『嘘解きレトリック』観る者の心を射抜く鈴鹿央士の破壊力 鹿乃子を救った左右馬の言葉
九十九夜町で探偵業を営む左右馬(鈴鹿央士)の探偵助手となった鹿乃子(松本穂香)。マイペースな左右馬との生活にも慣れてきたようで、『嘘解きレトリック』(フジテレビ系)第6話で見せるその表情には、以前よりも笑顔が増えているようにも見えた。
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2人が事務所に戻ると、そこには凛とした着物姿の藤島千代(片山友希)が待ち構えていた。千代といえば、左右馬……ということで、さっそく左右馬を見つけた千代は、瞳を輝かせて嬉しそうな表情を浮かべる。だが「関わると、ロクなことがない」と左右馬は素っ気ない。鹿乃子と共に若竹座のお練り(祭礼の行列)に紛れ込んで姿を隠すなど、千代の熱量には若干引いている様子。
ところが、通りすがりの知り合いに声をかけられた左右馬の姿を千代が見つけてしまう。左右馬めがけて駆け寄ろうとした千代は、通りかかった男・利市(橋本淳)と勢いよくぶつかって倒れてしまった。利市は慌てて千代にケガがないか確認すると立ち去ってしまい、鹿乃子は急いで千代の落としたカバンや小物を拾い集める。着崩れた千代の着物を直すため、3人は事務所へと足を向けることになった。
そして今回キーになるのが、千代の持ち物に紛れ込んでしまっていた手鏡だ。手鏡の持ち主が分からず困惑する千代。しかし左右馬は男の外見から既に左官屋であることを見抜いていた。だが直接は手を貸そうとせず、代わりに探索のヒントを残しながら、鹿乃子と千代の2人で手鏡の持ち主を探すよう促す。「少女探偵団結成ですわね」と、意気揚々と町へと繰り出す2人。その愛らしい後ろ姿に、密かな期待を込めて目を細めたのは筆者だけではないだろう。
しかし、手鏡の持ち主を探す道すがら、町で不穏な噂を耳にする。最近、このあたりでひったくり事件が相次いでいるというのだ。さらに被害者の話によると、盗まれたのは手鏡だという。その話を聞いた鹿乃子の心に、不安が広がっていく。
先ほど手鏡を返した際、利市は「形見なんだ」とぽつりと呟いていた。しかしその瞬間、鹿乃子は彼の言葉に違和感を覚えていた。町で聞いた噂が重なり、鹿乃子は確信する。手鏡は盗まれたものに違いない、と。
千代と共に再び利市を探す2人。しかし、真相は彼女たちの予想とは大きく異なっていた。利市は決してひったくり犯などではなく、母親に置き去りにされた少女・ヤイコ(永尾柚乃)の面倒を見る、善良な人物だったのだ。手鏡は拾ったものだったが、それを「母のもの」だと嘘をついていた。つまり、利市の嘘はヤイコを励ますための優しい嘘だった。
真実を知った鹿乃子と千代は、利市に疑いをかけてしまったことを深く謝罪する。利市は穏やかな笑顔で2人の謝罪を受け入れてくれたものの、この出来事は鹿乃子の心に深い影を落とす。嘘を見抜く能力は、時として人を傷つける凶器になりかねない。過去の暗い記憶が蘇り、自分の能力に怖れを感じた鹿乃子は、重い足取りで左右馬の前から姿を消そうとするのだった。
夜になり、川を眺める鹿乃子を見つけ出した左右馬。心配して千代の家に行って何があったかを聞いてきたと言い、突然叫び出した。
「僕はこんなまっずいつくも焼きを食べて待ってたのに、みつ豆って!!!」
その大仰な絶叫の後、一転して優しい声色になった左右馬は、鹿乃子に優しい言葉をかける。嘘が聞こえる鹿乃子に見えないものがあるのなら、自分にはそれが見えるのだと。そして、柔らかな微笑みを浮かべながら告げた。
「一緒にいればいいんだよ」
今まで誰にも理解されなかった自分の特別な能力を、「一緒にいればいい」の一言で包み込んでくれるような人に出会えたこと。それは、鹿乃子にとってどれほど嬉しいことだっただろうか。仕草もビジュアルもかわいらしい左右馬の生み出す、ふとした瞬間の“キュン”は本作の醍醐味の一つ。鈴鹿央士演じる左右馬の破壊力たるや凄まじく、その愛らしさと優しさが絶妙なバランスで混ざり合い、観る者の心を確実に射抜いていく。
「自分のことは信じられなくても、先生のことなら信じられる」
この不思議な探偵事務所、そして左右馬の隣こそが、自分の居場所なのだと、鹿乃子は静かに悟ったに違いない。
(文=すなくじら)