「くだらない質問に答えることが苦痛」「時間のムダ」と批判殺到…医師が指摘「ストレスチェック義務化は効果薄」
働く人の心の健康を守るために行われる「ストレスチェック」。仕事上のストレスなどにより、精神疾患を発症する人は年々増えており、厚生労働省は義務化の対象を全企業に拡大する方針を固めた。
一方で、ストレスチェックの効果に疑問の声に加え、実施拡大によって弊害が生まれる懸念もある。
増え続ける精神障害の労災認定件数
厚生労働省は11月1日、働く人の心の健康を守る「ストレスチェック」について、全企業に実施を義務とすることなどを盛り込んだ有識者検討会の中間取りまとめを公表した。
そもそもストレスチェックとはどのような制度なのか。
「ストレスチェックは、2015年12月から始まった制度。現在、従業員50人以上の企業に年1回の実施を義務付けている一方、従業員50人未満の企業(21年時点で全国に約364カ所。従業員数は約2893万人)に関しては、努力義務となっています。義務化によって業務負担の増加が懸念されるため、導入は数年後を想定しているようです」(医療ライター)
主な内容は、仕事量や食欲などを尋ねるもので、ストレスの度合いを数値化する。その結果、「高ストレス」と判定されると、医師による面接指導を勧められる。
先の中間取りまとめによると、実施割合は23年時点で従業員50人以上の企業などで81.7%。50人未満は34.6%だった。また、精神障害の労災認定件数は23年度で883件と過去最多と増え続けており、メンタルヘルス対策の強化が課題とされていた。
「やってる感を出しているだけ」
2021年度の国の調査では、ストレスチェック受検者の74%が「有効だった」と回答。具体的にどのように有効だったかはわからないものの、一定の成果を上げてきたともいえる。
ただし、SNS上では10月10日、厚生労働省が全企業でストレスチェックを義務づける方針を固めたという報道を受けて、「単なるアンケートでアフターケアも特にない」「似たような質問ばかりで答えることが苦痛」「時間のムダ」「やってる感を出しているだけのパフォーマンス」など、批判的な声も目立っていた。
SNS上では不評のストレスチェックについて、著書に『うつ病休職』(新潮新書)があり、沖縄県豊見城市のなかまクリニック理事長で精神科医の中嶋聡氏が解説する。
「ストレスチェック義務化のメリットは、まったくないとは思いませんが、基本的にストレスというのは本人が感じるもの。たとえば、がん検診では、自覚症状がなくてもがんが見つかることがあります。
しかし、日頃ストレスを感じている人が、検査を受けるまで全然感じていなかったことは、あまり考えられません。メンタルヘルスケアや精神疾患の早期発見という意味では、それほど重要ではないと思います」(以下の「」は中嶋氏)
本来は労務問題
中嶋氏はストレスチェック義務化による弊害を以下のように指摘する。
「ストレスの原因は本来、長時間労働やパワハラ、セクハラなどの職場環境の影響が大きいはずです。しかし近年は、労務問題というよりも個人のメンタルヘルスの問題として、限定的に扱う傾向が強くなっています。
なぜなら、ストレスチェックで高ストレス判定が出ると、上司から『お前、病院行ってこい。調子が良くなるまで休め』などと言われる人もいる。本人が休んでくれれば、本人の健康問題になり、会社側も労務問題にならずに済むということが背景にあるのです」
後編記事『「仕事を休みたいので診断書をください」「朝、会社に行くのがつらい」で休めてしまう…《うつ病休職者》の大多数は深刻ではなかった、という「衝撃すぎる実態」』に続く。
「仕事を休みたいので診断書をください」「朝、会社に行くのがつらい」で休めてしまう…《うつ病休職者》の大多数は深刻ではなかった、という「衝撃すぎる実態」