アメリカ人スポーツジャーナリストのダン・オロウィッツ氏【写真:本人提供】

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Jリーグの “インバウンド戦略”

 目覚ましい進歩を続けてきた日本サッカー。

 さらなる発展を遂げるべく、Jリーグをはじめとした国内リーグは今後どのような道へ進み、何が必要とされるのか? 日本のサッカー事情に精通したアメリカ人スポーツジャーナリスト、ダン・オロウィッツ氏が、そのためのヒントを提言。今回は、Jリーグの人気拡大に向けた“インバウンド戦略”について語ってもらった。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治/全3回の1回目)

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 2006年末に日本に移住したオロウィッツ氏。翌年5月にスタジアムで体感した“応援文化”に魅了されJリーグの虜になった。11年から本格的にサッカーのライターとして活動を始めると、その後は日本の英字新聞「ジャパンタイムズ」記者として長く活躍。「サッカーを中心に日本のスポーツを世界へ」というモットーの下、フォトグラファーとしてのスキルも生かしたマルチメディアで、Jリーグに限らず日本代表やWEリーグとこの国のサッカーを幅広く海外へ届けてきた。

 今年の春からはフリーランスのスポーツジャーナリストとして活動を開始。Jリーグクラブの海外向け情報発信にも携わるなど活躍の幅を広げるなかで次の思いを強くした。リーグもクラブも、もっと世界に魅力を伝えられるのではないか――。

「5年ほど前からJリーグはSNSを中心とした海外発信に力を入れるようになった印象がある」とオロウィッツ氏。この動きを「すごく評価できる」とする一方、「『これは一体何のため』と理解しづらく感じている部分もあるんです」と違和感も指摘。その正体をこう続ける。

「試合のハイライトやサポーターの様子を投稿するのもいいのですが、歴史をはじめとしたクラブにまつわる情報をきちんと伝えられているのかは気になりますね」

 オロウィッツ氏がこれまで日本のサッカー情報を海外へ届けるなかで、こだわってきたのが“歴史”について。その重要性を感じる理由として、一例を挙げた。

「例えば、サンフレッチェ広島の歴史をさかのぼると、現地で競技普及の一助となったのは、第1次世界大戦時に似島(広島市南区)の捕虜収容所に送られたドイツ軍の守備隊兵士たちです。彼らの母国でさえ知られていない事実かもしれませんが、こうした歴史を知ることで、クラブがなぜ今のサッカースタイルになっているのかなどを理解しやすくなると思います」

 さらに、紆余曲折の歴史も現在のJリーグを理解するうえで欠かせない情報だと考える。

「Jリーグの海外SNSはほぼポジティブなネタしか扱っていません。しかし、横浜フリューゲルスなどの“黒歴史”もリーグや各クラブの現在につながっているのは間違いなく、そういう事実に共感できる海外ファンも少なくないはずです」

 歴史に代表されるクラブの背景を深く知るからこそ、チャントやゲートフラッグといった細部への理解にもつながり、「Jリーグを倍楽しめる」とオロウィッツ氏は語る。

英語でのチケット販売「なぜ全クラブできていない」

 Jリーグ人気を高めていくうえで、先述の情報発信だけでなく来日した海外サッカーファンの動員にも力を入れることが必要なのは言うまでもない。日本政府観光局が発表した「訪日外客数」によると、訪日外国人の数は月平均で約300万人(2024年1月〜7月=2107万5024人)。その数%でもスタジアムに足を運べば、決して小さくない経済効果が期待される。

 これについては、オロウィッツ氏も「インバウンドのために(リーグやクラブは)もっとアピールできることがあるはず」と訴える。「日本は海外と比べてチケット代が安く、スタジアムグルメも美味しく、建物そのものを含めてスタジアムの雰囲気はいい」。これだけでなく、試合運営はスムーズで会場の安全性も高いなどすでにJリーグを取り巻く魅力は十分だ。

 では、訪日した海外サッカーファンの動員に向けた課題とは? オロウィッツ氏が指摘するのが、「チケット購入」についてだ。

「Jリーグで、英語によるチケット販売に対応できているクラブ数は非常に限定的な印象です。なぜ、全クラブできていないのか……。これはSNSでよく尋ねられることで、個人的にも将来貢献できればと考えている分野です」

 日本が誇る国内リーグの魅力をより広くリーチさせていく。そのために、早急な対応が求められているようだ。

[プロフィール]
ダン・オロウィッツ/米ペンシルベニア州フィラデルフィア州出身、スポーツジャーナリスト。2004年に大学生として日本で留学を経験し、卒業後の06年末に再来日。翌年のJリーグ観戦で日本のサッカーに魅了され、11年からサッカーライターの道へ。国内外専門メディアを経て、18年から5年半余り英字新聞「ジャパンタイムズ」運動局に勤務。サッカーだけでなく、19年ラグビーワールドカップや、22年北京冬季オリンピックなどの取材も行った。現在はフリーランスとして活動している。(FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治 / Ryoji Yamauchi)