兼重宏行前社長

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 ビッグモーターによる保険金の不正請求が明るみに出たのは、昨年7月のことだった。以来1年4カ月。中古車販売最大手だった「ビッグモーター」(以下、BM)は、伊藤忠商事が買収し、主要事業を継承する新会社「WECARS(ウィーカーズ)」と、損害賠償への対応や借入金の返済を行う旧会社「BALM(バーム)」とに分割された。そしてオーナーだった兼重家は、両社との資本関係を解消し、経営からも退いた。以来、その行方は知られていないが、一族の資産にはある動きが。この10月、豪邸や別荘をすべて売り払っていたのである。

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【写真を見る】「いくらなんでもデカすぎ」茶室に噴水、滝まで… 兼重氏が住む約500坪の大豪邸

“成り上がり人生”の象徴

 もともとBMは兼重家のオーナー会社。兼重家の資産管理会社が100%の株式を保有していた。兼重宏行・前社長は1951年、山口県岩国市生まれ。自衛隊などを経て自動車整備工場を興し、一代で従業員6000人、年商5200億円を誇る、業界最大手のガリバー企業を築き上げた。

兼重宏行前社長

 兼重家の資産も莫大だ。資産管理会社の主な不動産を列挙してみよう。

〇目黒区青葉台にある敷地面積500坪の土地に立つ大豪邸
〇軽井沢にある敷地面積2900坪の土地に建つ、2棟の巨大別荘
〇熱海にある地上2階、地下1階の別荘
〇京都にある3階建ての邸宅

 さる経済部デスクによれば、

「目黒の大豪邸は自宅として使われていました。もともとはソニーの創業者・盛田昭夫氏の自宅だった土地です。高さ8メートルの壁で囲まれた要塞の中には地上2階、地下1階の家屋があり、中庭には噴水、玄関には滝、庭には茶室も備えられている、高級ホテルのような豪邸です」

 別荘も贅を尽くしたものである。

「軽井沢は隣にトヨタの豊田章男会長の土地もありますが、それよりも広い。2棟目の建物は昨年10月に完成したばかりで、事件の後も建設を続けていたと報じられました。熱海の別荘は、駅から車で5分ほどの高台にあり、オーシャンビューで眺望が素晴らしい。近くのハーバーには、やはり資産管理会社名義のクルーザーも係留されていました。京都は南禅寺近くの趣ある日本家屋風の邸宅です」

 彼の“成り上がり人生”を象徴するようなものだったのである。

100億円を捻出か

 ところが、である。

 これらの不動産の登記簿を取得すると、この10月4日付で上記の不動産はすべて、都内の不動産会社に売却されている。

 BMの株は手放したものの、現状、兼重家は損害賠償請求の対象になっていない。息子の兼重宏一・元副社長についても、店舗前街路樹の伐採などをした器物破損容疑で書類送検こそされたものの、不起訴になっている。なぜ一代で築いた財産を一気に手放す必要があったのか。

 前出の経済部デスクが言う。

「分割に当たり、兼重家の持っていた株はSPC(特別目的会社)に譲渡された上で、JWPという投資ファンドが買収しています。兼重家は対価を得ていません。また、分割に当たり、兼重家は100億円を旧会社に拠出するとの報道がありました。旧会社はそれを債務返済や訴訟対応の原資に当てるということです。売却はこの100億円の捻出に使われた可能性があります」

BMから借金

 実際、先の登記簿を見ると気になることがある。前述の不動産のうち、軽井沢と熱海、京都の不動産には、5月1日付で、「売買代金同日設定」として、債務者が資産管理会社、権利者がBMとなり、抵当権が設定されていた。債権額は100億円。共同担保には目黒区の物件も入っている。そして、前述の不動産売却同日の10月4日に、この抵当権は解除されている。

 この抵当権設定について、BALMに問い合わせをしたところ、以下の回答が来た。

「具体的な取引の内容については、弊社より申し上げることは難しい点ご了承頂けますと幸いです。なお、弊社としては創業家には一定の責任は取って頂いたと考えております」

 不正発覚から1年余りで巨額の資産を失った兼重家。栄華の夢の跡を見て、前社長は今、何を思っているのだろうか。

デイリー新潮編集部