20歳の超新星「大藤沙月」がトップ選手へと躍り出た理由 「戦術面」に加えて長けている「能力」とは
以前から実力はあったが
俊英が鎬を削る日本女子卓球界に、超新星が現れた。
大藤沙月(おおどう・さつき、ミキハウス)、弱冠20歳のニューフェイスだ。福井県出身、名門・四天王寺高校卒業後は、福原愛や石川佳純らがいたミキハウスに所属。Tリーグにも参戦している。
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という経歴を見ると、それなりの実績の持ち主だとすぐわかるのだが、特にこの半年間の急成長は著しく、いまでは群雄割拠の日本女子卓球界のトップ選手に躍り出て王国・中国からも警戒される選手に成長した。
全国中学校大会優勝や全日本ジュニア女子シングルス2連覇などの見事な成績を収めながら、なぜこれまで大きな注目を集めてこなかったのか。卓球に詳しいあるライターが解説する。
「以前から実力はあったのですが、同学年に日本代表の木原美悠がいたんですね。木原は2023年の世界選手権女子ダブルスで銅メダルを獲得し、全日本選手権の女子シングルスでは史上最年少で決勝に進出した名選手です。ダントツに強かった木原の陰に隠れて目立たなかったという部分があります」
その大藤が11月5日発表の世界ランキングで26位の木原を抑え、一気に10位に躍進を果たしたのだ。今年4月初旬の時点では、大藤の世界ランキングは125位だったので、およそ半年間で飛躍的にランキングを上げ、中国選手に肉薄する存在に成長したことになる。何が大藤を飛躍させたのか。
巡ってきたチャンス
「昨秋からコーチを務めている元日本代表選手の坂本竜介コーチが戦い方や精神面を鍛え、それが一気にこの半年で実を結んできた、ということです。具体的には、プレースタイルを守り中心から攻撃的なスタイルに変更し、それが奏功した。いまではアグレッシブなプレースタイルが特徴ですが、それは坂本コーチの指導力が大きいでしょう」(日本卓球協会関係者)
技術的には優れていたものの、さらに戦術面を強化し、花が開いてきた大藤は運を味方につける能力にも長けているようだ。日本卓球協会関係者が続ける。
「今年のアジア選手権の国内選考会は、実力者の木原や長崎美柚らが海外遠征続きの疲労困憊した中で行われ、大藤は代表の座を勝ち取りました。さらに、そのアジア選手権の女子団体決勝で日本は50年ぶりに中国を破りました。そんな歴史的な出来事を、代表メンバーとして経験したわけです。中国撃破の場面に大藤の出番はありませんでしたが、ベンチにいてチームメイトの活躍を目の当たりにした。それも大きな刺激になって、その後の活躍につながっていると思います。さらに、年間を通じて行われるWTTチャンピオンズという大会のモンペリエとフランクフルトの2大会は、エースの早田ひながケガのため出られなかった。本来は早田が出場し大藤は出られなかった大会です」
女王の座に輝いても不思議はない
そのチャンスを、大藤は見事に生かした。モンペリエでのWTTチャンピオンズでは、自分より格上の平野美宇、伊藤美誠を破り決勝に進出。相手は、成長著しい張本美和だったが、攻めの姿勢を貫き見事に優勝。日本を代表する並みいる3選手を撃破して、飛躍のきっかけとした。そして、世界ランクも急上昇したわけだ。
「その要因は、攻撃面の強化だけではありません。坂本コーチ直伝の鋭いサービスがとても効果的に使われています。これで先手を取って攻め込むことができるのです。ただし、ここまで注目されると、相手から研究されます。得意のサービスも相手に慣れられたとき、どう対応するのか。また、中国のトップ選手との対戦もまだありません。そうした未知数の部分はありますが、日本のトップ選手3人を連続して破ることは並大抵ではありません。更なる飛躍を期待したいですね」(前出のライター)
大藤の特徴は、まだある。コートに近い位置でプレーするだけではなく、少し下がった中陣、あるいは後陣からも強いボールが打てるパワフルさがある。つまり、複数の戦い方を用いることができるのが強みだ。
この11月には、年間チャンピオンを決める「WTTファイナルズ福岡」(11月20〜24日、北九州市)が開催される。その大舞台で、再び日本の実力者たちを破るのか。また、中国のトップ選手たちとどんな戦いを繰り広げるのか、楽しみである。さらに、年が明けるとすぐ国内の女王を決める全日本選手権(2025年1月21日〜26日、東京体育館)が控えている。早田、伊藤、平野、張本、木原、長崎らが群雄割拠する中で、実力者に三タテを食らわせた台頭著しい大藤がどこまで食い込んでいくか。女王の座に輝いても何ら不思議ではない。注目点がまたひとつ増えた。
ノンフィクションライター 青柳雄介
デイリー新潮編集部