リアリティーショーで実際のZ世代を中心としたメンバーがノートパソコンの企画に挑んだ(筆者撮影)

パソコン離れが進むZ世代に向けて、NECが異例の取り組みを行った。YouTube人気番組「Nontitle」とコラボレーションし、6人の若者たちが3ヵ月間寝食を共にしながら理想のパソコンを企画。1年の開発期間を経て新製品「LAVIE SOL」が誕生した。

エンターテインメント化された商品開発

「パステルカラーを追加したい」「バッテリーは最低でも14時間持たせたい」。9月12日から配信が始まったYouTube番組では、Z世代のメンバーたちが熱い議論を交わす。そこには通常の商品企画会議では見られない、率直で時に感情的なやり取りが展開されている。

「ブラックボックス商品では若い世代に共感してもらえない」。

NECパーソナルコンピュータはそう判断し、商品開発のプロセスそのものをエンターテインメント化するという挑戦的な施策を決断した。同社が選んだのは、元アイドル、現役慶応大学生、AI開発会社経営者など、多様なバックグラウンドを持つZ世代6名だ。

彼らは3ヵ月間、寝食を共にしながら理想のパソコンづくりに挑んだ。その過程は全10話にわたって放映される。商品開発という、通常はベールに包まれた過程を、エンターテインメントとして公開するという異例の試みだ。


スタイリッシュなモバイルノートパソコン、LAVIE SOL(筆者撮影)

開発チームが掲げたコンセプトは「エモい」。現役大学生の開発メンバー「のすけ」さんは「なんかいいなと感じる瞬間、趣きを感じる瞬間を表現した言葉」と説明する。

製品名の「SOL」には、ラテン語で「太陽」という意味と、「Springtime of Life(青春)」の頭文字という2つの意味が込められている。「太陽のように常に寄り添ってくれるパソコン」を目指したという。

洗練されたミニマルデザイン

13.3型(16:10)WUXGA IPS液晶ディスプレイを搭載する本体は、厚さわずか14.3mm。アルミ筐体を採用し、底面のネジや排気口の穴を極力排除した。必要最小限のType-Cポート3つという割り切った設計により、ノイズレスな美しさを追求している。


従来機と比べて丸みを帯びた形状となっている(筆者撮影)


LAVIE SOL(上)は外部端子を割り切って、USB Type-Cを3ポートのみ装備する(筆者撮影)


背面にはこだわりが詰まっている。LAVIE SOL(左)は排気口やシール印刷を廃したノイズレスな仕上げになっている(筆者撮影)

さらに特徴的なのが、独自開発の「シルクタッチコート」の採用だ。NECの調査では30代以下の63%が「パソコンの汚れが気になる」と回答。この課題に対し、ハンドクリームなどの油分も簡単に拭き取れる新素材を開発した。検証実験では、通常の表面処理では落ちない指紋汚れも、5回の拭き取りで完全に除去できることが確認されている。

このコーティングは本体だけでなく、タッチパネルやキーボード、タッチパッドにも施された。4年間の学生生活での使用を想定し、見た目の美しさと実用性を両立させている。

カラーバリエーションには「フェアリーパープル」を用意。パソコン売り場に並ぶ黒やシルバーの端末とは一線を画す。さらに、スマートフォンケースで知られるcaseplayとコラボレーションし、数百種類のデザインケースをオプションで用意。自分好みにカスタマイズできる。


元アイドルのメンバー「まりな」さんがこだわったパステルカラー。フェアリーパープルとして採用された(筆者撮影)


スマホケースで有名なcaseplayとコラボし、バリエーション豊富なPCケースをそろえた(筆者撮影)

キーボードにもZ世代向けのカスタマイズを施した。YouTubeへのクイックアクセスキーや、AIサポートの起動キー、身だしなみチェック用カメラの簡単起動キーなど、若年層の日常的な使用シーンを想定した専用キーを配置。従来のノートPCにあった飛行機モードなどのキーを省き、よりシンプルで実用的な配列を実現している。


ショートカットキーの「ミュート」のデザインは若者が親しめるカラオケマイク型になっている(筆者撮影)

美しさを追求しながら、性能面での妥協は避けた。その象徴が冷却設計だ。従来のような底面の通気口をなくし、代わりにキーボード面から吸気、デュアルファンで排熱する新方式を採用した。

徹底的なバッテリーへのこだわり

LAVIE SOLの開発過程で最も白熱した議論が交わされたのが、バッテリー性能だ。大学生の1日の使用時間7時間を基準に、2日間の連続使用を想定した14.4時間駆動を実現。これは従来モデルから13%の性能向上を実現している。

しかし、単純な駆動時間の延長だけでは終わらない。使用パターンを学習するAI制御を搭載し、より賢いバッテリー管理を実現した。具体的には、PCを使わない時間は80%充電を維持し、使用開始3時間前から自動的に満充電に切り替える。

この機能は、実態調査から生まれた。NECの調査では、ノートPCユーザーの88%が「電源につなぎっぱなし」で使用し、バッテリー保護機能の利用は36%にとどまっていた。この課題を解決すべく、ユーザーの意識に依存しない自動制御を実現したのだ。

さらに、ACアダプターも一新。従来比で体積を40%削減し、1時間で75%まで充電できる65W出力を実現。メガネ型からウォールマウント型に変更し、ケーブル管理も容易にした。

新しいパソコンの形を求めて

LAVIE SOLは第13世代インテルCoreプロセッサーを搭載したCore i7とCore i5の2モデルをラインナップ。いずれも16GBメモリを標準搭載し、最新のWi-Fi 7に対応。Windows 11 HomeとOffice Home & Business 2024も搭載する。発売日は11月21日だ。

店頭モデルはCore i7が21万9780円前後、Core i5が19万7780円前後(いずれも税込)。Web直販では17万2000円(税込)からとなる。当初から学生向けを掲げていただけに、上昇傾向にあるノートパソコン市場の中では価格は抑えられている。マイクロソフトが推奨するAI PCではないが、高級感のあるデザインを踏まえれば、決して不当な価格帯とはいえないだろう。

Z世代を意識した機能も充実している。iPhoneとの連携機能を強化し、写真、ファイル、URL、PDFのシームレスな共有を可能にした。また、独自のAIサポートボット「LAVIE AI Plus」を搭載。電話でのサポート依頼を好まない若年層向けに、24時間対応のLINEサポートも用意している。

開発に参加した若者たちは自信満々の様子。「時価総額でナンバーワン、ナンバーツーのMac(アップル)やSurface(マイクロソフト)を超える製品ができた」と、のすけさんは胸を張って話す。

確かに、LAVIE SOLには従来のノートPCにない新しい価値観が詰まっている。エンターテインメント化された開発プロセスから、Z世代の感性を反映したデザインを生み出した。NECの挑戦が市場でどのような評価を受けるのか注目だ。

(石井 徹 : モバイル・ITライター)