけど。お客様対応係でずっと電話を受けていたので、まずは「申し訳ございません」と。

――コールセンターのバイトがそんなところで役に立つとは……。

元木 はい。そういうことにも対応している木村拓哉だと(笑)。クレーム処理も自ら行うような、そういう環境で過ごしてきてます。

――でも直接クレームを聞くなんて、しかもだいぶ過激なこともおっしゃっていたというファンの方に。メンタルは折れなかったですか。

元木 ただ、ファンの方の気持ちに立ったときに、モノマネを許せない部分というか、「私が拓哉を育てたんだ」って考える人もいれば「私の木村さん像を汚さないで」とか、「拓哉はモノマネとかされたくないのでは」とか、みなさん真剣に木村さんのことを思った上での批評なんです。それはもうしょうがないかなという。

 お気持ちはわかるんですけど、こちらとしてはただ憧れさせてくれという感じでして。芸人としてメディアでやりたいという思いがあるので、ちょっと木村さんのモノマネで出させてもらいますが、すいません……という気持ちです。

真剣に謝ったら「もういいです。やってください」

――ご自身もファンだからこそ、ファンの方の気持ちもわかる。実際にお怒りのファンの方とはどのようにお話しされたんですか?

元木 「おっしゃるとおりでございます」という。だって言ったらもう「おっしゃるとおりでございます」なんですよね。ファンの方が怒るのはそりゃそう。申し訳ない。それでもちょっといろいろありまして、みたいな。あのときはほんとドキドキしましたよ。もう何回も予行演習して。

――一番びっくりしたのはそのファンの方ではないかと。

元木 まあ、そうでしょうね。「ほんとにかけよったんか」と(笑)。でも、真剣に謝ったらその方も許してくれて「もういいです。やってください」と言ってくださいました。

撮影=佐藤亘/文藝春秋

“キムタクそっくり”芸人が、木村拓哉の前でものまね披露…そのときキムタク本人が見せた“厳しい反応”「受け入れられている雰囲気ではなかった」〉へ続く

(西澤 千央)